第4話 「地下道ダンジョンLv30。そして廃屋での出会い②」


 ◇


「ただ今の時刻はー、『4時12分』。……こりゃボスまでは無理だなー。行けるとしたら宝箱の回収ぐらいか」


 スマホの画面に映るダンジョンマップを確認しつつ、寿限ムは薄暗い地下道を進んでいた。目指す先はマップに示された宝箱の位置だ。道中のモンスターを倒して経験値を稼ぎつつ、寿限ムはジメジメした地下道のコンクリの道を歩き続ける。

 ジョブのLv上げが最優先とは言っても、せっかくなら攻略できる分はしておいた方がお得だしなー。にしても……


「なーんか誰かに見られてる気がするんだけど……」


 背後に感じるこの視線。モンスターの視線とはまた違った、ねちっこい視線だ。なんせアイツらはこっちを見つけたらすぐ襲って来るもんな。

 けどこの視線は……ずっとこっちを見つめたまま、何のアクションも起こして来ない。その分よっぽどモンスターより不気味だ。


 ……まさか幽霊か? 

 寿限ムはバッと振り返る。薄暗い地下道に、先が見通せない闇が広がっていた。


 …………。


 フッ、と寿限ムは笑みを浮かべる。


「どこのどいつか知らねーが、せっかく『観客』がいるんなら……一つ派手にやってやるか!」


 そして寿限ムは前方から接近してくるゴブリン6匹に囲まれて見せると、切った張ったの大立ち回りを始めるのだった……


 ◇


「……まだいるのか? ここまで来たら完全につけてるなー、俺のこと」


 囲んできたゴブリン6匹も無事倒し、さらに先に進んだ寿限ムだったが、まだ背後に感じる視線は消えなかった。

 ここまで何度も横道に入って、ワザと宝箱への最短距離から外れたりしてきたのだ。偶然という線はほぼゼロと言っていいだろう。


 ……少し、試してみるか。


「あ痛たたた! 痛っ! 痛っったっ!」


 突然叫び出したかと思うと、寿限ムはその場にしゃがみ込む。

 ……もちろんフリである。だが目の前の人が急に苦しみだしたとしたら、普通はどうするだろうか?


 もし視線の主が、ただの通りすがりなら……? きっと助けに寄ってくるだろう。

 しかし、強盗の類なら……? 獲物が弱っているのだから、今がチャンスとばかりに襲ってくるに違いない。だったら、そこを返り討ちにすればいい。


 ──間違いなく、これで釣れる……! と思いきや。


 しかしいくら寿限ムが苦しむふりを続けても、一向に誰も近づく気配はなかったのだった。……まさか、気のせいだったのか? もしくは本物の幽霊か。


 そして寿限ムは諦めると、何事も無かったかのようにスッと立ち上がる。


「幽霊か……マジの幽霊か……」


 背中にネチネチした視線を感じながら、薄暗い地下道を進むのだった……


 ◇


 ──そして、それから数十分後。寿限ムは宝箱の前に到着したのだった。


 さっそく寿限ムは宝箱の蓋を持ち上げて、中身を確かめる。どれどれ……中に入っていたのは、装備アイテムか。

 名前は『カカシの盾』。レア度はD。効果は『装備者のヘイト値を増加させる』。『防御上昇』は<小>か。うーん……当たりか? コレ。

 

「盾か……騎士になら使えるか? ……騎士なんて使ったことないけど」


 ……ま、これでひとまず今日のダンジョン攻略の目標は達成だな。

 これ以上長居していると、お化けに襲われそうだ。さっさと引き上げるとするか。


 そして寿限ムは元来た道を引き返し、ダンジョンの入り口まで帰還する。階段を上ると廃屋の風呂場の中だ。ボロボロの窓の外から夕焼け空が覗いていた。

 ……よし、時間ピッタシだな。想定通りに夕方には戻ることが出来た。さてと、『避難地区コロニー』に戻るとするか。


 そして廃屋の外へ出ようとする寿限無だったが……しかし、廊下の途中で立ち止まるのだった。幽霊と出くわした……という訳ではない。



「あの……すみません、『探索者さん』、ですよね?」



 それは透き通るような少女の声だった。

 まるで寿限ムを待ち構えていたかのように、その少女は廊下の真ん中に立ち、こちらをジッと見つめている。

 着ているのは『学校の制服』だろうか? 落ち着いた雰囲気の、清楚な見た目をした美少女がそこにいた。三つ編みおさげの、眼鏡を掛けた女学生である。


 そんな少女は夕日に照らされて、どこか"ミステリアスな雰囲気"を纏っていた。


「まあ一応、探索者だけどー。……一体、何の用ですかねー?」


 そう言って寿限ムは声を張り上げる。なぜそんなに大声を上げるのか。それは……


 あの少女、一見普通の女子高生に見えるが……明らかに怪しい。

 どう考えてもあまりにもタイミングが良すぎるのだ。ちょうど寿限ムがダンジョンから出てすぐの、このタイミング。

 ……明らかに、待ち伏せだよな? そう思って寿限ムは、廊下の先に少女が見えた時点で足を止めていたのである。カシコイ!

 

「ちょっと、どうして後ろに下がるんですか!?」

「そっちが待ち伏せしてるからだろ? ダンジョンの中でも、俺のことつけてたよなー?」


 寿限ムはそう言って鎌をかけてみる。いや、確証はないが、明らかにコイツだろ。ダンジョンでつけてきたからこそ、待ち伏せが出来たわけだし。

 すると少女はあっさりと認めるのだった。


「……やっぱり気づいていましたか。はい、つけてました。……って、だから後ろに下がらないでくださいって言ってるじゃないですか! 怪しい者じゃありません!」

「じゃあ、どういうつもりだよ」


 ジリジリとにじり寄ってくる少女に向けて、寿限ムは後ずさりながら訊ねる。いや『下がらないで』なんて言われても、不審者相手だし。


 …………。


 2人の間に、気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、少女の方だった。



「──貴方を見込んでお願いがあります! 私を、東京に連れて行ってください!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る