第46話 「激闘を終えて」

 ◇


「ハァ、ハァ……マジで疲れた……」


 オーガとの死闘を終えた後、寿限ムはストンと力無く地面に座り込む。

 張り詰めた緊張感から解放された瞬間、急にドッと疲れが襲ってきた。マジでしんどい……さすがに無茶をし過ぎたな。


 特に最後はヤバかった、正直死んだと思った。けど……

 


「アハハ、アハハハハ……!」


 そう思うと、何故か笑いが込み上げてきた。

 理由は分からない。でも──今まで生きてきた中で、今ほど自分の『生』を、『命』を実感できた瞬間はない。間違いなく断言できる。


 ──あのオーガに勝った。それも、正面からの殴り合いで。


 知らなかった。自分にこんな力があったなんて。ノリで正面から打ち合いを始めちゃったけど、まさかあのオーガの猛攻を最後まで防ぎきっちゃうなんてな。

 なんせ、初めて全力を出したんだ……これまでの人生で、全力を出せるようなことは何もなかった。それができる環境も……『高い壁を乗り越える』って、こんなに楽しかったんだな。そのことを生まれて初めて知った。それも全て、オーガのおかげだ。


 ──ありがとう、オーガ……


 けど、それはそれとして……


「全力を出すってのは大変だな……疲れた。そうだ、寝よう。生成クラフトのクールタイムは過ぎたからな。ベッドでも作って……生成クラフト『ふかふかのベッド』」


 そう呟くと、寿限ムの目の前に『特大のふかふかベッド』が現れる。

 寿限ムは何とか立ち上がると、ベッドの上に寝転がった。


「……もう動けない。最高だ。寝よ……すぅ、すぅ……」


 そして寿限ムは疲れ切った身体そのままに、ベッドの上で爆睡するのだった。


 ◇


「やっほー! ジュゲムんおめでとー☆ ……あれ?」


 ──戦いが終わり寿限ムの元にやってきた令と戻子が目にしたのは、森の中にポツンと置かれたキングサイズのベッドの上で爆睡する寿限ムの姿だった。


 ベッドの上の寿限ムは、これ以上ないほど気持ちよさそうに眠っている。


 おそらくこのベッドは寿限ムが『生成クラフト』のスキルで作り出したものだろう。そして、この光景を目にした令が一言。


「森の中、木漏れ日が落ちるベッド……何だかCMのイメージ映像みたいだ」

「……『マイナスイオン』的な? そう言われるとすっごく気持ちよさそうだね☆」

「うん……」


 そして令と戻子はしばらくその光景を眺めていたのだが、


「このままジュゲムんを起こすのも悪いし……コレ、一緒に寝てみない? 気持ち良さそうだし☆」

「うーん……それ、有り」


 令と戻子は2人で寿限ムを挟むようにして、ベッドの上に横になる。

 そして川の字になった3人は、森の中でスヤスヤと眠るのだった……


 ◇


 ──そして、それから数十分後。


「むぅ……何だ……何か、あるな……」


 ベッドの上で寝返りを打とうとした寿限ムの身体が、何かにぶつかる。

 ……何だコレ? そして寿限ムは、を掴む。


「んっ……♡」

「あ……♡」


 ……なんだ? 声? そして寿限ムは重たい瞼を上げて横を向く。

 そこには至近距離に令がいた。そして反対側を向くと、戻子がいる。

 

 ──何で? いつの間に2人が? いや、そんなことより。


 ……これは、困った。なぜならこのままだと、が打てないから……!

 いい加減、背中が痛い。寝返りが打ちたい。


「……起きるか」


 そして寿限ムは渋々、身体を起こすのだった。

 うわ……体が重てえ。少しはマシになったが、疲れがまだ全然残っている。

 

「おい、起きろー2人とも」


 そして寿限ムは、横で寝る2人の身体を揺さぶるのだった。


「あー、おはよ……」

「はいはい、起きろ起きろ。ってか、何でお前たちまで寝てんだ」

「んー? ……ほら、起こすのも悪いじゃん? ジュゲムん気持ちよさそーに寝てたし。だから、ねちゃえー☆ って」

「正直森の中でベッドで寝る体験、してみたかった」

「……そうか、なら仕方ないなー」


 寝起きの3人がベッドの上に座りながら、ポツポツと言葉を交わす。ボーっとした頭で繰り広げられる3人の会話は、とりとめのないスローテンポなものだった。


 しかし寿限ムの頭は、徐々に覚醒してくる。


「って、そう言えばオーガは!?」

「ん? 倒したよジュゲムんが」

「……そうか! そうだったな……」


 あまりにもボーっとしていて忘れていた。

 そして寿限ムはボーっとした頭でようやく思い出す。オーガとの激闘の記憶を。

 そう言えば……寿限ムはオーガとの戦いで、後悔していることがあった。


「完封できなかったな……あれだけ宣言したのに」


 開幕『……宣言してやるよ。この勝負──俺の完封勝ちだから』なんて言った割には、ガッツリHPを削られてしまった訳で。

 モヤモヤしたものが寿限ムの心の中に引っかかったままだったのだ。


 ……しかしそんな寿限ムに、令は言う。


「ううん。あの戦い、完封よりずっとカッコ良かったよ」

「……そうか?」

「うんうん。ジュゲムん、超カッコ良かった☆ ……私の『お嫁さん』にしてあげてもいいよ?」

「はいはい、それはどーも」


 そして3人はベッドから降りる。


「よーし早速、肝心の、取りにいかないとね☆」

「『アレ』? ……何だっけ」


 戻子の言葉に、寿限ムは首を傾げる。……本当に何だっけ?

 すると戻子は、大きな声でツッコミを入れる。


「うなぎだよー! うー・なー・ぎー!」

「……あ、フツーに忘れてた。オーガのことで頭一杯だったからな……」

「普通忘れるかな……目的なのに。面白いね、君」


 ……いやホント、すまねーうな丼。それじゃ、早速取りに行きますか!



 ──という訳で寿限ムたち3人は、大樹の前まで来ていた。

 令と戻子の2人によれば、この木の洞に宝箱が置いてあったらしい。

 そして2人の言う通り、木の側面に大きく空いた穴の中に宝箱が置いてあった。


「この中にうなぎが入ってるんだよな……」


 ……ゴクリ。そして寿限ムは期待に胸を高鳴らせ、宝箱を開封する。

 アイテムが直接アイテムボックスに送られる。その数……『うなぎ×30』。


「うなぎ30匹……! これって多いのか? 多いよな!?」 

「おー、上振れを引いたねー☆」


 どうやらこれは大当たりらしい。やったぜ!

 そして試しに寿限ムは、うなぎを1匹アイテムボックスから取り出してみる。


 黒光りする細長い生き物が、寿限ムの手元に現れた。

 

「ぬるぬるだ……ぬるぬる! ……これ、生きてるのか?」

「生きてるっぽいねー」

「……ふーん、『生きてるタイプ』だったか」


 令によると宝箱から手に入る食糧は、生き物の場合『生きているパターン』、『切り身とかになっているパターン』等があるらしい。……ふーん、なるほどな。


 ……と、そんなことより。


「──よっしゃ、うなぎゲットだぜ!」

「とったどー!」

「イエーイ☆」


 ──そんなこんなで、寿限ムたち3人は念願のうなぎを手に入れたのだった……


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