第45話 「寿限ム VS オーガ➃──"決着"」

 ◇


 ──『超気功拳』の一撃で朦朧とする意識の中、オーガは幻を見ていた。


 それは繰り返す輪廻の、前世か前々世か。オーガの記憶……。




 ……モンスターに生まれて、モンスターとして死ぬ。

 しかしオーガには"誇り"があった。モンスターという"種"を越えた誇りが。


 それは──"強さ"という誇り。

 生まれながらにして『強者』であったオーガにとって、"強さ"こそが自己を成り立たせるそのものだった。



 ──雪の降る日。ビルが立ち並ぶ大都市にて。


 そこでオーガは『物を創造する強敵』を打ち破る。

 オーガは畏敬の念を感じていた。たった一人で自分に立ち向かったその人間に。

 これまでの破れかぶれの人間ではない。最後まで、自分に勝つつもりだった。


 次に現れたのは『黒い剣士』だった。

 オーガは新たな強敵の出現に歓喜し、そして襲い掛かる……


 しかしその戦いのさなか、がオーガに降り注ぐ。

 ビルの窓、歩道橋の上、木の陰……弓矢を構える何十、何百人もの人間。


 1対1の対決を阻まれ、オーガは全身に矢を体に受ける。

 "強さ"で負けるのならば、認めることもできよう。だが……


 ──これは断じて"強さ"などではない。断じて、絶対に。


 そして失意のままに、一方的に敗北するのだった……


 ◇


 そしてオーガは意識を取り戻す。

 目の前には、あの時屠った強敵。素手で拳を構え、オーガのことを待っている。


 オーガはむき出しの歯で、歓喜の笑みを浮かべる。

 

 そして──両者は激突するのだった。


 ◇


 寿限ムとオーガは、極至近距離で拳の応酬を繰り広げる。


 ──オーガの圧倒的破壊力の拳が地面を砕く。

 寿限ムはそれに間一髪で躱すと、握り拳で1発、2発と叩き込んだ。

 

 一撃必殺の威力を誇るオーガに対し、寿限ムがフットワークでかき乱す。


 スキル『エンハンス<武>』の仕様上、与える打撃が的確なら的確であるほどダメージを増加させる。逆に言えば、


 ──オーガのラッシュ! 地面に撃ち込まれる無数の拳、その一つ一つが必殺の一撃だ! 土煙が辺り一面に舞う。


 しかしその直後、寿限ムはオーガの背後に現れると、スキルを発動。


「──『セイケン』!」


 フルオートの達人の動きから放たれる、渾身の右ストレートがオーガの脚部に撃ち込まれる! 『バシンッ!』と大きな打撃音が鳴り響いた。


「GUAAAAAA!!!」


 オーガは叫び声を上げた。あれほどバズーカを当てても表情一つ変えなかったオーガが、である。そしてオーガは振り向きざまに蹴りをかますが、寿限ムは瞬時の判断で右後方に飛び退き、間一髪で躱す。ニヤリとその顔には笑みが浮かんでいた。


 ──攻防は一進一退。しかし、戦況は着実に寿限ム有利に動いていた……


 ◇


 そしてその様子を、令は大樹の枝の上から見つめていた。

 目の前で行われている攻防……これは正気の沙汰じゃない。普通に考えれば、オーガがピヨッた時点で距離を取ってバズーカで爆撃すれば、それで勝利だったはず。

 

 ……しかし、彼はそれをしなかった。出来る立場にあったにもかかわらず、敢えてそうしなかったのである。


 それが『熱血』なのか、『騎士道精神』なのか、それは本人にしか分からない。

 けれど、令にも一つだけ分かることがある。


「……間違いない。ジュゲムは僕たちとだ。…………!」


 ◇


 寿限ムはこれまでのオーガとの戦闘の中で、いわゆる『ゾーン』に入っていた。疲労は既に感じていない。神経は研ぎ澄まされ、オーガの一挙手一投足を捉えている。


 オーガもベストパフォーマンスだった。自らが望む1対1の戦闘で、思うがままに戦えていた。己が"強さ"を存分に振るっていた。


 ──そして、その時が訪れる。


 オーガのHPは残り僅か。しかしその動きは落ち着いている。その眼は虎視眈々と一発逆転の一撃を狙っていた。


 そして降り注ぐ、巨大な拳──生成クラフトのクールタイムは、あと12秒。


 ──恐ろしい風圧だ。寿限ムは真っすぐ前を見据える。

 

 ──回避は? 間に合わない。ならば──!



「──『セイケン』!」 



 2つの拳が真正面からぶつかり合う! 

 オーガの起死回生の一撃と、寿限ムの渾身の一撃! 


 そして辺り一面の木が揺れる。衝突の余波は凄まじいものだった。


「……ダメージの相殺だ!」


 令が叫ぶ。

 拳がぶつかり合う──その瞬間起こる、ダメージの相殺。オーガが受けるはずのダメージ、寿限ムが受けるはずのダメージがそれぞれ打ち消し合う。


 そして残ったのは──


「……ぐっ、それでも2割持ってかれたか。だが!」


 それでも寿限ムは止まらない。

 跳躍! オーガの右腕を駆け上がり、さらに跳躍!


 ──目の前にはオーガの顔面。不意を突かれたような表情がそこにはあった。

 そして、寿限ムは叫ぶ。



「──『カゲン』!」



 下弦の月のごとき軌道で、寿限ムはオーガの顔面を蹴る!


 ──それが、フィニッシュブローとなった。


 オーガはゆっくりと、後方に倒れる。そして、ニヤリと笑った。

 ……やがて、オーガの肉体が消滅する。



「フッ、最後に、満足そうな顔をしやがって……」


 そのオーガの死に顔を見て、寿限ムは呟くのだった……




【リザルト:『オーガ討伐完了』EXP獲得(7001/6769)▼】

【LvUP!:Congratulation! Lv38→Lv40↑▼】

【実績解除:『鬼人狩り』特典が付与されます。スキル【オーガの好敵手】▼】



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【オーガの好敵手】

<効果>

①『武道家マーシャルアーティスト』系のジョブの取得経験値上昇

②一部『武道家』系スキルの威力向上

③『鬼人』系装備のステータス補正値の上昇

➃隠しジョブ『???』の取得条件[1/4]

<取得条件>

・『武道家マーシャルアーティスト』系のジョブで、自身より高Lvのオーガを単身ソロ討伐する

(0.0000001%のプレイヤーがこの実績を達成済)

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