第44話 「寿限ム VS オーガ③」

 ◇


「──石!?」


 寿限ムが叫ぶ。背後に見えるオーガが、今まさに石を投擲しようとしていた。


 ──アレを当てようっていうのか!? だが、それは無意味なはず……!


 ……石にしても何にしても、物を投擲してダメージを与えるには『投擲スキル』を所持していなければならない。

 寿限ムが持つジョブで言えば『砲撃手キャノニア』がそれに相当する。逆にいくら腕力が強くても、『格闘家ファイター』が石を投擲しても有効なダメージを与えられないのだ。

 

 しかしオーガは、構わず石を投擲する。

 投擲された石は、しかし寿限ムの横を通過した。狙いは、俺じゃない……!?


 ──果たしてその狙いは、すぐに判明した。


 狙いはの方だったのだ。石はものの見事に木を粉砕し、括りつけられたゴム紐はそのまま支点を失う。


「ぐっ、そういうことか……!」


 空中に投げ出された寿限ムが、森の地面を転がる。


 ──やられたッ……! 距離を稼げなかった……!


 オーガの狙いはダメージではなく、初めから『フィールド破壊』だったのだ。

 寿限ムのジャンプはゴムの収縮を利用したもの。支点となる木が破壊されれば、当然ジャンプは失敗する……!


 ジャンプの距離は想定の半分以下で終わった。

 ……!


「あーモドコが『フラグ』を立てるから……」

「……え!? 私のせい!?」


 そしてその頃、大樹の上では戻子が令に責められていた。


 閑話休題。

 オーガが大地を蹴る。寿限ムは急いで立ち上がり、森の中を全力疾走する。


 ──俺に残された道はただ一つ、5分間耐えること。


 俺にはまだ『』が残っている。5分間耐えきれば、勝機はまだある……!

 

 そして寿限ムはアイテムボックスからバズーカを取り出すと、トリガーを引く。


 そっちがその気なら、こっちもフィールドを利用させてもらうまで! このバズーカ……狙いはダメージじゃない、バズーカの爆風だ! 

 木に着弾したバズーカ弾が、爆風を巻き起こす。爆風による目くらまし──そしてその間に、寿限ムは茂みの中へ突入する!


 確かにオーガにはマーキングがある。いつでもこっちの場所を把握できるのだ。

 しかしそれでも視界から外れれば、僅かでも時間を稼げる。その隙に、少しでも距離を稼ぐしかない……!

 

 そして寿限ムは顔に枝が当たるのもお構いなしに、全力で茂みの中をかき分けて前に進む。


 ……一方でオーガは、寿限ムが消えた森の中を見回していた。


 オーガはマーキングスキルを発動、気配を探る……オーガの視界に、モヤモヤした"オーラ"のようなものが見える。それは寿限ムの位置を知らせる目印だった。

 

 オーラが見えたのは、茂みのある方角だった。

 ──ニヤリ。オーガが笑みを浮かべる。



 寿限ムは茂みの中を全力で走っていた。

 そして背後からは、木をなぎ倒しながら直進するオーガの姿が見える。障害物などお構いなしに、ただ直進する『力の化身』がそこにはいた。


 何という恐ろしい光景だろうか……怖気おぞけがする。


 くっ……マジでどういう化け物だよ! けど、絶対に負ける訳にはいかない。まだ手はある。クールタイムさえ稼げれば……!


 ◇


 ──そして現在。オーガは茂みの中で寿限ムを見失っていた。


 これで数度目か。見失ってはマーキングスキルで見つける、そのイタチごっこだった。オーガはマーキングスキルを発動、寿限ムのオーラの気配を探る。


 今度はオーラの気配が大きい。それはすぐ近くにいる証拠だった。


 近い……いや、近いどころの話ではない。


 一撃でオーガの攻撃が届く距離に、寿限ムはいる。諦めたのか、それとも先に肉体が限界を迎えたのか……しかしどちらにせよ、鬼ごっこはこれで終わりだ。


「GUOOOOO!!!!」


 オーガは雄たけびを上げながら、茂みの中に突っ込む。


 その瞬間オーガの視界に入ったのは──。オーガはそれが何なのかを知らない。オーガはお構いなしに拳を振り下ろす。寿限ムが居るであろう、その場所に。


 ──それは寿限ムが生成クラフトしたものだった。


 逃げるためのゴム紐などではない。

 


 ……それはだった。


 そして寿限ムの今のジョブは『砲撃手キャノニア』ではない、『格闘家ファイター』である……!



 ──""



 ──見なくても視えるんだよな、俺の場所が! 

 ──それがお前の強みでもあり、弱点でもある!


 ──これが今の俺の最大火力だ!



「──『超気功拳』ッッッ!」



 ──轟!!!! 爆音と共に、風圧が木々を揺り動かす。


 寿限ムの拳は、果たしてオーガに直撃していた。


 それは恐ろしい衝撃だった。オーガは地面に足を踏ん張りながら、ガリガリと後退する。その背中は木をなぎ倒し、幾つかの倒木を生み出す。そして、膝をつくオーガ……。 

 ハズレスキルだと思われていた『超気功拳』が、一撃でオーガを吹き飛ばしたのだ! 

 ──オーガのHP、残り2割!


「ハァ、ハァ……どうだ、ぶちかましてやったぞ……」


 とはいえ寿限ムの方も満身創痍だった。HPは満タンなものの、走り続けた疲労はピークに達している。



 ──そして大樹の上では、令と戻子は大盛り上がりだった。


「すごっ……ジュゲムん、一撃で逆転しちゃった」

「思いついても普通やるかな、土壇場であんなの……」

「でもこれでオーガはピヨリ状態! この隙に距離を取れば、ジュゲムんの勝ちじゃん! あ……。これ、『フラグ』じゃないよね?」

「…………」


 令がジト目で戻子を見つめる。


 そして戻子の言う通り──オーガは一撃で大きくHPが削れたことにより、一時的なスタン状態、いわゆる『ピヨリ状態』となっていた。


 片膝を付き、地面に諸手を付く。

 このまま距離を取れば、寿限ムは宣言通り完封勝利である──!


 ──しかし。


 朦朧とする意識の中で、オーガは寿限ムを睨みつける。


 …………。


 ──奴は、『』……


 ──このまま遠くから爆撃したところで、本当に勝ったと言えるのか? 

 ──おとこおとこの戦いの結末が、そんなもので本当にいいのか?



「ハハッ……いい訳ないよな……んなもん」


 正面から打ち倒す、それでこそ本当に勝ったと言えるハズだ。

 丁度いいことに、オーガのHPは残り2割。本来5人パーティで挑むとするならば、これで丁度1人分という訳だ。


 フッ、これでお互い、5分と5分だな……!

 そして寿限ムは足を止めると、拳を構える。



「いいぜ、そんなにりたいなら……!」

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