第41話 「噂には尾ひれが付くもので」

 ◇


 そして──それからしばらく『砲撃手キャノニア』寿限ムは、ダンジョンの森の中でひたすらゴブリンを爆殺し続けたのだった。

 動き回りながら狙いを定める感覚、こればっかりは体で覚えるしかない。


 ──腕で狙いを定めにいくのではなく、体全体で狙いを定める! 


 ……こうすることにより、常に相手は自分の正面にいることになる。


 攻撃し続けたいなら、相手のさらなる動きに対応しなければならない。だからこそ、相手を正面に置いておくことに意味がある……んだと思う。たぶん!


 ……少なくとも寿限ムに関しては、この方法を確立してから命中精度がすこぶる上昇した。おそらく自分のスタイルに合っていたのだろう。


「アム〇・レイの再来だ……もぐもぐ」


 令はそんな寿限ムを眺めながら、差し入れに持ってきた饅頭まんじゅうを頬張る。

 ……それから少しして、寿限ムは令と戻子が来ていることに気づくのだった。


「……マジか! ちょうどお腹がすいてたんだよな! サンキュー」


 寿限ムは差し入れの饅頭を受け取る。そして頬張るのだった。……うん、美味い。


「にしても最近よく来てくれるよな。……もしかして、2人とも暇なのか?」

「うん、暇だね」

「暇つぶしだねー。ルーキーが頑張ってるのを見るのが一番楽しいしー☆」


 それから再び寿限ムは、打倒オーガに向けて『砲撃手キャノニア』の訓練を再開する。

 ふと横を見ると、こっちに手を振る美少女2人の姿が見える。寿限ムはそれにピースで答える。


 ──そしてそれから、バズーカのドンパチは数時間にも渡って続いたのだった……


 ◇


「……最近、『活きの良いルーキー』がいるんだって?」


 神社の境内の一角──そこでは探索者たちが集まって、普段通りアイテムのトレードや情報交換に励んでいたのだが……ふとその中の一人がそう切り出す。

 それは最近この近辺の探索者の間で噂になっていた話題だった。

 木陰で愛剣を磨いていた男が答える。


「ああ。"銀髪黒スーツ"の奴だろ? ここ最近この辺りのダンジョンで見かけるようになったんだが……俺の見立てだと、あれは相当有望だね」

「そんなにか?」

「そうともさ! 最近のルーキーはどいつもこいつも遠距離ばかりでいかん。その点、その"銀髪黒スーツ"は『格闘家ファイター』で敵に突っ込んでいくんだからな! ……まさしくダイヤの原石だ。アレは伸びるよ間違いなく。今後が楽しみだね」

「ほう、"鉄剣"の鉄さんにそこまで言わせるか! たしか『無所属』なんだろ? その子。だったらウチに声を掛けてみるか……」


 ……と男が言いかけた、その時。

 ──噂の"銀髪黒スーツ"の少年が境内に入ってきたのだった。

 立ち上がり、声を掛けようとする男──しかしその少年の後ろに続く"2人の少女"の姿を見ると、慌てて足を止める。


「おい見ろ! あれ……」

「例の『旅団』のメンバーだ……!」

「あれは確か……"蒼眼の死神"と"黒騎士"か! ……本拠地はたしか東京だろ!? どうしてこんなところに……」


 ざわつく探索者たちだったが、一人キョトンと事態を把握できない青年がいた。

 青年は周りの探索者に訊ねる。


「え? どうしたんですか? あの二人、そんなに大物なんですか?」 

「ああ、大物も大物だよ……!」


 和服姿の少女……山田・アイリス・ツカサ。──通称"蒼眼の死神"。


 ……東京の"闘技場コロセウム"の頂点に君臨する10人の1人。"対人戦PVP"の超エキスパートだが、普段は滅多に表に出てこない。噂によれば裏で暗殺者アサシンとして大暴れしているとか。そこで付いたあだ名が、"蒼眼の死神"だ。


 ギャル風の少女……冴木 戻子モドコ。──通称"黒騎士"。


 ……死神が"対人戦PVP"のエキスパートなら、黒騎士は"対モンスターPVE"の超エキスパートだ。『レッド・ドラゴン』の単身ソロ討伐で探索者界に名を轟かせた彼女は、今もなお対等に戦える相手を探してダンジョンを彷徨っているとか……。彼女の纏う黒い鎧は火竜の炎ですら阻む。そこで付いたあだ名が、"黒騎士"だ。


 そして……その2人を束ねるギルドこそ『新世界旅団』。──通称"旅団"だ。


「東京の話だから、伝え聞きになるが……あそこのギルマスは相当恐ろしいと聞く。この前も一つ、立てついたギルドが潰されたとか」

「ひぇ~おっかね~!」

「……声かけるのやめとこ。秘蔵っ子に手を出したらどうなるか分からないもんな」


 ──そう言って探索者たちは、そそくさと退散する。



 ……しかして、一方その頃。


「……?」


 その様子を見つめる着物少女は、不思議そうに首を傾げるのだった。



 ……ちなみに令に関するヒソヒソ話はおおむね事実だったが、唯一『暗殺者』の部分に関しては完全に事実無根だった。


 彼女が表に出てこないのは単にWeb漫画家として活動しているからにすぎないのだが……そのミステリアスさが高じて、『裏で暗殺者として暗躍している』と尾ひれが付いてしまったのである。


 戻子についても同様で、別にダンジョンを彷徨っているとかではなく、単にオタクとしてまっとうに趣味に没頭しているだけなのだが……


 ──当の本人たちはそんな噂を立てられているとは、知る由もない……


 ◇


「──『ジョウダン』!」


 寿限ムが叫ぶとスキルが発動。自動で寿限ムの身体が上段蹴りのモーションをトレースする。

 スキル『ジョウダン』は『格闘家ファイター』における対空スキルだ。鋭い足蹴りで小規模なソニックブームを発生させ、より広い範囲に攻撃を命中させる。


 狙うは上空に浮遊する『カースド・マミー(Lv41)』だ。

 外見は包帯でぐるぐる巻きにされたミイラだが、呪いの力で浮遊して動く。包帯を鞭のようにしならせてのオールレンジ攻撃が特徴だ。


 ──攻撃は厄介だが所詮は布切れ。やられる前にやってしまえば問題はない!


 寿限ムの放ったソニックブームが包帯を切り裂く! ミイラの中身は果たして空洞だった。そしてカースド・マミーは経験値を残して消滅する。


【リザルト:『カースド・マミー討伐完了』EXP獲得(6023/6009)▼】

【LvUP!:Congratulation! Lv37→Lv38↑▼】


「──よしっ、討伐成功!」


 アパート付近に徘徊する高Lvモンスター『カースド・マミー』をこれで討伐だ!

 初めてここに来た時は『君より強いモンスターがうようよ居るから』なんて言われていたアパート周辺も、今では問題なく一人で探索することが出来ている。


 これでこの付近の高Lvモンスターはあらかた倒した。


 ……あとは、残るは"オーガ"だけだ。

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