第40話 「いわゆる『修行パート』的なヤツ」


 ──それから寿限ムは、くるりと踵を返すと


 それを見て令は、拍子抜けした様子で言うのだった。


「……あ、戦わないんだ。意外と冷静」

「そりゃそーだろ。アイツが強いことは俺が良く知ってる。ここに来ればいつでも戦えるんだろ? ……だったら、勝てるようになってから出直す」

「……え? じゃあうなぎは?」

「今日は無し! ……ていうか俺が勝つまでお預けだ! モドコもうなぎ欲しさに勝手に倒すんじゃないぞー」

「えー! うなぎうなぎー!」


 そして名残惜しげにボス部屋の方角を見つめる戻子を引っ張り、寿限ムはダンジョンの外に出るのだった。プールサイドを歩きながら、寿限ムはギュっと拳を握り締める。

 

 ──オーガ。あの時のお前の姿は、今でも目に焼き付いている。まさに絶対理不尽、圧倒的暴力。本当に、最強だと思ったよ。あの時の俺は一撃だった。

 けどな、あの時は無理ゲーだったかもしれないけど、今は違う。ジョブチェンジ、新装備、新スキル……あれもコレも全部、あの時には無かったモノだ。

 確かに今の俺にはオーガアイツに勝てる実力はない。だが、諦めるつもりも一切ない。 


 ──絶対、アイツに勝ってやる!


 そしてその日から、寿限ムのが始まったのだった……


 ◇


 2年越しのリベンジだ。

 まずは絶対条件。令と戻子、2人の力を借りずに自分の力で倒したい。……これは譲れないな。自分の力で勝てなきゃ、俺が勝ったとはいえないから。

 なんせ、俺はアイツの一撃で一度死んでるんだ。自分の手でやり返さなきゃ気が済まない。


 それに……一度やられている分、寿限ムにとってオーガは、ある意味『絶対的な存在』になっていた。"強敵"と書いて"友"と呼ぶ。そんな存在があっさりやられる姿を見せられたらどう思うよ? 俺、多分泣くかもしれない。


 令や戻子のLvなら難なく倒せるかもしれないけど、そんなオーガの姿、見たくない。

 ……絶対的な存在だからこそ、自分の手でぶっ倒したい。


 今は勝つための作戦を考える。

 そして古アパートの一室。寿限ムはノートの前に座り込みながら、必死に思考を巡らせていた。勝つ方法……肉弾戦は不利だ。『格闘家ファイター』じゃ勝てない。『盾持ちスクワイア』も同じ。……だとしたら『砲撃手キャノニア』か?


 でも……だとしても、それでどうやって勝つ?


 ──組み合わせろ、今まで出てきた情報を!


 ……アイテム、Lv、スキル、ジョブチェンジ……この中のどこかに、あのオーガを倒す秘策が隠れているハズだ!



「……おー、ジュゲムんメチャクチャ真剣じゃん」

「前世の因縁ってやつだね」


 令と戻子が、寿限ムの隣でひそひそ話を始める。

 しかしそれも、寿限ムの耳には届いていなかった。寿限ムの脳内に目まぐるしく駆け巡る数式、図形、どこで聞いたのかも知らない『偉い人の格言的な何か』!


「──出来た! 勝利の方程式だ!」


 そして寿限ムはペンを置く。

 ……ノートにはこう記されていた。



『1+1=200』……



 ◇


 ……さてと。作戦が決まったところで、次はその準備だ。

 

 ──という訳で、寿限ムはダンジョンに来ていた。


 目的はLv上げ、そして資金稼ぎだ。寿限ムが考えた作戦、それにはある程度のLvと金が必要なのである。

 ただしLv上げをするといっても、Lvを60とか70とかまで上げて順当に倒す──みたいなことはするつもりはない。Lv差で勝つなんて、要するにあの時のオーガと同じだ。いわゆる『圧倒的なLv差の暴力』。それで勝ったとしても、俺じゃなくて『Lvが勝った』だけだ。


「第一、時間がかかりすぎるしな……上げるとして、大体Lvは40ぐらいかな」


 ──現在Lvは3上がって27。これをあと、10上げる。


 ◇


 ──そして、それから数日後。


 寿限ムは名古屋の街を走っていた。

 片方の耳には令から借りたイヤホンを付けている。流れているのは、令にオススメされたBGMだ。何やら令によると『トレーニングにぴったり』らしい。


 寿限ムは良く知らないが、"とある名作映画で流れた"そのBGMを聴いているうちに、思わず走りたくなってしまったのだ。


 なるほど……これは盛り上がるな! 何故だか知らないけど、体を動かしたくなる。確かにトレーニングにはぴったりだ。


 ──シュシュ、ジャブを出しながらジョギングを続ける。


 ちょうどいい所に、公園を見つけた。寿限ムはその中に入ると、体を伏せて腕立て伏せを始める。体を片手で支え、素早く交互に入れ替える! 


 ああ次は、上体起こしだ……!


 

 ……そうしてしばらく汗を流した後、寿限ムはショッピングモールに入店。

 目当ては『探索者向けの取引窓口』だ。食糧を納品し、お金を受け取る。

 

 そしてショッピングモールを出ようとしたところで、令とばったり出くわしたのだった。


「……体を鍛えても、Lvを上げないと強くならないよ」

「よ、ツカサか。この音楽を聴いてたらつい鍛えたくなって。良い音楽だな!」

「うーん。逆効果だったか……『ヘビメタ』でも聴かせればよかったかな」

「まあまあ、別にサボってたわけじゃないぜ? 資金もこれで貯まったしな」


 ──そして寿限ムが次に向かったのは、神社だった。


 寿限ムは真っすぐ売店まで進み、目当てのものを手に取る。

 ……それは、バズーカだった。


「……軽い。生成クラフトで作ったヤツとは別物だ。うん。やっぱりこれならいける……」


 そして寿限ムは巫女さんに代金を払い、バズーカを購入する。

 鳥居で『砲撃手キャノニア』にジョブチェンジし、続いてダンジョンへ。

 広い森の中。オーガのいるダンジョンの序盤の部分である。


 ……まずは試し撃ちだ。


「──『装填リロード』」


 バズーカを右肩に担いで寿限ムが唱える。するとガシンと音が聞こえた。

 よし、装填完了。

 そして寿限ムは、遠くに見えるゴブリンに狙いを定めて引き金を引くのだった。


 ──BOMB! 見事命中。ま、ちゃんと狙いを定めればこんなもんだな。


 『砲撃手キャノニア』による遠距離攻撃、これは魅力だ。ゴブリン一匹程度なら反撃すら許さず一方的に倒してしまう。


「ただ、俺はで終わらないんだよなー。……よし、それじゃあ試してみるか」


 そして寿限ムは、もう一つのバズーカをアイテムボックスから取り出すのだった。

 両肩に1門ずつバズーカを構える。リアルなら不可能な戦闘スタイルだ。

 重量の問題、そして装填リロードの問題。しかしゲームならそれも可能!


 ──アイテムの『バズーカ』! これで一切重さを感じない!

 ──スキルでの『装填リロード』! これで弾をわざわざ手で詰めなくていい!


「おおー、"最終決戦仕様"だ……」


 ここまで黙って見ていた令が、ボソッと呟く。


 ……もう一度、今度はこのスタイルで試し撃ちだ。

 しっかし両肩にバズーカ、かなり動きづらいな。この試し撃ち、結果がなんとなく想像がつくなー。……けど、実際に試すのが大事って言うしな。


「──『装填リロード』」


 そして再び遭遇したゴブリンに対し、右のバズーカを発射! しかし──


 


 ──BOMB! 爆風がゴブリンを襲うが軽傷。こっちに向かってくる。


「ちっ、『砲撃手キャノニア』は近づかれるのが弱点なんだよな……もう一丁『装填リロード』!」


 今度は左のバズーカに『装填リロード』。そして跳べ! ジャンプだ! 今度はゴブリンよりも少し手前──地面に目がけて発射!


 ……『砲撃手キャノニア』は地味に敏捷が『C』もある。その敏捷を活かして、寿限ムはゴブリンとの間合いを取る。そして──


「おお、バズーカで『偏差射撃』……!」


 見事ゴブリンに着弾! 大ダメージを与えたのだった。


「……うーん、まだまだだな。このジョブを使うなら、もっと動きながらでも撃てるようにならないと。──よし、今から機動力を上げる特訓だ!」


 ◇


 そして寿限ムは『砲撃手キャノニア』の特訓の励む一方で、生成クラフトの特訓も行うのだった。

 俺の考えている作戦、それには『生成クラフト』の使い方がカギとなる。生成クラフトのクールタイムは5分。その5分が来るたびに、『砲撃手キャノニア』の特訓を中断して生成クラフトの特訓を始める。


生成クラフトに大事なのは、イメージ……! イメージしろ……!」


 寿限ムは森の中に座禅を組んで目を瞑ると、一生懸命イメージする。

 イメージするのは、姿


 ……あの時もそうだ。オーガに対してローションを生成クラフトした時、道を覆うほどの大量のローションを生成した。


 ──イメージは生成クラフトに反映される。それが今回の作戦のカギだ。


 しかし『結んだ紐』をイメージするのは、『大量のローション』をイメージするのとは訳が違う。複雑な形状、それがしっかりと構造的に機能するように思い浮かべる必要があるのだ。


 ただ量が多いとか、そんなのとは比べ物にならないほど難易度は高い。


「──『生成クラフト』! ……だめだ、ほとんど解けてる」


 今は成功率はほんの10%にも満たない。



「ま、こればっかりは練習するしかないよな。……よーし、次はバズーカの練習だ! ──見てろよ『最強オーガ』!」


 

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