第37話 「腹ごしらえと新ジョブ『格闘家』の初実戦」
◇
そろそろお昼時ということで、寿限ムたち3人は昼食をとることにした。
……というわけで3人がやってきたのは駅前。そしてこのデカい建物は駅前のショッピングモールである。駅は封鎖中にもかかわらず、広い店内は人で溢れていた。
客層はどちらかというと探索者より普通の格好をした人の方が多い。
なんとも小奇麗で、ツルツルピカピカの白い床に店の照明が反射していた。
まず入って最初に寿限ムの目に入ったのは、入り口付近に設置されている『探索者向けの取引窓口』だ。
『ダンジョン産高価買取中! 市内で一番高く買い取ります!』
……と、大きなのぼりに書かれている。
どうやらあそこでダンジョン産の食材だったりを買い取って貰えるらしい。そして買い取られた品物はそのまま店の商品になるというわけだ。
そしてそんなワイワイガヤガヤとした人の
「……困った、どうすればいいのかサッパリ分からん」
そして寿限ムはというと、初めての飲食店に戸惑っていた。
こういう時は、とりあえず沈黙。経験者の令と戻子の様子を黙って窺う。
そして寿限ムは理解する。フ……なるほど。この『メニュー』というのがゲームの『メニュー画面』と一緒という訳だな!(たぶん)
──そして寿限ムは無事『お子様ランチ』の注文に成功するのだった。
◇
「き、来た! 『お子様ランチ』が来たよー! あはは、可愛いー☆」
「なんで笑うんだ!? どう見ても見た目楽しげだろ!? だったら頼むだろ!」
「……ふふっ、あの大真面目な顔で『お子様ランチ』を頼むのは反則だよ……」
何故か令と戻子の二人に笑われてしまったが、美味しかったので問題無しッ!
ちなみに今ではどの店でもダンジョン産の食材を使用しているらしく、メニューにも『※こちらの商品はダンジョン産の食材を使用しています』と書かれていた(必ず表示しなければならないと法律で決まっているらしい)。
モンスターは農業や漁業においては天敵ともいえる存在で、今やダンジョン産の食材の方が主流になっているのだそうだ。
とはいえダンジョン産も万能ではなく、例えば今は小麦が不足しているため小麦を使った料理は頼めないといった事態が発生している。
──とにかく、これで腹は満たし終わった。午後はダンジョンだ!
◇
「……これで仮登録が終わったよ」
「え? マジ? もうこれで終わり?」
「うん。あとはギルドでの本登録が必要だけど、ダンジョンに潜る分にはこれで大丈夫」
そう言って令はスマホをしまう。
寿限ムたち3人は、街中の十字路の真ん中にポツンと空いた大穴──とんでもなく迷惑な場所に発生したダンジョンの階段の前に立っていた。
あれから早速試しに近場のダンジョンに潜ってみようとなったのだが、ダンジョンに潜るためには『探索者登録』が必要だと判明。やり方が分からない寿限ムに代わって、令に操作してもらったという訳だ。
にしても、すぐ終わったな……『たった10分でスマホで楽々登録!』なんて書いてあったが、本当に10分で終わってしまった。
ともかく、これでダンジョンに潜れるという訳だ。
「いえーい、いざジュゲムんの、初めてのダンジョン攻略ーっ☆」
「言っておくけど、ダンジョン自体には潜ったことはあるぞ」
「マジ?」
そして3人は階段を取り囲むケージの扉を開くと(間違えて侵入しないように囲ってあるらしい)、階段を下ってダンジョンの中に侵入する。
ダンジョンの内部は洞窟のような姿をしていた。
「よーし、早速新しいスキルを使ってみるか! どれどれ……なるほど、今はスキルは『セイケン』しか使えないのか」
確かジョブ選択の欄には『ウラケン』というスキルも書いてあったはずだが、おそらくあれはジョブLvを上げることで習得できるのだろう。
「……確か『
「あーそうそう☆ 使ったことあるから覚えてる。確か、アレなんだよねー」
「……なあ、アレって何だ? すげー気になるんだけど」
「あはは、使ってみれば分かるって☆」
……何だか不安になる言い方だが、物は試しだ。死ぬわけでもないだろうし。
「いくぞ──『セイケン』!」
!?
寿限ムの右こぶしが、綺麗なフォームで真っすぐに正面を打ち抜く。
それはまだいい。寿限ムが驚いたのは……
「なんだこれ? 体が勝手に動いたぞ……!?」
「Wikiによると『己の肉体を武器として様々な武術を駆使する
「つまり……どういうことだ?」
「リアル格ゲーだね」
格ゲー……確かに、『戦士』のジョブのスキル『フレイムスラッシュ』は"武器が炎を纏って次の攻撃のダメージを増加させる"という挙動で、動きが強制されるということは無かった。
おそらくほかのジョブのスキルも同様で、次の攻撃に対してダメージを増加させたり特殊な効果を付与するといった挙動をするのだろう。
──なるほど……これが令の言っていた『珍しい挙動』か。
「例えば『
「あとは『
実際に『セイケン』を使ってみて分かったのだが、スキルの終わり際に僅かだが硬直が存在していた。
一瞬だが体が動かせない時間が存在する……ということは、囲まれた時にスキルを使うとその隙を狙われかねないということを意味する。
「なら、これはあんまり多用しない方がいいかもな……」
そしてスキルの挙動を確認したところで、ダンジョンの奥へ進んでいく。
【エンカウンター:プレイヤーはゴブリンLv15に遭遇しました▼】
おあつらえ向きのゴブリンだ。早速現れやがったな。
ゴブリンの得物はこん棒。素手対こん棒という訳だ。ゴブリンはこん棒を構え、こちらに近づいてくる。寿限ムが迎え撃つという格好だ。
そして背後では、令と戻子がその様子を観戦していた。
「ガンバー、負けそうになったら加勢してあげるねー☆」
「お手並み拝見だね」
うーん、舐められてるなー俺。ま、ダンジョンで行き倒れていたようなもんだしな。正確には違うけど。
……これは一発かましてやるしかないな。
「──それじゃ、早速"魅"せてやるとしますか!」
こちとら俺流だが、対武器の喧嘩もある程度こなしている訳で。
その経験に加えて、これまで遊んできた『ゲーム』の経験も踏まえれば……脳内シミュレーションは完璧だ。
大事なのは間合いだ。まずは相手の間合いの一歩外を維持し続ける。先手は相手に撃たせるのだ。思った通り、ゴブリンがこん棒を振り回してくる。
──ブン! 大きな空振り。その隙をついて、一気に間合いを詰める!
……って、速っ!? 自分が思った速度以上に、自分の身体は速く動いていた。
──これが『敏捷:C+』のスピードか!
そして寿限ムはそのまま一撃、二撃! 硬化した『鬼人のグローブ』で、相手の顔面を矢継ぎ早に2度打ち抜く!
そして倒されたゴブリンは、経験値となって消滅するのだった……。
「……どーよ、まずは一勝!」
「おー、鮮やか……」
「やるじゃん、ジュゲムん☆」
振り返ってガッツポーズを見せる寿限ムだったが、近づいて来た戻子から頭をよしよしされるのだった。
うーむ。……せっかくカッコ良く決めたと思ったのに、何だか弟分的な扱いになっているんだが。どうしてだ?
寿限ムは令と戻子の二人から頭をよしよしされながら、
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