第38話 「パック開封の儀」

 ◇


 『格闘家ファイター』は初期スキルとして、3つのパッシブスキルを持つ。


 ──まず一つ目は『被・接触ダメージ減<小>』。


 数あるモンスターの中には、接触するだけでダメージを与えてくるモンスターが存在する。デカくて重量のあるモンスター、電気を纏っているモンスターなどだ。

 このスキルはその接触ダメージを軽減する。肉体的接触ボディ・コンタクトありきの『格闘家ファイター』にとっては必須級のスキルである。


 ──そして二つ目は『与・接触ダメージ上昇<小>』。


 こちらは逆に、ぶつかってきた相手に接触ダメージを与えるスキルである。

 またお互いに接触ダメージを与えあう場合、相殺効果が発生し、相手に与える接触ダメージの分だけ受ける接触ダメージを軽減することが出来る。


 ──そして最後に三つ目、『エンハンス[武]』。


 格闘攻撃に[武属性]を付与するスキルである。

 これはスキル以外の格闘攻撃にも適応され、という特性を持つ。


「結構、慣れてきたな……ッ! ──『ウラケン』!」

 

 そして寿限ムは、ジョブLvが上がって新たに習得したスキル『ウラケン』を発動する。それはワーウルフの攻撃を回避し、体勢が崩れた瞬間での発動だった。


 無理な体勢からでも反撃できる──それが『格闘家ファイター』のスキルの強みだ!

 

 寿限ムの肉体がオートで反応し、なめらかな体重移動、そして足さばきを駆使して的確にワーウルフに裏拳を叩き込むのだった。


 幾ら寿限ムに多少の喧嘩の経験があるとはいっても、自分が一流の武道家に並ぶとまでは思っていない。だがしかし──その差を埋めかねないポテンシャルを持っているのがこの『スキル』という存在なのである……!


「……ざっとこんなもんかな」

「いいねー☆ コツをつかんできた感じ?」

「うん、よくやったね。……あ、そろそろ宝箱だよ」


 そう言って、戻子がベタベタとくっついてくる。一方で令はと言えば、スマホを見ながら先を先導していた。令によると、スマホのアプリとかで、『ダンジョンの自動マッピング』と『マッピング内容の共有』ができるサービスがあるのだとか。


 ……マッピングって、確か刻花が紙でやってたやつだよな? 凄い便利なものができたもんだ。


 そして令の言う通り、洞窟の突き当りに宝箱を発見したのだった。

 今日は寿限ムが主役ということで、宝箱を開ける名誉は2人に譲ってもらった。

 ……いや、俺は別に"誕生日"とかじゃねーからな!?


「……まあいいか、譲ってもらう分にはタダだしな!」


 そう言って寿限ムは宝箱の蓋を持ち上げる。

 宝箱に入っていたのは──


「……何だコレ、『スキルカードパック』?」

「えマジ? 超レアじゃん☆」

「やっぱり、『ルーキーが開けると出てくる』ってジンクスは正解だったね」


 二人によれば、どうやら相当な当たりらしい。やったぜ! 

 確か『スキルカード』と言えば、スキルを覚えられる消費アイテムだったはず。確かにそう言われてみればかなり貴重なアイテムに見えるな。……って、ん?


「……宝箱には、このパック1つしか入ってなかったのか」

「それ含めての超レアだからねー☆」

「うん。引き当てたのは君だし……君が開けていいよ」

「マジか!? サンキュー!」


 早速寿限ムはアイテムボックスから取り出す。それは手のひら大サイズの大きさの、銀色のビニールに包装された薄い長方形のパックだった。


「コレを開ければいいのか……?」

「うん。中にランダムなスキルカードが1枚入ってるよ」

「そうか、何だか緊張するな……」

「いえーい、いざ開封の儀☆」


 寿限ムは戻子に囃し立てられながら、パックのギザギザ部分を引きちぎるのだった。そして中からカードを取り出す。


「ん? なんだこれ……『超気功拳』? 超強そうじゃん!」

「あー惜しい。ハズレだね」

「ねー」

「え? これハズレ!? メッチャ強そうなのに!?」

「……うん。魔法系のカードなら最低でもは下らなかった」


 ……え? なんだって? 令のその言葉に、寿限ムは混乱する。

 イッセンマン? イッセンマンって何だ? そんな正義のヒーロー居たっけな? イッセンマン……


「……すまん。その"イッセンマン"って何の話だ?」

「あー、知らないんだっけ。


 …………。

 寿限ム、絶句。


「円ですか……マジっすか……じゃあこの『超気功拳』は?」

「今調べたよー。うーん、これは千円☆」

「嘘だろ……抜けてない? 『万』がどこかに抜けてない?」

「ちなみに未開封のパックは3万円でーす☆」

「下がってるじゃねーか! 何? さっきの一瞬で三万円が千円になった訳!?」

「開けなければ可能性のままだからね」


 マジか……できれば知らないままでいたかったな……三万円が千円か……


 というか、『超気功拳』が千円ってどういうことだ? そんなに弱いのかこのスキル。だって『超』だぜ? 強いと思うじゃん。いや、そもそも……


「……なあツカサ、魔法なら1000万って言ったよな。物理と魔法、何でそんなに差があるんだ?」


 寿限ムが訊ねる。至極当然の疑問である。それに令が答える。


「うん、そうだね……『ジョブの取得条件にプレイヤーのこれまでの経験が影響している』って話は覚えてる?」

「えーっと確か、そんなことも言ってたような……」


 そうそう、そういえば俺が『砲撃手キャノニア』を取得しているのは、RPGや手榴弾をぶっ放した経験があるからとか聞いたっけ。……あ、そうか!


「この世で魔法を経験している人間なんていない。でも、』」

「そういうことか! だから世界中のプレイヤーが血眼になって探し回ってると!」

「……うーん。そこまでじゃないかな。たかが1000万だし」

「たかが1000万!?」


 1000万が"たかが"とか、とんでもない世界だな、探索者って。


「じゃ、使っちゃうか。スキルカード『超気功拳』」


 ……という訳でこの千円の『超気功拳』、寿限ムが覚えることになった。適性のある格闘家ファイターが寿限ムしかいないのだから、当然と言えば当然の結末である。


 そして早速、寿限ムは使用してみることにする。


「いくぜ! ──『超気功拳』!」


 ……

 

 ……


 …………!


 ──破ッ!


「いや遅い~! メチャクチャ溜めるじゃん! でも、威力はメッチャ高そうだな……で、コレどうやって当てるんだ?」

「うーん、まさに『千円クオリティ』ってヤツだね☆」

「だね」


 右腕にオーラを溜めて打ち抜く打撃系スキルだったが、余りにも溜が長い。しかもその割に射程は普通のパンチなのだから、見てから回避余裕である。

 これは、実戦では使えないなぁ……


「ロマン技かぁ……」


 ──寿限ムは悲しみの籠った眼で、しみじみと呟くのだった……

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