第35話 「ジョブチェンジ」

 ◇


「……なんというか、すげーな。あれだけのドンパチがあったのに、何事もなく目的地に着いたんだが……」


 走り去る『武装バス』を見送りながら、寿限ムが言う。

 バスジャックの襲撃が令によって鎮圧された後、寿限ムたちを乗せた武装バスは何事もなく運行を再開。乗客側も特に気にする素振りもなく乗り降りしていた。


「まあ普段からモンスターが襲ってきたり、色々麻痺しちゃってるのかもねー」


 そう言って戻子が「あははー☆」と笑う。……うーむ、そういうもんなのか?


 寿限ムは辺りを見回す。

 この通りですれ違う人そのほとんどが"ゲームでよく見るような装備品"で身を固めた奇抜なファッションをしていた。

 探索者文化とでも言うのだろうか、以前の価値観では一種異様な光景である。


「……これ、まさか全員探索者なのか?」

「そうだよ。たぶん皆、僕たちと同じで、に用事があるんだろうね」


 そう言って令はを指さす。その先にあったのは『神社』だった。

 石でできた玉垣がぐるりと張り巡らされ、神社ののぼり旗が立ち並んでいる。そしてその奥には立派な鳥居が建っていた。


「……まずは神社に寄ろうか。探索者にとって重要な場所だからね」


 ◇


 その神社の境内は、人でにぎわっていた。

 人込みの中寿限ムは戻子に手を引っ張られ、鳥居の前に連れていかれる。


「はいは~い、ここでステータス画面を開いて~」


 ……ここでステータス画面? とりあえず言われた通りに開いてみるか。

 すると、そこには──


「『ジョブ変更』がある……! なるほど、これでジョブが変更できるのか! ……にしても、何でジョブ変更できるんだ? 何か条件があるんだよな?」


 寿限ムは、興奮した様子で二人に訊ねる。

 ジョブの変更方法は、刻花といた時からずっと探していたものだ。

 何らかの条件を満たすことでジョブ機能が追加されると推測していたのだが、その条件が見つからなかった。しかし──遂にその答えが見つかったのだ。興奮するなというのが無理というもの。


 令が答える。


「条件は『""』。今回の場合は『鳥居』だね」


 ……え? 宗教的シューキョーテキ……なに?


「んー、神社とかお寺とか? シンボルっぽい建物の前だと大体できるよねー」

「んなもん分かるかっ!? どうしてそこでジョブ変更できるんだ?」

「……うーん、ゲームだからじゃないかな? 『教会』だとか『女神像』とかの前でジョブを変更するのは、ゲームだとありがちだし」

「マジか。すげーよ、最初に見つけた人……」


 そして二人によると、ジョブ変更の仕様が判明したことで、探索者が神社やお寺などを訪れるようになり。一方で施設側もジョブ変更に訪れた人向けの商売を始めるようになったのだという。

 例えば探索者向けのアイテムや武器の販売、探索者のメンタルケアなどである。


「意外と探索者の中にも、神頼みに来る人は多いんだって」


 令の言う通り、よく見てみれば、探索者の格好をした人たちが拝殿の前で手を合わせてお祈りしている様子が見える。

 ……確かに、ダンジョン攻略なんて命がけだもんな。実際俺一度死んだし。神に縋りたくなる気持ちも良くわかる。

 

 …………。

 探索者向けの商売か。ちょっと気になって、コッソリ駐車場の方を見てみる。

 そこには立派な外車が停まっていた。

 おー、すげー。もしかして結構儲けてるな? この神社。


 ……と、そんなことより。


「ふっふっふ、さてお楽しみのジョブ変更の時間だ! どれどれ……」


 さっそく寿限ムは【ジョブ変更】の文字をタップする。

 ……なるほど。どうやら幾つか選べるジョブがあるようだな。

 えーっと、初期ジョブの『戦士』を除くと……3つか。これは多いのか? うーむ、分からん。とりあえず一つずつ見ていくとしよう。


-----------------------


ジョブ:盾持ちスクワイア

ジョブLv:1/40


<ステータス補正>

HP:D

MP:E

腕力:B

防御:C

魔力:E

魔防:D

敏捷:E

[重装備可能]


<取得可能スキル>

【鉄壁の構え】

【シールドバッシュLv2】

……etc


-----------------------


 まずは一つ目の『盾持ちスクワイア』。ジョブLvの最大は40。そしてステータス補正も、オールDだった『戦士』と比べて圧倒的に強そうだ。

 そして気になる「重装備可能」の文字。おそらくこれで重装備をして防御力を盛るのだろう。取得可能スキルも防御系のスキルっぽい【鉄壁の構え】があるしな。

 ……つまり、全体的に防御系のジョブという訳か。


「おー、騎士系のジョブじゃん。おそろ~」


 そう言って戻子が「イエ~イ☆」と肩組みしてくる。いや近いな! そして柔らかい。にしても……戻子は騎士系のジョブを使っているのか。


「騎士って強いのか?」

「んー、最強っしょ☆」


 戻子がノリ良く答える。うーむ、なんか当てにならなそうな気が……。


 とりあえず、次だ。


-----------------------


ジョブ:砲撃手キャノニア

ジョブLv:1/40


<ステータス補正>

HP:D

MP:B

腕力:E

防御:E

魔力:E

魔防:E

敏捷:C

[近接武器装備不可]


<取得可能スキル>

【装填】

【サンダーボルト弾】

……etc


-----------------------


 二つ目の『砲撃手キャノニア』。これもジョブLvの最大が40だ。ということは、おそらく40で統一だろう。

 そしてステータス補正だが、MP特化のステータス配分のようだ。あとは敏捷が少し高いくらいで、他は『戦士』より軒並み低いと来た。

 うーむ、ステータス的にはあまり恵まれていない印象だな……それに「近接武器装備不可」とあるので、遠距離攻撃の利点を生かして戦っていくのだろう。

 

 しかし何より【サンダーボルト弾】の響きよ! めっちゃカッコ良くないか?


「……へー、砲撃手キャノニアか。珍しいジョブを持ってるね」


 令が興味深げに言う。


「そんなに珍しいのか?」

「うん。ジョブの適性って、一説によれば『プレイヤーのこれまでの経験を反映している』って言われているんだ。……君、心当たりある?」

「……あー、結構ぶっ放したかも」


 図星。心当たりアリアリである。

 ……そう言えばあの時、RPGとか手榴弾とかぶっ放したなー(遠い目)。たぶん日本人で経験している人は少ないだろう。だから珍しいという訳か。


 さてと、最後だ。良いジョブであってくれよ?


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ジョブ:格闘家ファイター

ジョブLv:1/40


<ステータス補正>

HP:C

MP:E

腕力:A

防御:C

魔力:E

魔防:E

敏捷:C+

[武器装備不可]

[軽装備のみ]


<取得可能スキル>

【セイケン】

【ウラケン】

……etc


-----------------------


 三つ目、最後のジョブの名前は『格闘家ファイター』。

 いやステータス補正つっっよ! ……腕力が『A』!? 今日初めて見たぞ『A』なんて。それにほかのステータスもHP・防御・敏捷が全部『C』『C+』と来た。

 「武器装備不可」「軽装備のみ」と、どう見てもデメリットなのが2つ付いているのは置いておくとして。

 ……この『格闘家ファイター』ってジョブ、かなり強そうに見えるぞ。


「『格闘家ファイター』、最強じゃん」

「ちなみに『武器装備不可』のデメリット込みで計算すると、DPSは他のジョブとあまり変わらないよ」

「……つまり、どういう事だ?」

「腕力『A』は飾りってこと」


 …………。


「よし! 今俺はろくな武器を持ってないから最強決定! デメリット帳消し!」

「まあ『モンスターと素手で取っ組み合い出来るメンタル』があればだけどね」

「……全然問題ないが?」

「へー、じゃあ天職じゃん☆」


 ……決まりだな。ジョブは当面『格闘家ファイター』で決定だ!


 ──そして寿限ムは、意気揚々とジョブに『格闘家ファイター』をセットするのだった……

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