第32話 「生存確認」

 ◇


 ──夜。消灯された部屋の中で、寿限ムは布団の上に横たわっていた。


 ……天井から紐がぶら下がっているのが見える。アレって何なんだろうと思っていたのだが、どうやら電灯を点けたり消したりするのに使うヤツらしい。


 令があの紐を「カチッ」と引っ張って灯りを消してから、大体10分ぐらいが過ぎただろうか。寿限ムは羊を数えるでもなく、薄暗い天井を見上げながら物思いに耽っていた。


 頭に浮かぶのは、刻花とうな丼の姿だ。

 ……あれから一体どうなったんだろうか。自分は『サバイバー』のスキルのおかげでなんとか生き延びることが出来たけれども……


 ──無事にオーガから逃げ切ることはできたんだろうか。

 ──鈴木のオッサンがついているんだから大丈夫だよな? たぶん……

 ──うな丼は元気になったんだろうか。獣医は見つかったよな? きっと……


 令と戻子の二人から聞いた話では、2025年現在、主要都市はだいたい(多少の例外はあるが)復興済なのだそうだ。

 少なくとも東京は安全……あの時オーガから逃げ切る事さえできれば、刻花の頭脳があれば余裕で生き延びているに違いない。5000万もあるしな。


 ──大丈夫、だといいんだが……


「むにゃむにゃ……キリカ……」


 そんな寝言を呟きながら、寿限ムは爆睡するのだった。


 ◇


 ──そして翌朝。

 この日から、令と戻子との古アパートでの共同生活が始まった。

 

 二人曰く、「しばらくここに居ていいよ。どうせ1日も2日も変わらないし……」「掃除してくれてマジ助かる~。ずっと居ていいんじゃない☆」とのこと。

 ま、まあ外に放り出されたら死ぬんだし、掃除ぐらいで済むならいいか……。兎にも角にも、二人はLv的に相当な力を持っているにもかかわらず、黒服みたいに力を振りかざしたりしない所は好感が持てる。

 とはいえ……


「…………」


 ……見知らぬ女の子二人と同じ部屋で生活をするというのは、寿限ムとしてはなんとも居心地が悪かった。


 晴れた日の昼下がり。

 

 ──寿限ムは一人、何をするでもなく部屋の隅っこに座り。


 ──戻子は部屋の反対側で、イヤホンつけてゲームとかアニメとかを楽しみ。


 ──令はと言えば部屋の真ん中でフィギュアをいじりながら、


「やっぱり『1万円くらいで買った可動フィギュア』をいじるのが一番楽しいな……あ、凄くいいポーズが出来た。絵にしないと」


 と、スケッチブックを取り出すと何やらペンを動かしている。


 ……うーむ。刻花とは小さい頃から同じお屋敷の敷地に住んでいて、ずっと顔なじみだったのが大きかったんだろうか。やることがない寿限ムは、ステータス画面を開く。

 まずはアイテムボックスの中身を確認だ。……よし、全部残っているな。ゲームによるが、敗北するとロストするゲームとかあるらしいからな(刻花から聞いた)。


「……ん?」


 よく見ると刻花から貰った帽子だけが見当たらない。……ああそうだ、あの時頭に被ってたもんな。オーガにやられた時に落としてしまったのか。


 ──せっかく貰ったのに、刻花には悪いことをしたな……


 ……それで、他に何か変わったことはないか? 引き続き、寿限ムはステータス画面を色々確認する。すると、一つだけいつもと違う表示を発見した。


「……【通知:レイド報酬が届いています】? なんだそりゃ」


 寿限ムが文字をタップすると、さらに詳細が現れる。


「は? ダメージランキング……? あ、俺2位じゃん」


 そこに記されていたのは、例のオーガ討伐のダメージランキングだった。

 自分はなんと2位で、オーガのHPを一人で5%も削ったらしい。ちなみに1位は……プレイヤー名『ジョニー・レイン』、12%のHPを削っている。強い。


 確かジョニーと言えば、鈴木のおっさんが言っていた『救助ボランティア』のリーダー的な存在だったはずだ。確か、海外のプロゲーマーなんだっけ? 

 

 それにしても強いな……ま、俺ほどではないけどな!


 更にダメージランキングは下にずっと続いていて、ざっと確認したところ100人以上がオーガ討伐に参加していた。……いや多いな! 

 そして、何より朗報だったのは──その中に、『及川 刻花』『鈴木 樹』の二人の名前も記されていたことだ。


「ってことは、二人とも生きてるってことだよな……たぶん」


 いや、俺みたいに死んでいる可能性もなくはないが……少なくとも100人規模の戦闘になっているということは、オーガを包囲して一方的に攻撃したと考えるのが妥当だ。だとすれば、討伐側の犠牲も最小限になっている可能性が高い。


 ジョニーってヤツが一人で12%も削ってるってことは、おそらくこの人が一番Lv高いだろうしな……オーガからの攻撃はほとんどジョニーが受け持っていたはずだ。


 ──つまり、二人は生きている……!


 寿限ムはホッと一安心すると、レイド報酬の『オーガのなめし革×10』を受け取る。なるほど、アイテムボックスに直接付与されるのか。

 どうやら『オーガのなめし革』は装備素材アイテムらしく、レア度はBランク。ちなみにゴブリンが落とす『こん棒』がレア度Fなので、これは相当いい方だろう。


 ちなみに、詳細は以下の通りだ。


『【上位素材】戦鬼オーガが誇る"鋼鉄の鎧"。普段はしなやかであるが、一定の力を加えるととてつもなく硬化する。<防刃><耐火>』


 ……えらく強そうな素材だなオイ。



「……俺も、ゲームでもするか」


 そして寿限ムは、アイテムボックスからゲーム機を取り出すのだった……

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