第28話 「『オーガ』、それは"地上最強の生物"の異名」
◇
「……何か妙ね。モンスターの数がいつもより多いわ」
「ああ、これは間違いなく『何か』あるな」
──寿限ムと刻花の二人は、それぞれの武器を構えながら言葉を交わす。
それは二人がビルを出た後、道中見つけたショッピングモールを探索中のこと。突然モール内にモンスター大量出現し、二人は応戦を余儀なくされたのである。
……それぞれのLvは大したことないが、とにかく数が多い。
寿限ムは思い出す。ちょうどこんな感じにモンスターが際限なく湧き続ける場所を寿限ムは経験したことがあった。──そう、壇上町のダンジョン内部である。
「……まさかこの近くにダンジョンがあるのか?」
あの時はその"無限湧き"がこん棒の『無限回収』に役に立ったのだが、今回は事情が違う。ダンジョンの外なのでドロップ率も低く、得られる経験値も雀の涙。
……全くうま味がない。さっさと切り抜けるのが吉だな。
「仮に近くにダンジョンがあったとしてもスルーだな」
「そうね……! とりあえずここを切り抜けるのが先決っ、かしらっ!」
──避けられる敵は無視して、最短距離で強行突破だ。
そして二人はモンスターの波を切り抜けて、モールの東出口から脱出に成功する。
……ふう、これで一息つけるだろう。寿限ムがそう思った矢先──
……何かがいる。寿限ムは敏感にも"その気配"を感じ取っていた。
──これまでのモンスターとは全く異質の、チリチリする不気味な存在感……
「上だ! 何か、来る……っ!」
寿限ムは咄嗟に上を見上げていた。
視線の先、アーチ型のモールの屋根……その上に、何かがいる!
その瞬間、寿限ムと刻花の二人は思わず駆け出していた。
「GUGYAAAAAAAA!!!!!」
──バリン! ガラスの割れる音と共に、怪物は跳躍する。
空に浮かび上がるその巨大な体躯は、まさしく巨人のそれだった。
──ドガン! コンクリートを粉砕しながら、それは二人の前に立ち塞がる。
【エンカウンター:プレイヤーはオーガLv53に遭遇しました▼】
!?
「Lv……53だって!?」
今の俺のLvは24だ。そんな時に「私の"
……しかし、問題はそれだけではなかった。
寿限ムの目の前にまた別の文字列が浮かび上がる。
【デバフ『マーキング状態』:プレイヤーはオーガにマーキングされました▼】
「マーキング……!?」
それは寿限ムにとって見慣れない単語だった。しかしこの怪物の前でこのまま棒立ちで突っ立っている訳にもいかない。
──とにかく、この場を何とかして切り抜ける!
「──
寿限ムが叫ぶと同時に、怪物の視界を塞ぐかのように巨大な壁が生成される。
一瞬でもいい。俺たちのことを見失ってくれればっ……!
「今のうちに正面の建物の中に逃げるぞ!」
「分かったわ!」
以心伝心。二人は全力でダッシュして、目の前の建物の中へ逃げ込んだ。
この東京に、4メートル以上のサイズの扉は存在しない。とりあえず、屋内に逃げ込めば安全か……?
オーガに見つからないよう物陰に隠れながら、寿限ムは声を抑えて刻花に尋ねる。
「何だよあのデカいのは!? ……オーガだって!? キリカ知ってるか?」
「オーガ……神話上の生物よ。鬼みたいなものね。……ちなみに、作品によっては"地上最強の生物"だったりするわ」
「マジで!?」
──ガン! ガン! マズい、オーガの拳で壁が壊される!
マジか、さすがは"地上最強の生物"。建物の中に逃げ込んだだけじゃ撒けないか。
寿限ムと刻花の二人はその場を離れると、急いで裏口から逃げる。
「ハァ、ハァ……」
裏路地を必死に逃げる二人の前に、例の小型モンスターたちが群れで現れる。
ワーウルフ!? 邪魔だ、どけっ! 寿限ムはこん棒一閃、速攻で倒す。
「このモンスターたち……もしかして、あのボスの取り巻きかもね」
「へぇ、つまり"猿山のサル"ってことか!?」
もちろん、喋っている間も全力ダッシュだ。オーガとの鬼ごっこは続く。
とはいえここは建物が多い。何回曲がったっけ……? 流石に見失っただろ。
「GUWOOOOO!!!!!」
「嘘だろ、オイ……!」
寿限ムの願い空しく、遠く建物の陰からオーガの姿が現れたのだった。
……寿限ムの目が、オーガと合う。間違いない、オーガはこっちの居場所を把握した上で追跡してきている!
「どういうことだよ、建物の裏なんて、物理的に見えないハズだろ!? ……まさか、さっきの『マーキング』ってヤツの効果なのか!?」
「……『マーキング』? 何それ、そんなの私には付いてないわよ!?」
……本当だ。ステータス画面、俺のには『マーキング:オーガ』と付いているが、刻花には何も付いていない。何で!?
「……一つだけ仮説はあるわよ。アンタの方が、Lvが高いから」
「つまり、強いヤツを狙うってことか!?」
強いヤツの気配が分かるってことは、少なくとも俺は逃げられないという事だ。
……ああ、なんて絶体絶命のピンチなんだ。目の前にいるのはLvが30近く上の化け物。しかも逃亡不可ときた。
──いや諦めるな。考えろ、この場面を切り抜ける方法を……!
◇
二人の背後、道路の向こう側から「ズンズン」と大きな地響きと共にオーガが迫ってきていた。
「──
壁を生成したところで時間稼ぎにしかならない。その間にも壁の隙間からボスの取り巻きがやって来ている。
……『壁』じゃオーガを止められない。そのうちあの壁も破壊されて、すぐにこっちを追って来るだろう。
"何か"ないか? オーガを止められる"何か"……!
「……閃いた」
──そして寿限ムは、一つの"秘策"を思いつく。
「あの、『バラエティとかで出てくるぬるぬる滑るヤツ』って名前何だっけ!?」
「いきなり何!?」
「アレだよアレ! 液体なんだけどさ! ぬるぬる滑るヤツ!」
「……"ローション"?」
「多分それだ! ……行くぞ、あそこに飛び乗れ!」
そう言って寿限ムは、目の前に停まっている車のボンネットの上を指さす。二人は勢いそのままにその上に飛び乗った。──そして、寿限ムは叫ぶ。
「──
その瞬間、寿限ムの手元から"大量のローション"が生成される。
生成されたそのぬるぬるとした液体は、道路を埋め尽くさんばかりに流れ込み──最終的に、完全な『ローション沼』が完成した。
「GU……GUOOOOO!!!」
オーガは立ち上がろうとする度に、ぬるぬるとした液体に足を取られ転倒する。
──ドスン! ……よし、上手くいった!
敵がとんでもない力を持っているのなら、その力を使わせなければいい。とりあえず、当面の危機は脱することができたな……
「それで、これからどうするの?」
「ひとまず距離を取ろう、あの白いヤツ……ガードレール伝いに支えにして歩けば逃げられるはず……」
──と、言いかけたその時。寿限ムは気づく。
「……マズい、急いで逃げるぞ!」
寿限ムは大声で叫ぶ。
その視線の先では──オーガが転倒した体勢のまま、腕を大きく振り上げていた。
──ドゴン! ……一発。
──ドゴン! ……もう一発。
オーガが上半身の腕力のみを使って、地面を殴打する。それも、連続で。
それで何が起こるのか……それは言うまでもない。オーガの連続殴打により、地面は陥没し──そこには大きな
地面に溜まっていたローションが徐々にクレーターに流れ込んでいく。
そして──全てのローションがクレーターの中に飲み込まれていったのだった。
……これでもう滑らない。オーガは「ニヤリ」と笑みを浮かべていた……
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