第27話 「清貧のクリスマス・イブ」
◇
わざわざ数日分の食糧を分け(もちろん全部野菜だ)。
別れ際に「まずは倒しやすいゴブリンから倒した方がいいぞ」と
ようやく"鈴木のオッサン"と別れた寿限ムと刻花は、再び二人きりになる。
そしてオッサンの遠くなる背中を眺めながら、二人は言葉を交わすのだった。
「……いいの? あの人を一人で行かせて」
「いや、むしろ一人だからいい。大丈夫大丈夫、あのオッサンの
「本当かしら……」
◇
──そして、それからしばらくして。
そろそろ日が沈んできたこともあり、二人は野宿の為のビルを探していた。
「……ここなんか結構よさそうじゃないか?」
寿限ムは目の前のビルを指さす。
そのビルの正面にある自動ドアは締め切られており、ガラス部分が一か所も割れていなかった。つまり──このビルにはこれまで一度もモンスターが入り込んでいない。……少なくとも、正面からは。
二人は自動ドアを
……まずは寝泊まりするための『室内用テント』の準備だ。あらかじめ組み立てておいたものをアイテムボックスから取り出す。コレ、マジで便利。
「こんな場所でクリスマスイブを過ごすことになるなんて、思ってなかったわ」
グツグツと煮える鍋の前で、刻花がため息交じりでそう呟く。
「……ターキーが食べたい。ケーキが欲しい」
「ここにシーチキンがあるぜ。同じ"チキン"だろ?」
「全ッ然同じじゃないわ。まず出身地からして違うじゃない。海と牧場よ?」
「どっちも美味しいじゃん」
「はぁ……良くアニメでお嬢様がファストフードとかを食べて『生まれて初めて食べましたわ、美味しいですわ~』みたいなこと言ってるけど、あんなの嘘っぱちよ」
「あはは、キリカは面白いな~」
「ケーキ、せめてデザートが欲しいわ……」
頭の中に思い浮かべるのは豪華なクリスマス料理──しかし現実はそんな華やかさとは無縁の野菜鍋をつつきながら、刻花は未練がましく呟くのだった……
◇
食後、暖を取るために二人はテントの中に移動する。
そこで刻花がアイテムボックスから取り出したのは、大きい箱だった。箱を開けると、何やら色々なものがジャラジャラ入っている。
「何それ」
「……ボードゲームよ。たまにはこういうアナログなゲームもいいでしょう? 今まで一人用のモードでしか遊んだことなかったの。ちょうどいいから一緒に付き合いなさい、遊び方を教えてあげるから」
なるほど、ボードゲームか。せっかくなので寿限ムは遊んでみることにする。
それから刻花によるルール説明が始まった、のだが……
「……説明、長くないか?」
……長い。かれこれ30分以上は話してるぞ、刻花。
しかし刻花はお構いなしと言って様子で、
「これも大事なルールだから」
ま、まあ、そこまで言うなら大人しく聞いておこう。だが、これだけ説明に時間をかけているんだ、大して面白くないなんて許されないからな?
──そして、1時間後。
「……ふーん。そう来たか。だがその選択は少し"甘い"んじゃあないか?」
「さあ、どうかしら? ……戦いは二手三手先を読むものよ」
「なっ!? マジか……やられた」
……寿限ムは普通にボドゲにハマっていたのだった。
◇
それから二人は数戦ボドゲで熱戦を繰り広げる。
しばらくして遊び疲れた二人は箱に全部片づけると、再びアイテムボックスにしまった。
それにしても楽しかった……
それから寿限ムはテントの中で、刻花と隣り合って座りながら、先ほどの対戦の余韻を噛み締めていた。
……いや、本当に。面白かったな。マジで舐めてた。刻花と二人ってのもあるだろうけれど。刻花といると、何でも楽しいんだよな。……いや、刻花が楽しい事ばかり知っているからか? ゲームとか、色々詳しいもんな。
……刻花も、同じく楽しそうだった。
「ふー……ていうかボードゲームって、意外と疲れるもんなんだな」
「そうね、意外と張り合いがあって楽しかったわ」
──そう言って刻花は優しく微笑む。
よくよく考えてみると、あの"お屋敷のお嬢様"と一緒に楽しく遊ぶなんて、1か月前には思ってもみなかったな……。
お嬢様と居候、同じ年頃で、天と地ほどの身分の違いだった。それが今は……
そして刻花は寿限ムの方を振り向くと、ぼそっと呟く。
「……こんなクリスマスイブも悪くないかもね」
そして、刻花はそう言って。
──ちゅっ、と。寿限ムの頬にそっと口づけするのだった……
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