第17話 「第一のダンジョン」
◇
「ハァ、ハァ……チクショウ、どうなってるんだ……部隊は全滅、生き残ったのは俺だけかよ……」
男が息も絶え絶えに呟く。そこは一面雪景色の深い森の中。男は木の幹に背中を預けながら、迷彩服姿で銃を抱えていた。
こんなはずじゃなかった。そうさ、作戦は成功したはずだったんだ……
作戦の内容、それはモンスターによって占拠された核施設に潜入・奪還することだった。危険な任務である。万が一核施設に被害が生じたりしたら……想像もしたくないような被害が起きることになる。責任は重大だ。
自衛隊の中でも精鋭部隊が任務に当てられた。
勝算は十分にあった。モンスターに銃弾が通用するという情報、後は核施設を傷つけることなく制圧することだけだ。
日中に作戦は実行され、大量の銃弾を消費して迅速にモンスターを一掃、作戦は問題なく成功したはずだった。
そしてその夜。
「存外、手応えはありませんでしたな」
「ああ、銃弾が効いて助かった」
部隊は国家の危機を救った、そんな達成感に包まれていた。
作戦には奪還後の施設の防衛も含まれている。しかしこの調子なら問題なく務め切れるだろう。男はそう思っていた。──しかし。
「地震か……!?」
揺れ自体は間もなく収まった。だがその直後、モンスターの群れが施設を襲撃。当然応戦した彼らだったが、想定外の出来事が発生する。
銃が、通用しない。
瞬く間に部隊は追い詰められる。迫りくるモンスターの群れ。そして彼らは、目の前の階段に逃げ込んだのだった。
──それから一時間後、部隊は彼を残して全滅した。
どうして核施設の地下に森なんかあるんだ!? どうして地下で雪が降っている!? そもそもあの階段……施設の地図には載っていなかった。
そして男は息を飲む。森の中に"巨大な影"が落ちていた。男に出来ること、それは銃を捨てて逃げること、それ以外になかった。
──【ダンジョン攻略推奨Lv:58】
◇
──壇上町の山中。
そこで寿限ムと刻花の2人は、ジッと足元を見つめていた。
2人の視線の先にあったのは、『場違いにもほどがある階段』。何の変哲もない山の中に突如出現した、人工も人工の代物である。
「へー、これが"ダンジョンの入り口"か。『あり得ない場所にある階段』って言う割には意外と馴染んでんな。……もしかして、ワンチャンダンジョンじゃない可能性とかないか?」
「そんな訳ないでしょう。こんな山の中の階段、どこに繋がってるっていうのよ」
「はいはい、言ってみただけで~す! そんじゃ、お宝目指して早速入ってみるとしますか! ……これ、戻ってこれるよな?」
「さあ? ただの階段なら帰ってこれるんじゃない?」
そんな会話を交わしながら、寿限ムと刻花の二人は躊躇することなく目の前の階段を下っていく。石畳の階段である。割と幅広で、例えるならちょっと大き目のマンションの階段より少し広いぐらいだ。それが延々と地下に続いている。
「『マイ〇ラ』でブランチマイニングする時に作る階段みたいだわ……」
と刻花が言っていたが、スマン、全然分からん。
そんなこんなで、とりあえず降りるぐらいしかすることがないので階段を降り続けていると、やがて最下層にたどり着いた。意外とすぐ着いたな。
そこには前方に通路があり、行き止まりに扉が一つ見える。扉の隙間からは仄かに明かりが漏れ出ていた。
……なるほど、アレがダンジョンの入り口という訳か。
ダークブラウンの木製の両開きの扉で、黒い金属製の金具と、輪っかの形をしたドアノブが付いている。古めかしい雰囲気の扉がそこにはあった。
「んじゃ開けるか。……待てよ? コレって開けて大丈夫な扉なのか?」
「うーん、いきなりのホラー展開とかなくもなさそうね。……なら、ジャンケンで決めましょう? 負けた方がドアを開けるの」
「乗った。じゃあ行くぜ? ……ジャン・ケン・ポン!」
「ぽん」
……負けた。チョキを出したが刻花の手は無情にもグー。勝った刻花は階段の前で手を振っている。一人安全地帯で高みの見物という訳だ。
「なあキリカ、もし仮にこの扉の外が宇宙に繋がってたらどうする? 二人とも死んじゃうよな?」
「……その心配は要らないわ。その扉の下には隙間があるもの。外が宇宙ならとっくに二人とも死んでるわ」
寿限ムは渋々ドアノブに手を掛ける。
あれだけ散々言って何だが、何もない可能性だってあるのだ。そうだな、俺の考えすぎだ。そうに違いない。
そのまま両手でゆっくりと扉を押すと、「ギギギ……」と
──扉を出た先には、石造りの迷宮が広がっていた。
薄暗い。何もない壁に囲まれた空間で、その先に幾つか通路が続いている。
これがリアルのダンジョンかー。ネットで見たヤツとは少し違うな。あれは確か洞窟みたいな見た目をしていたハズ。もしかして、種類があるのか?
……とその時、寿限ムは何やら気配を感じて反射的に右を向く。
そこには──
「GUAAAA……」
「ぎゃぁああああ!!!!!!」
寿限ムは思わず叫び声を上げていた。顔だ。暗闇の中に不気味な顔である!
それに近い! その距離およそ拳二つ分!
伸びた鼻に、裂けた口、ギザギザの牙、血走った眼……!
ん? 待てよ……?
「ってコイツ、ゴ・ブ・リ・ンじゃねーか!」
紛れもなくそれはゴブリンだった。ちなみにLvは12。けっこー高えなチクショウ。ていうか怖すぎだろ至近距離のゴブリン。心臓止まるかと思ったわ。
寿限ムはすぐさまバックステップでゴブリンから距離を取ると、アイテムボックスからこん棒を取り出す。
もはやただのゴブリンなど敵ではなかった。なにしろ今の寿限ムは、例えるなら"始まりの村の周りできっちりLv上げをした状態"なのだ。
倒すとこん棒がドロップした。何気にレアなんだよなコレ。これでようやく3本目だ。
「フ……俺をビビらせた慰謝料として貰っていくぜ」
「さっきの悲鳴は何?」
後ろから刻花の声が聞こえてくる。どうやら遅れてダンジョンに入って来たらしい。露払い完了という事だろう。
「あー……何でもない。ただのゴブリンだった」
「へー? その割には大きな声を出してたじゃない」
「んじゃ訂正するよ。……振り返ると、こんぐらいの距離にゴブリンがいた。めっちゃビビったわー」
「なっ……! ちょっと、近いわよっ!」
「だろ? ま、それはともかく……何だこの扉?」
刻花がやって来た方向を見ると、そこには扉があった。……いや、扉があるのは良いのだが、問題なのはその在り方だ。
──扉が空中に浮かんでいる。
おかしい、それじゃあ俺はどこから来たんだ?
扉を開けると、なんとさっきの通路がある。何だコレ。扉の後ろに回ると、扉越しに顔を真っ赤にした刻花の姿が見えた。何だコレ!?
……とその時。空中に文字が浮かび上がったのを、寿限ムは見逃さなかった。
【ダンジョン攻略推奨Lv:14】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます