第18話 「デイリーミッション解放」

「ふーん、『ダンジョン攻略推奨Lv:14』だって。丁度いい難易度ね。これなら今日のうちに攻略できるかもしれないわ」

「え? もしかして、このダンジョンの難易度が"Lv50"とかだったら『出待ち』で殴られて死んでたって事? 怖っ! こりゃーうかうかジャンケンにも負けらんねーな……」


 少しして、空中に浮かんでいた『ダンジョン攻略推奨Lv:14』の文字が消える。

 なるほど、難易度が見れるのはダンジョンに入場した直後にだけという訳か。


「『出待ち』、ね……アンタも結構ゲームに慣れてきたみたいね」

「そりゃどーも。キリカと一緒にいるとイヤでも覚えさせられるからなー。家でもゲームばっかりだし」


 ちなみにここで言う『出待ち』とは、建物の入り口などで敵が来るまで待ち伏せする行為のことである。断じてアイドルや芸人や芸能人は関係ない。


 ……閑話休題。寿限ムと刻花の二人は石造りの迷宮を先に進んでいた。


 地面は石畳で、左右を石造りの壁に覆われている。上には天井がなく、見上げると濃紺のくらい空が見えた。空には星も太陽も月も浮かんでおらず、どんよりとした雲だけが漂っている。

 壁は……最低でも5メートル以上はあるな。大体2階建ての家の高さぐらいか。これを乗り越えるのは少し骨が折れそうだ。迷宮の通路は2車線道路よりも少し幅が狭い程度で、広さの面ではそこまで戦闘には支障は出ないだろう。


 そして通路を進んだ先には、ダンジョンの入り口の扉があった場所のような『広い空間』に繋がっている。これを便宜的に"部屋"と呼ぶことにしよう。

 二人が初めて部屋に足を踏み入れると、二人の目の前に文字が浮かび上がった。


【機能解放:ミッション機能が解放されました▼】


「……ミッション機能?」

「へぇ……あるわよね、"ゲームを進めていくと機能が解放される"タイプのゲーム。チュートリアルがないのが不親切だけど。……あったわ、ステータス画面に『ミッション』の項目が追加されてる」


 そう言って刻花は『ミッション画面』とやらを寿限ムに見せてくる。

 ……あれ刻花さん? 今さらっと『ステータスオープン』って呟かずにステータス画面を開きませんでしたか? 


「……え? ひょっとして出来ないの?」


 刻花は意外そうな顔で言う。しかし出来ない。

 寿限ムが試しても、何度やっても無言でステータス画面を開く出来なかった。


「なるほど、コレが俗に言う『無言詠唱』というヤツか……」


 寿限ムは諦めて『ステータスオープン』と呟く。……ちょっと悔しいけどな。

 なるほど、寿限ムのステータス画面にも同様に『ミッション』の項目が追加されていた。どうやらデイリーミッションと通常のミッションがあるらしい。

 まずはデイリーミッションの方を確認してみる。


--------------


【デイリーミッション[Lv1]】

済:ログインする:[報酬] 水1000ml <ミッションポイント10>

済:一回モンスターと戦闘する:[報酬] 水500ml <ミッションポイント5>

済:一回ダンジョンに挑戦する:[報酬] 水500ml <ミッションポイント5>


--------------


「……水だ。ペットボトル入りだ」

「ふーん、人間が最低限度生存するのに必要な水を保証しているというわけ?」


 寿限ムが『済』の文字に触れると、彼の手元にペットボトルに入った水がどこからともなく出現した。……うーん、水か。意外と現実的だ。まあ確かに現状貰えて嬉しいものではあるけれども。

 ちなみに『ログインする』の条件だが、これは無条件でクリア扱いらしい。"はいはい、毎日社会にログインお疲れ様"ってことだな。つまりミッション機能を開放しさえすれば、毎日水を1L手に入れられるという訳だ。


「ふーん、水ねぇ。今は必要だけど、なんかそのうちミッションで貰うまでもなくなりそうなんだよなー」

「それも含めてデイリーミッションぽいわね。うーん、その為のLv制なのかも」


 確かに、ミッションポイントを集めるとデイリーミッションのLvを上げられるみたいだ。それに期待だな。


 そして何気に重要なことは、らしいということだった。

 つまりミッション機能の解放、そしてLv上げは早めに済ませた方がいいということだな! ……いや、だったらもっと親切にチュートリアルしてくれよ!?


 ……と、デイリーミッションの方はこのくらいにしておくとして、次に通常ミッションの方を確認する。こちらは累計のモンスター討伐数やダンジョン踏破数に応じてアイテムを貰えるというものだった。

 ざっと見たところ、報酬には『スキルカード』や『ポーション』などが並んでいた。普通に考えると、スキルカードはスキルを習得するアイテム、ポーションはHPやMPを回復するアイテムだろう。……たぶん。


 そして寿限ムはざっとミッション機能を確認し終えると、部屋をぐるりと見回す。


「……壁に松明たいまつが掛けてあるな」


 松明の灯りが、薄暗い石造りの迷宮の中を煌々と照らしている。

 いや待てよ? よく考えてみたら松明って、間違っても自然の産物ではないよな?

 迷宮は放っておいてもそのままだけれど、松明だけは必ず誰かが火を点け直さないとそのうち灰となって消えてしまうはず……!


 …………。


「まさか、ここに人がいたのか!?」

「多分だけどいないわよ。……ゲームあるあるよね。"誰がつけてるのか分からない松明"って」

「いやでも、どう考えても誰かが点け直してないと辻褄が合わないだろ!?」

「……ふーん、それじゃあ試してみましょうか」

 

 そう言って刻花は、デイリーミッションの水を松明の炎にかけて消火する。

 そして寿限ムと刻花の二人はまた扉の向こうまで戻ると、そこから引き返して再度火を消した松明の前まで戻るのだった。


 おかしい、間違いなくさっき刻花が火を消したはずだよな……!?

 。これはもしや……?


「松明が"再点火"されてるッ……!? やっぱり人がいたのか!?」

「はぁ……だからいないってば。そういうものなのよ。アンタ、やっぱりまだゲームに慣れてないわね……」


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