第20話 恋っていうヤツ
◇◇◇◇◇
「よろしくね、ロエ君!」
「……まあ悪くない条件だったからな」
目を覚ました俺にメイラとガジェットがポツリと呟いた。
「はっ? 何言ってんの、お前ら……」
唖然とする俺の横からクレアが口を開く。
「お二人にも、わたくしの領地に来ていただく事になりました。ロエル様の仕事の補佐をして頂きます」
「えっ、あっ。いやいや……」
こんな事なら寝るんじゃなかった。
話がこんがらがって面倒でしかない。
はぁ~……待て待て。
他人に迷惑をかけないのが信条の俺にとってこの縁は無かった事にするものなのだが?
ガジェットもメイラも何考えてる?
俺の考え方は知ってるだろ? ったく……。
「ロエル様。出立の準備はお済みですか?」
クレアも平然と俺に問いかけるが、俺の頭にはガジェットの言葉が蘇る。
ーーボスがお前を手放すわけないだろ。
散々好き勝手して来たツケだ。
これは俺もどこかで理解してた。
あのジジイに目をつけられて普通の生活は無理に等しい。
サシでのタイマンなら問題はない。
でも、先程同様、“守るもの”がある戦闘はめんどうだ。ガジェットが本当にその気だったなら、誰か1人は確実に死んでいたはずだ。
まあそうしないのもわかってるから、俺も生かしている。
仮にガジェットがラファエルを殺していたのなら、俺は迷わずメイラとガジェットを殺していた。
要は……クレアは俺を知らないって事だ。
“昔”……いや、『クレアの時間』の中で俺に会っていたとしても、おそらく“裏社会”に身を置いた事はないんだろうな……。
俺はポリポリと頭を掻いてからクレアを「ふっ」と鼻で笑う。
「……ロエル様?」
ああ。本当に綺麗な女だ。
こんな女で童貞捨てたかった……。
俺は少し苦笑して口を開く。
「クレア。お前は少し“裏”を舐めてるようだな?」
「……はい?」
「お前の兄貴の身なりからして、かなりの地位にいるんだろ?」
「はい。兄はこの王国の騎士団長ですが……、それがなにか?」
「裏の人間は気配を消すなんて朝飯前……。お前の兄貴もシャルルも、何がなんだかわからなかったんだろ? 根本的に人種が違うんだ。『表と裏』は……。こっちの常識はさっきわかっただろ?」
俺がシャルルに視線を配ると、シャルルはグッと唇を噛み締めた。
「ロエル様……。お話が見えませんが?」
「裏の人間……、あの“ジジイ”が本気を出せば王国なんて一瞬で落ちる……」
「……」
「これは比喩じゃない。事実だ」
クレアは少し眉を顰め、思考を巡らせ始めたようだが、いくら考えても変わらない。
有象無象の集団なんて相手にならない。
王都を焼き払い、自爆すりゃ相打ち程度にはなるかもしれんが、気配が察知出来ないなら話にならないんだ。
俺は、俺の信条の元、生きていく。
「クレア……。俺はクズだ。だが、善人に迷惑はかけたくない」
「ロエルさ、」
「お前はいいヤツだし、かなり美人だ……。“俺のせい”で死ぬことは許さない」
「…………」
クレアは真っ直ぐに俺を見つめるだけで何も言わない。無表情に近い顔は少しだけ怒っているようにも感じる。
だが、こりゃもう無理だ。
いくらクレアが“何度もやり直せる”としても、リスクが高すぎる。ジジイと俺の決定的な違いは、権力と数。
戦闘力では一切負ける気はないが、裏社会のドデカい椅子に座り続けるには一種のカリスマ性のようなものが必要であり、俺はそこに関して圧倒的に劣っている。
でも、俺にも誓いはある。
俺はクソ親父と一緒にはならない。
あのクズのように他人に迷惑をかけながら好き勝手に生きるような事はしない。
でも、だからと言って、俺から自由を奪うのは許さない。
俺は好き勝手に生きていく。適当にダラダラ……カジノで遊んでストリップ小屋で悶々して、好きな時に寝て起きて……。
ふっ、少しでもいい夢が見れた。
随分と刺激的な2日間だった。
シャルルの腰の柔らかさも、クレアの胸の弾力も一生忘れられない“おかず”になったよ……。
俺はまた「ふっ」とクレアを鼻で笑い、ガジェットとメイラに視線を配る。
「お前らもなんてザマだよ。こんな“小娘”に懐柔されやがって……。ジジイを敵に回せるのは俺だけ……。悪ぃ事言わねーからさっさと帰れ、ばぁか」
「「…………」」
てっきり憎まれ口の一つや二つが返ってくるかと思いきや、2人は少し頬を緩めてクレアに視線を向ける。
まるで、“見せてみろ”とでもいいたげな品定めのような視線……?
俺は再度クレアに目を向ける。
「ロエル様……。アナタの所有権はわたくしにあります」
「……はっ、そりゃ従わせる力があって初めて、」
「ロエル様が仰ったではありませんか。……敵に回せるのはロエル様だけだと……」
「いや、だから、」
「わたくしを守って下さい。一生……。それが出来るのはロエル様だけ……」
「……」
「ロエル様はわたくしのもの……。もう借金はありません。わたくしは全てを捨ててでも、ロエル様を買ったのです」
「クレア……」
「ロエル様はもう……、正当な理由で自衛できるのですよ?」
「…………」
「“善人に迷惑をかけない”。さぞ、ご立派な生き方ですね。ですが、迷惑をかけず生きていける人間などおりません」
俺はゴクリと息を呑む。
「わたくしが反撃の理由をあげましょう。ロエル様の全てを肯定して差し上げましょう……。そもそも、ロエル様に選択肢はございません……」
クレアはそう呟き、綺麗に微笑む。
「アナタがわたくしをお守り下さい。アナタがわたくしの街をお守り下さい。アナタが未来ある孤児をお救い下さい」
「俺は……」
「わたくしはアナタに力の使い方をお教え致します。わたくしから逃げられると思わない事です!」
俺は何やら圧倒されていた。
何に?って、そりゃ美しさに……。
女神のようだ。
真紅の瞳に見つめられると息もできないほどに胸が苦しくなる。
クレアは何も言わない俺に深く息を吐いた。
「どうしても無理だとおっしゃるのなら……そうですね。“仕切り直し”です……」
バサッ!!
クレアはドレスを舞い上がらせると、太ももに仕込んでいたナイフを手に取り、勢いよく自分の首に突き立てようとするが、
ガッ!!
俺は咄嗟にクレアの腕を掴んで、それを阻止した。
「な、何考えてんだ、バカ!!」
俺が叫ぶとクレアはグッと視線を伏せる。
「一緒に行きましょう、ロエル様……」
「……む、無茶苦茶だぞ、お前……」
動悸が激しい。
安堵と焦燥が押し寄せ、もう何がなんだかわからない。
フワリと甘い香りが鼻をつく。
クレアが俺の耳元に顔を寄せたのだと言う事を理解するのに少し時間がかかった。
「ロエル様……。“全てが整ったその時”……。わたくしを貰ってください……」
「えっ……?」
「いつか、わたくしをロエル様のものにして下さい……という意味です」
俺から離れたクレアは尋常ではないほど顔を赤くして俯いている。ナイフを持つ手は小刻みに震えて……。
ドクンッドクンッドクンッ……!!
俺は死にそうになっていた。
もうなんでもいい。
クレアのために生きてみりゃいい。
もう知らねーよ。
クレアを俺の嫁にするって決めたから。
どこだろうと行ってやる……。
「し、仕方ねぇなぁあ!! い、行きゃあいんだろ、行けば!!」
俺は一度叫んでからゴクリと息を呑み、クレアにスッと手を差し出す。
「……さ、さっきの言葉、忘れねえからな」
「……はい。もちろんです」
俺たちは握手をした。
俺が初めて俺以外のために生きる決意をした瞬間であり、初めて恋っていうヤツを自覚した瞬間だった。
※※※※※
ロエルは知らない。
この先に待ち受ける喜怒哀楽を。
この「革命」の果てに待つ「幸せ」を。
ロエルたちの「革命」はここから。
まだ始まったばかりなのだから。
〜〜〜【あとがき】〜〜〜
ここまで読んで下さった皆様!
本当にありがとうございました!
少しここで落ち着きましたし、本作はこれにて完結とさせて頂こうかと思います!
息抜きの合間に一気に書き進めたはいいのですが、「あれ? コイツら全然王都でない!」って作者がなってしまって……ww やっと物語の序章が終わった時には燃え尽きてましたww
「いい暇つぶしになった!」
「続きも見たかった!」
少しでもそう思って下さいましたら、是非フォローと☆、コメント等して下されば幸いです!
また、新作も投稿開始致します!
『冒険者A、地味すぎる聖女の素顔を見てしまう~実は没落貴族の次男だが、量産型の冒険者を演じているスキル【黒雷】の俺が、平民あがりの聖女に「バラしたら殺すから」と脅された件~』
久しぶりに自信がありますww
是非、是非、ご一読頂けましたら幸いです!
よろしくお願いします!
借金8億の天職【家事師】のクズ男、公爵令嬢に買われる~借金しながら死ぬまで豪遊するつもりだった最強の俺、「アナタの所有権はわたくしにあります」って天使な令嬢が迎えに来たんだが?〜 夕 @raysilve
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