第8話 vs.クリスタルドラゴン ①
◇◇◇◇◇
ーーvs.クリスタルドラゴン
パキパキパキパキパキパキッ……
クリスタルが無数の青白い鱗へと変化し、せっかくの絶景が消え失せた。
バサバサと巨体を浮かし、血走った紺碧の瞳……瞳孔は金色だ。
恨みはない。
コイツに自我があるのかもわからない。
“善”であれば、俺は魔物でも殺さない。
と、言いたいところではあるが、爆乳が待っている。
俺の善悪の基準ラインはあってないようなものだ。いかなる理由があろうとも、俺やクレア、シャルルに敵対すれば……。
キュォオオオオオオン!!!!
クリスタルドラゴンは咆哮と共に、魔法陣を展開する。
バキバキバキバキッ!!
夜空に散りばめられる無数のクリスタルに俺はニヤリとほくそ笑んだ。
「はい、死刑!」
俺は身体強化系のスキル《爆買い》を展開して超速で移動すると、置きっぱなしになっていたクリスタルまみれの“シンセンケン”を手に取る。
「ロエル様?」
「どうする気、」
グガァア!!!
クリスタルドラゴンが再度咆哮をあげると、無数のクリスタルが槍のように降り注いでくるが、何の心配もない。
《いそじん》は常時発動。
俺たちに着弾するクリスタルの数は38個だ。
俺はシンセンケンをグッと握り直すと、
パンッ、パンパンパンッ……
着弾する全てのクリスタルを叩く。
全てをクリスタルドラゴンにお返ししてやろうかと思ったが、当たった瞬間に砕け散り、
ドスドスドスドスドスドスッ!!!!
俺たちが立っている場所以外には無数のクリスタルが地面を砕いた。
「おい、シャルル。死んでも守れよ!」
「「…………」」
「……はっ? おい……2人とも、ボケーってすんな! シャルルはちゃんとクレアを守れよ!」
「……き、貴様に言われなくとも、」
「よし! 行ってくる!!」
ガコッ!!
俺は地面を蹴り出し跳躍する。
(“シンセンケン”についてるクリスタルの方が固い……。じゃあ、本体と“コレ”はどっちが固い?)
俺は跳躍の勢いのまま、シンセンケンを振りかぶるが、
キュォオオオオオオン!!!!
クリスタルドラゴンは咆哮を上げ、
ブシュゥウッ!!
身体から“霧状の何か”を噴き出す。
「すぅううっ!!」
即座に「吸い込む事が危険」と判断した俺は、あらかじめ息を大きく吸い、
(《戸締り》!!)
防御系の“生活技能”を発動させる。
このスキルは俺に何も通さない。
それは空気すらも同様であり、息が続くまでしか発動できない。
が……、それで充分だ!
ガキンッ!!!!
俺は振りかぶっていたシンセンケンをクリスタルドラゴンの顔面めがけて、力いっぱいに振るった。
激しくぶつかり合ったクリスタルがチリチリと火花を散らした瞬間、
ドガァアンッ!!!!
巨大な爆発が起こる。
ズゴォオオオオオオオ!!
吹き飛ばされ、地面をドガドガと転がり、大木に背を打ちつけてなんとか留まる。
「ぶっ、はぁあ!! はぁ、はぁ、はぁ……。なんだ? 死ぬかと思ったぞ! って、アッツ!!」
俺は余裕で無傷だったが、服が盛大に燃えており、軽くヤケドを負う。
「《消毒》……」
俺は治癒系のスキルを発動させて、ヤケドを癒しながら、相手を見上げる。
そこには顔面を失ってもなお、飛び続けているクリスタルドラゴン。
スゥー……
めんどくさい事に、砕け散ったであろうクリスタルは顔面に集まっては再生を開始している。
「……おぉ。こりゃ、強いな……」
俺がポツリと呟くと、手に持っていたシンセンケンについていたクリスタルがピキピキと音を立て、パリンッと砕け、俺は大きく目を見開いた。
「ハハッ……完璧に抜いたぜ!!」
これはもう屁理屈も必要ない。
「ククッ、これで言い逃れはできないぞ、シャルル……」
どうせ、「抜いてないではないか!」とか難癖つけられるのは目に見えていた。だが、これはもうぐうの音もでないだろ。
(あとは“アイツ”を屠るだけだな……)
シンセンケンを片手にほくそ笑みながら、クリスタルドラゴンをどう料理するかを思案する。
さてさて……、どうするか。
砕き続けても意味ないか……?
剣が手に入ったし、再生不可まで《調理》で“斬る”か?
……《加熱》で熱する?
いや、クリスタルは“溶けそう”にない。
《乾燥》で干からびさせる?
そもそも水分あんのかな……?
《洗濯》で“浄化”? ……“砕いても死なない骸骨”とかゾンビじゃないしな。
《掃除》で削っていくにはデカすぎるか……。
……えっ? どうすんの?
あのドラゴン死なねぇじゃん!!
「あっ……だから封印してたのか」
俺のスキルは基本的に消耗が激しい。どれが有効かちまちま確認している暇はない。
いや、待てよ……。
あのクリスタルってかなりの値がつくんじゃ……。
俺はシンセンケンから剥がれ落ちたクリスタルへと視線を向ける。
「《目利き》……」
▽▽▽▽▽
“神竜のクリスタル”【SS】
高い強度と自己再生の特殊効果を兼ね備えており、武具に加工できる素材。
推奨価格:100,000,000B(ベル)。
△△△△△
「い、1億……? ……ふっ。……フハハハハハハッ!!」
俺は笑った。
高らかに笑った。
「無事か!? ……な、何を……笑っ」
「……ロ、ロエル様……」
「おう! いいところに来たな! クレア! 10億はちゃんと返してやるよ! やっぱ、貸し借りがあるのはダメだろ? 対等な関係から始めようぜ!」
「…………」
「ん? なんだ?」
返事がない事に振り返ると、そこには真っ赤な顔で視線を逸らすシャルルと、尋常ではないほど顔を真っ赤にしているクレアが立っていた。
「こ、こっちを向くな、無礼者!! クレア様になんて“モノ”を見せている!!」
シャルルはそう叫び俺に背を向けた。
パチッ……
真っ赤なクレアの真っ赤な瞳と目が合う。
「「…………」」
しばしの沈黙。
「……さ、流石ですね。ロエル様……」
クレアはポツリと呟いて耳まで赤くさせて俯いた。
「…………」
俺はその場に立ち尽くした。
なんかスースーすると思っていた……。
「……も、もう家に帰りたいッ……!!」
ほとんど布を纏っていなかった俺は、あまりの辱めに半泣き……いや、泣いてしまった。
ーーハハハハッ! ちっちぇえ!
ーー見てみろよ、小指みたいだぜ!
ーー可愛いな、ガハハッ!!
7歳の時の記憶が顔を出す。
拉致られ、殴られ、蹴られた。
服をビリビリに破かれ、ガリガリだと笑われ、“小さい”とバカにされた時の記憶が蘇ってしまった。
キュォオオオオオオン!!!!
巨大な咆哮が森に響き渡る。
「な、何が“流石ですね”だ!! どうせ、“小さい”って内心、笑ってんだろぉお! 大きくなったら、大きくなるんだからなぁあ!!」
俺の捨て台詞も森に響き渡った。
~~~【おまけ】~~~
ロエルがクリスタルドラゴンへと駆け出し、取り残された2人にはなんとも言えない空気が漂っている。
「……シャ、シャル。ァ、“アレ”で小さいの……? “アレ”からもっと大きく……?」
「ク、クレア様!! そ、のような発言はいかがなものかと思います!」
「……し、死んじゃうわ。さ、裂けるでしょう……?」
「ク、クク、クレア様!!」
2人して顔を真っ赤にさせて、ロエルの“ロエル”に恐怖した。
すっかりトラウマを克服している事に、ロエル自身は全く気が付いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます