第9話 vs.クリスタルドラゴン ②





   ◇◇◇◇◇



 ーーvs.クリスタルドラゴン




「クソ、クソ、クソクソッ!!」



 俺は半裸で泣きながらクリスタルドラゴンへと向かっている。



 もう倒す算段……いや、金にする算段はついている。シンセンケンについていたクリスタルでも1億。


 このドラゴンから取れる量を考えると、果てしない金額になる。


 そもそも、俺は“魔物狩り”なんて面倒なことをしたくない。コレが冒険者にならない最大の理由だった。


 魔物について勉強するのも面倒だし、旅に出るのもだるかった。


 そもそも返す気がないから、その必要もないと判断してギャンブルに明け暮れた。



 正直、返そうと思えば返されたかもしれない。



 だが、断固として否だ!!



 誰とも関わらない冒険なんて馬鹿らしいし、俺のようなクズに心を通わせる仲間ができるとも思えない。


 “孤独”を受け入れる代わりに、俺は“怠惰な豪遊”を選んだんだ。


 魔物狩りを“させられていた”時は《目利き》もなく、魔物が大金に変わるなんて知らなかったのも、一つの理由ではあるが……。



 重要なのは『今』は違う……という事だ。



 クレアとシャルルが心から俺を信用し、ずっと生涯を共にするなんてのは、夢のまた夢なんだろう……。



 だが、男にはやらなきゃいけない時がある。


 どうしても譲れない事がある。

 突き動かす衝動を抑えられないときがある!



『クレアで童貞を捨てるためなら魔物なんて余裕で狩る』



 そのためには、



『クレアの爆乳を触り、“大きくなった俺”を見てもらう!』



 “小さい”と思われたままは死んでも嫌なんだ! 『いつか抱く女』に「可愛らしいですね……」なんて思われたくないんだ!


 なんせ、俺は膨張率には自信がある!

 年に数回は、自分でもびっくりする。



 つまり、まとめると……、



「……俺の悲願(童貞卒業)のために死んでくれ!」



 グッ……



 俺はシンセンケンを強く握り直し、再度爆買いを発動。高く跳躍し、“刃物”を持った時にのみ使えるスキルを発動させる。



「《調理》……」



 ズズズッ……


 シンセンケンは淡く発光する。


 このスキル時に斬れないものはない。


 難点は、“処理したものは食べなければならない”という一点だが……、



「……お前の目玉は美味そうだな!!」



 基本的に“加熱処理”さえすれば、俺はなんでも食べれる。貧困街出身の極貧孤児を舐めんな!とでも言っておく。



 グガァアアッ!!



 クリスタルドラゴンは俺の接近に咆哮をあげ、俺の周囲を取り囲むように、複数の魔法陣を展開。



 ポワァアア……



 それらは徐々に重なり合い、円形で俺を包み込もうとするが、



「バカが!!」



 スッ、スススススッ!!!!



 俺は“魔法陣をぶった斬る”。



 キュゥオオオオオ!



 クリスタルドラゴンは再度、“霧状の何か”を身体から噴き出したが、



「ハッ!! 遅ぇよ!!」




 スパ、スパスパスパスパッ!!!!



 火花すら飛ばない斬撃を喰らわせてやる。


 爆発するはずがない。

 一切の摩擦がないのだから……。


 俺はクリスタルドラゴンの四肢と翼を斬ると共に、大きく息を吸い《戸締り》を展開。


 

 まだ“サイズオーバー”の胴体と首、そして、唯一、食べれそうな目玉を両断する。



 グガァッ……



 咆哮はもう上がらない。

 “霧状の何か”はスゥーッと身体に還っていく。



「これで乳は俺のもんだ!! 《エコバッグ》! “16”」



 ズワァアア!!!!



 斬り分けたクリスタルの数々。

 その一個一個を個別の《エコバッグ》に収納する。


 コレも名前は意味不明だが、なんかいい感じの鞄……、俺だけの“亜空間”の収納袋を生み出すスキルだ。



 ブンッ!!


 腕を振り、風圧で上空移動。


 パシパシパシパシパシッ……


 細切れのクリスタルに触れて、


「《収納》!」


 “エコバッグ”に収める。


 サイズは5メートル以内。

 数は21まで。


 制限こそあるももの、コレでクリスタルドラゴンの破片は『俺のモノ』となる。



 キラキラッ……



 クリスタルドラゴンの“残りカス”が風に吹かれて月光を反射する。


 【家事師】の“生活技能”はぶっ壊れている。


 でも、単体で無双できるものはないし、何かしらの制限は確かにある。



 だが、その組み合わせは無限だ。

 俺はそれらを操り、『最強』に至った。



「ハハハハッ!! 再生できるもんならしてみろ! これで俺の勝ちだ!」



 俺は勝利宣言をしながら地面へと落ちて行くが、




 ポワァア……!!




 夜空に眩い光が出現する。

 その光に向かって、サラサラのクリスタルが集まっていく。



「……マ、マジかょ」



 正直、もう“アレ”以外のスキルを発動させる魔力は残ってない。



(《番犬注意》は使いたくないんだがな……)



 タラッと冷や汗が頬を伝うが、《いそじん》には反応はなく、危険は待っていないと判断する。



「……ん? “アレ”はなんだよ……」



 俺は徐々に人型になっていく光を見つめながら大きく首を傾げた。





  ◇◇◇【SIDE:シャルル】





 ドサッ……!!



 ロエル・ジュードが地面に落ちる。



「ロエル様!!」



 クレア様は即座に走り出したが、私は反応できずただその場に立ち尽くした。




 ゾワゾワゾワッ……



 先程から身体に虫が這ったような感覚が止まらない。



「に、人間じゃない……」



 ポツリと呟くと、また背筋が凍る。



 『ロエル・ジュード』。

 裏社会の最強である“隻眼の悪魔”の本当の戦闘を目の当たりにした私はカタカタと震えている。


 王国全土に根を張る“闇金ギルド”。


 違法薬物をチラつかせて弱い心に漬け込み依存させ、女は売物、男は奴隷に堕とす悪徳ギルド。


 子供にも容赦がなく、身体の部位を病弱な貴族の息子、娘に高額で売りつけることでパイプを作り、あっという間に絶大な権力を手にした“悪”の化身。


 目をつけられたら最後。

 骨の髄まで搾り取られ、待っているのは破滅しかない……。



 だが、私があの男を“調査”している時。

 話を聞いた誰もが口を揃えてこう結論づけていた。



 ーーまぁ……、“アイツ”は例外だけど。



 毎回、締めの言葉は同じだった。


 闇金ギルドをカモにして遊び歩く奇人。

 人を殺める事にも躊躇がない悪魔。

 

 凶悪な犯罪者だらけの闇金ギルドをただ1人で半壊させ、「もうどうすることもできない」と、「これ以上の損失は許されない」と諦めさせた裏社会最強の男。



 私は「ロエル・ジュード」を調査した結果、クレア様に近づけてはならないと判断した。関わり合うべきではないのは誰の目からみても確かなものだったはずだ。



 ーーねぇ、シャル。……会ってみなければわからないじゃない。



 クレア様は頑なにロエル・ジュードを欲した。



 そして今、私は立ち尽くす事しかできていない。



 “裏社会最強”……?

 そんな生優しいやものではない……。


 この男は“人類最強”……。

 いや、『世界最強』……。



 だって、絵物語の世界の話しだ。



 “古の死竜、クリスタルドラゴン”。

 “邪神の使い魔”。

 “討伐不可の最凶の邪竜”。



 まさか実在しているとは思わなかった。

 まさか、“神器”で封印していてるとは思わなかった。


 

 私は悪い夢でも見ているんだ。


 人間があんなにスキルを所有しているはずがない。そもそも、神器を取り除けるはずが……、人間が1人で“伝説”を打ち破る事などできるはずがない……。



 名ばかりの“伝説”だったのか?


 そんな事はない。

 それ以上の“化け物”がここにいただけ。




 ポワァア!!



 “古の死竜”が消え失せた場所に、強烈な光。光は幼子の形に変化し、徐々に発光を終えていく。



「……ク、クレア様……!!」



 私はやっと駆け出した。

 まだ油断ができる状態ではないが、もう認めざる得ない。



 ロエル・ジュード。

 敵に回す事は文字通りの「最悪」を意味する。


 仕方がない。

 もう出会ってしまったのだ。


 コレは夢ではなく、現実なのだ。

 少しクセはあるかもしれないが、クレア様のおっしゃる通り、いつかは仲良くできるように……。



 “ロエル様”を受け入れる事を決意した私は、フワフワと落ちてくる“羽の生えた子供?”を見上げながら2人の元へと走るが……、





「…………えっ?」




 2人の姿を確認した私は絶句する。




「んっ……、ロ、ロエル様……。ぁっ……」


「す、すげぇ……。コレがおっぱ……」



 私に気づき尋常ではないほど頬を染めたクレア様。


 そして……、クレア様の豊満なお胸に手を添えて“鼻血を垂らしているクズ”は、私と目が合うと顔を引き攣らせた。



「…………シャ、シャル……! こ、これは、その、違うの……。い、勢いとはいえ、約束を反故にするわけにもいかなくて……」


「よ、よぉ、シャルル。ちゃ、ちゃんと抜いたし、ドラゴンもやっつけたし……、その……。賭けは賭けだし……?」



 私の頭は混乱しすぎている。


 でも、コレだけはわかる。



「だっ……誰が貴様のようなクズを認めるか! ク、クレア様のお胸に触れるなど……ぜ、絶対に許される事ではないぃい!!」



 私の怒号が響き渡る。


 顔が尋常ではないほど熱くなり、目の前の視界はグルグルと回る。



 視界が暗闇になる前に見えたのは、慌てて私の方に走ってくる2人。



 そして……、その背後にスッと降り立ち、バサッと羽を広げた『金髪金眼の幼女』だった。


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