第3話 おぱおぱっ!
◇◇◇◇◇
ーー王都
カラカラカラッ……
俺は馬車に揺られている。
座ったこともないようなふかふかの椅子に腰掛けて……。
目の前に座り少し恥ずかしそうにしている天使、いや、「クレア」にドッキドキしながら、その横の麗しのメイド、「シャルル」にクソ睨まれている。
ーーお話しは馬車の中でさせて頂きます。
クレアに手を引かれるがまま馬車に乗り込み、この異様な状況が出来上がったのだが、さっきからワクワクとドキドキが止まらない。
一生、縁がないと思っていた“夢の果て(ハーレム)”と言ってもいい。
何がどうなっているかなんてどうでもいいくらい、馬車の中はいい匂いだ。
めちゃくちゃ女の匂いがするし、こんな空間に来れただけで俺はもう大満足だ。死んでもいいとすら思えている。
だって、俺の脳内では、
ーーわたくし、もう我慢できません!
なんて豪華なドレスを自ら引き裂き、擦り寄ってくるクレアが……、
ーーお、お前の強さに惚れてしまった……。
なんてツンツンしながら顔を真っ赤にして、メイド服のボタンを開けているシャルルがいる……。
(ハハッ……ハハハハッ! いいねぇ)
“妄想”は得意中の得意だ。
腐った食べ物でも、屋台が立ち並ぶ中であれば食べ歩きする事すらできるし、目の前の美女たちの服を頭の中で脱がせるなんて0.1秒もあれば余裕だ。
(……ふふっ、コイツらが女同士でってのも悪くないか? いやいや、それで“長いヤツ”が必要になって……2人にせがまれて……クククッ)
決して叶わない妄想を繰り広げ、思わず顔がニヤけてしまえば、
「何がおかしいのだ……。気味が悪い……」
ポツリと聞こえた声に現実に戻る。
クレアは緊張した感じでジッと俺を見つめてくるだけだし、シャルルに関してはめちゃくちゃ軽蔑の視線を向けてくる。
まぁ、現実なんてこんなもんだ。
俺としても馴れ合う気はないし、とりあえず、一生の思い出をありがとうって感じだ。
「……で? なんだっけ?」
「……はい。再度申し上げますが、ロエル・ジュード様。あなたの所有権はわたくし、“クレア・フォン・ヴェルファリス”にあります」
「ふっ……つまらない冗談だな」
「……“闇金ギルド”はロエル様から借金を取り立てる事を諦め、アナタ様の“所有権”を売りに出しました」
「……? さんざん威張っておいて、ガキ1人殺す事もできないと認めたのか? ハハッ、こりゃ傑作だ」
「……その通りです。闇金ギルドのメンツは丸潰れですね」
「……ふっ、それはどうだかな。まぁアイツらは、借金の担保として“俺自身”を持っているから、それも可能ではあるか」
「えぇ。それでわたくしは、」
「でもな、“お嬢様”。そんなもんあってないようなもんだぞ? “所有権”ってのは従わせる力がないとなんの効力もないんだ」
ガタッ!!
ご主人様を嘲笑する俺にシャルルは即座に反応したが、クレアはそれを片手で制止する。
「……わたくしがこれから統治する“辺境都市”の開拓資金“10億B(ベル)”……。わたくしはその全てをロエル様に注ぎ込みました」
「……いやいや、何の冗談だ?」
「冗談ではありませんよ?」
「ふっ、ハハハハハッ!! おい、俺はクズだぞ?」
「……本当のクズは自らをクズと名乗りません」
「ハハッ! 残念ながら俺はクズで間違いない! 大金を使って俺を買ったって? ぶっ飛んだギャンブラーだな?」
「……仮にそうであったとしても、わたくしは勝てるギャンブルしかしませんよ?」
「調査不足じゃないのか? 俺がお前に従う保証なんて一つもないんだぞ?」
「…………そぅ、ですか……」
クレアは少し困ったように視線を伏せた。
まったく。ご苦労なこった……。
どこの誰だか知らんが舐めてもらっちゃ困る。“俺を買った”だなんて言われても、俺の意思は固い。
孤独のまま、自由を謳歌し続ける。
ダンジョンセック○を横目にゴソゴソして、ダンジョン内に置き去りにされているヤツをつまみに酒を飲む。
金を借りられたらカジノに出向き、勝ったらストリップ小屋で豪遊。家に帰って楽しかったな~と死んだように眠る。
暇になれば、“自作の鎧人形”を遠隔操作して、“仮想社会”で冒険者の真似事をして遊び尽くすんだ。
『孤独こそが最大の自由』だ。
俺は誰とも深く関わらない。
美女2人で来れば俺がホイホイと従うと思ったか? 俺の借金をチャラにすれば、感謝しまくって恩を返すと思ったか?
ぶさけて貰っちゃ困る。
そんな事で…………、
「……ん?」
あれ? 待て待て……。
俺、借金無くなったの…………!?
かなり重大な事に今更気づいた俺。
ガバッとクレアに視線を向ければ、そこには少し顔を赤くして決意を固めたようなクレアが身を乗り出してきた。
「えっ、」
ガシッ!!
俺の手を取るクレア。
俺の足元に跪き、自分の胸に押し当てている。その尋常ではない顔の赤さとウルウルの上目遣いに童貞クソ野郎の俺は完璧にやられてしまう。
「あじゃらわwpamwgajmっアババッ!!」
ブシュゥウッ……
噴き出した鼻血を残りの片手で押さえ、ドンドンドンと心臓をぶん殴ってくる何かを必死で収めつつも、悲しいかな全神経は右手に集中している。
「お願い致します……。ロ、ロエルさま……。わたくしに力をお貸しください……」
更に引き寄せられた右手は、モニュンッと沈み込んだ。
(ん、ぴゃああああああああああ!!!!)
俺は心の中で絶叫し、思わず天を仰いで感涙する。
(お胸って……やぁかいねぇ……)
もう何も考えられずに神におっぱいの素晴らしさを報告していると、
「クククククク、クク、クレア様!!!!」
真っ赤な顔で目をグルグルとさせているシャルルが叫んだ。
それを合図にクレアは耳まで赤くしながら席に座り直し、カチャカチャと震える手で紅茶を啜り平静を装った。
シィーン……
俺たちは3人して顔を真っ赤にさせてしばし沈黙した。
三者三様の赤面。
混沌(カオス)とはコレを言うのだろうと思ったが、右手に残る温かい感触に鼻の穴を膨らませる事しか出来なかった。
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