大文字伝子が行く・改

クライングフリーマン

Linen殺人未遂事件

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 青木新一・・・Linenを使いこなす高校生。

 久保田刑事・・・愛宕の丸髷署先輩。相棒。


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「ただいまー。高遠、腹減った、メシメシ!」

「お帰りなさい、先輩。もう作ってます。」「今日は何だ?」「オムライスです。あのー、良かったでしょうか?」「いいよ。オムライスより好物なのが目の前に見えるが。」

 高遠は冷や汗が出てきた。この男言葉の女性が高遠の先輩、大文字伝子である。高遠は大学の後輩、高遠学。つい最近まで、事実婚だったが、伝子に請われて伝子の籍に入った。だから、戸籍上は「大文字」なのだが、今でも伝子は高遠のことを「高遠」と旧姓を呼び捨てにしている。

 高遠は売れない小説家。伝子は一流の翻訳家で、かなりの格差婚。高遠が家賃滞納で追い出された時に、「一晩だけだからな。」と言われ、伝子のマンションに高遠は転がり込んだ。

 高遠は、アパートが見つかるまで、という意味で受け取っていたが、伝子の思惑は違った。

 主夫が必要だったのだ。伝子が用意してくれた予備のベッドに伝子は所謂夜這いしてきた。「一晩だけだからな。」と、伝子は言った。一夜の宿代か?と思っていたが、翌朝伝子が言った。「高遠。私と同棲しろ。毎晩抱いてやる。」

「はあ?」

 かくして、伝子と高遠はセックスパートナーになり、収入が乏しい高遠は伝子にほぼ養われる、所謂「ヒモ」になった。

 伝子は、小説家として売れなくとも、書き続ければいい、と言ってくれた。高遠は主夫の合間を縫って、思いつくまま小説を書いている。以前、ある賞の応募をした時、出来上がった原稿を高遠から取り上げ、さっと見て言った。「校正が必要だな。」伝子は自分の翻訳の原稿の締め切りを、出版社に掛け合い、延長した。そして、徹底して校正をしてくれた。

 落選が決まった時、高遠と一晩中セックスし、高遠を抱きしめて泣いてくれた。

「運が悪かっただけだ。私が見こんだパートナーが非凡である筈がない。しっかりしろ。私がついている。」力強い言葉だ。昨今流行りのLBGTとかジェンダーとかは関係ない。

 精神的には性別が逆転はしているが、高遠たちは愛し合っている。先輩後輩の優先順位は変わらないが。

 夕食を食べながら、伝子は高遠に尋ねた。「高遠。お前、『リネン』って知っているか?」

「何の理念ですか?」「バカ。スマホ買ってやったろ?」

「これっすか?」「お前も小説家なら世間の動向を把握しろ。今度「BasebookもAchitterも教えてやる。まずはLinenだ。貸してみろ。」

 伝子の言うことは尤もだ。私は、未払いが続いてとうとう解約したピッチ以来、通信機器は分からない。ガラケーの時代すらない。伝子はあっと言う間にLinenをインストールした。

「実は、高校の後輩の南原から相談を受けている。先日の、高校生が高校生を包丁で刺す事件、覚えているな。」「ああ、刺された方は一命を取り止め、刺した方は口を閉ざしている、とかいう。」

「お前、教員免許持っていたな。」「はい。」「よし、明日私に同行しろ。」「は?」

「私の高校のコーラス部の後輩で、この学校で教鞭をとっている南原だ。こいつは大学の翻訳部の後輩の高遠だ。」

 高遠は、あの事件の高校生の担任教師を紹介された。「よろしくお願いします。南原です。」

「高遠です。」「高遠さんは、産休をとっている教諭の代理で講師をして頂く、ということにしました。大文字先輩はスクールカウンセラーのセラピストということに。」

「すまんな、南原。」「いえ、私も事件の真相を早く知りたいので、無理を承知で顔の広い大文字先輩に相談したのです。」

「お前は、打ち合わせ通りにやってみろ。後で落ち合おう。」「はい。」

 高遠は、教育実習の頃を思い出しながら、被害者高校生のクラスの授業をした。半分位授業した後、「実は急なことだったんで、あまり準備出来ていないんだ。後は自習タイムでいいかい?」生徒たちは歓喜し、雑談を始めた。

 高遠は、あるグループに近づき、話し始めた。

「ちょっと、いいかな?実はLinenの使い方、よく判らなくてね。PTAの連絡にも使っているらしいんだけど、スマホ自体最近持ったばかりでね。ピッチ以来だよ、通信機器持つのは?」

「先生、ガラケーの時代は?」「持っていなかった。」「ひええ。マジ?」一同は笑った。

 実は、高遠は伝子にインストール後Linenの使い方を伝子から教わっていたが、初めて聞く振りをして熱心に聞く。「そうなんだ。」折を見て生徒に質問をする。「手がふさがってて、出れない時はそうすればいいのかな?」「音消しとけば?」

「あ、こういう機能もあるよ。」生徒の一人が僕のスマホ宛にLinenのメッセージを送る。

 そして、高遠のスマホに着信した画面の、高遠のアカウントマークを暫く押した。すると、

『ショートカットを作る キープして保存する 読まないで読んだことにする 削除する』という、4つの選択肢のメニューが出てきた。

「これ、裏技。いちいち開かなくても、後で読める。」「読みたくない場合は?」

「それも使える、うざい奴とか。」「内藤君はうざかった?」皆、黙ってしまった。

 正直な反応だった。

 一方、その頃、伝子は病院にいた。「何ですか?翻訳家?何故、翻訳家のあなたが?」

 久保田刑事は鼻白んだ。「先輩、すみません。私の中学の先輩でして。」と愛宕刑事は説

 明した。

「だからー。何で?」「南原先生が、小学校の後輩でして。」と伝子は答え、手紙を差し

 出した。

 手紙を読んだ久保田刑事は、「南原先生の代わりに宮下君に確認したい、と。我々は

 事情聴取」しているんですけどねえ。」「取り調べじゃないんでしょ、刑事さん。」

 「しかし、意識を取り戻したばかりだし。」

 「10分や15分位、いいですよ。」本庄医師は入って来て、そう言った。

 「先輩。録音取らせて貰えば、変なことは言えませんよ。」「んー。短めに頼みますよ。」

 「じゃあ、早速。宮下君。君はLinenのグループに入っていた。中学時代の友人の内藤君とね。で、Linenに参加する前に、高校に入ってから共通の友人が出来なかった?」

 「青木君のこと?」「青木君もLinenに参加していたのね。」と、伝子は更に尋ねた。

 「うん。」「Linenに参加しようって言いだしたのは内藤君?それとも、宮下君?」

 「僕です。」「君が刺された理由は分かった?」「いいえ。」

 「私は分かったわ。久保田刑事、お手数ですが、拘置所に行って確認して頂けませんか?理由はこれからお話します。」伝子は二人の刑事と被害者の宮下に話した。

 数時間後。事件が発生した高校のクラスに伝子、高遠、南原、愛宕刑事、久保田刑事、内藤のクラスの1グループ8人が集まっていた。

 「では、謎解きを始めましょう。私はスクールカウンセラーではありません。翻訳家の大文字伝子と言います。」

 生徒たちに動揺が走る。伝子は一同を見渡し、続けて言った。

 「刺された宮下君と刺した内藤君は、小学校、中学校と同級生でした。非常に仲が良かった。よくあることです。彼らは同じ高校、即ちこの学校に進学しました。入学して間もない頃、宮下君は同じクラスだった青木君と仲が良くなりました。宮下君には他意はなかったのでしょう。内藤君と遊ぶ時間を楽しむ一方、宮下君は青木君とも別の時間別の場所で遊びます。内藤君も青木君の存在を知り、青木君も内藤君の存在を知ります。

 ある時、転機が訪れます。宮下君の気まぐれで、青木君に内藤君を、内藤君に青木君を紹介し、『1度だけ』3人で遊びます。3人で遊ぼうとしましたが、青木君と内藤君はぎくしゃくして上手く『3人で楽しむ』ことが出来なかったのです。

 そこで、宮下君は内藤君と青木君と自分というパターンを避けるようになったのです。

 次に、2年生になってから、Linenが流行りだしました。宮下君は、このクラスのグループをLinenに参加させました。元々のグループには、青木君もいました。

 そして、直接会わないからいいや、と隣のクラスの内藤君も参加させました。

 ところが、ここで学校側の干渉が入ります。休み時間や放課後に他のクラスには入室してはいけない、という変な校則が出来ました。『進学校だから勉強に集中させる』という目的でした。生徒たちは他のクラスと交流出来なくなったので、今まで以上にLinenに頼ることになりました。メールも既に学校側から禁止されています。PTAの連絡ツールでもあるLinenは、唯一のコミュニケーションツールになりました。

 内藤君は宮下君と交流する手段はLinenだけになりました。ここで、新しい展開です。

 内藤君のメッセージが詰まらない、ださい、うざいという声が上がったのです。連絡は個別メッセージのバケツリレーで伝わりました。内藤君以外のメンバー間で。

 宮下君の提案です。Linenの裏技『読まないで読んだことにする』機能の活用です。

 最初は、個別メッセージだけで、この機能を使っていました。言わば『体裁既読』です。次第に、グループ内メッセージにも利用されました。どうも、送ったメッセージが読まれていない気がする。不安に思った内藤君は、このクラスのグループのメンバーに確認しましたが、はぐらかされているばかり。

 このクラスでも宮下君のクラスでもない青木君にお祭りの日に偶然再会し、内藤君は思い切って青木君に相談します。青木君は、この裏技機能を教えてやり、こう言ったそうです。『バカだな、お前。宮下に嵌められたんだよ。俺もLinen誘われたけど、断った。別の奴とグループ作ってる。』

 長い付き合いの宮下君にも裏切られた。同じクラスの者にも裏切られた。これが殺人未遂の動機です。

 皆さん、確かに内藤君は法を犯しました。罰せられて当然です。で、あなたたちは何の罪もないのですか?こういう話題にしようとか、提案することは考えませんでしたか?真相は永遠に謎になるとでも思いましたか?今回は宮下君が生きていたから、早く明るみになりました。亡くなっていたら、警察の捜査能力なんてたかが知れている、とでも思いましたか?いずれ、解明されてしまいますよ。私の後輩は優秀ですから。

 もう仲直りなんて出来ないでしょう。イジメは虐めですから。でも、一生この罪を負って生きなさい。」

 一同はしゅんとなって聞いていた。逃げ出す者はいなかった。

 伝子の長い話の後を久保田刑事が引き取った。

「大文字さんは殺人未遂とおっしゃったが、まだ起訴もしていない。未成年だし、恐らく障害致傷での起訴になるだろう。刑務所ではなく、少年院だ。宮下君は証言すると言っているし、裁判で考慮されるだろう。」

 帰り道。再び宮下君の入院している病院に伝子と高遠と南原と愛宕は向かった。

 病院で、高遠は池上病院の院長と再会した。「あら?高遠さん。」

「あ、彰君のお母さん。」高遠は事情をかいつまんで話した。そして、謝罪した。「すみません、彰君の葬儀に出れなくて。」「困ったわよ。電話は繋がらないし、後で喪中葉書を出したら『宛先人不明』で帰って来るし。」

「こいつは、ホームレス寸前だったんですよ。今は私が保護者です。」「保護者?高遠さん、この方の息子に?」

「いえ、婿養子です。」と高遠は弁明した。「まあ。本庄病院と池上病院は今度合併するのよ。じゃあ、私はこれで。」

 池上葉子と別れた高遠と伝子と南原は、学校での経緯を説明した。「申し訳ないことをしてしまった。内藤君には一生かけて償います。」と宮下君は言った。

 南原は、「みんなには伝えておくよ。みんなも反省している。君の誠意も私から内藤君に伝えておくよ。」と言った。

「先輩、ありがとうございました。」と南原が伝子に頭を下げると、「実はお前からだけでなく、愛宕からも相談されたんだ。久保田刑事は実は担当じゃない。久保田刑事は『プロフ殺人事件』を解決出来なかったことを深く後悔していてな。何かある、と担当を志願したそうだ。愛宕は、久保田刑事が咎められないようフォローしたかったんだろ?」

「はい。みんな先輩のお陰です。」

「よし、後輩軍団。私の奢りだ。ついてこい!」

 後輩軍団?長い付き合いになりそうだ。それにしても、先輩の財布の中、あまり入っていなかったような?軍団に借りるかな?

 ―完―

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