第10話感謝

 信じられない事に以前と同じ様な日々が戻ってきていた。

 以前と違っている事は、赤崎達が僕を馬鹿にしなくなった。

 最近2人は僕のことを遠目から窺うだけで話しかけてこなかった。


「「………………」


 視線は感じるが僕から話しかけることはない。

 未だに腹が立っていて色々言いたいことはあるが、奴らに関わっても何も徳はない。


 今日はダンジョンのB7Fで実践授業が行われている。

 ダンジョンは危険なのでグループに分かれて戦闘が行われている。

 黒瀬、白井、緑川、水元、浅黄、橙木をリーダーとするグループ、そして、赤崎と青山は相変わらず一緒に行動していた。


 僕と聖さんは1人行動だった。

 聖さんは全体の様子を見ながら、負傷者が出たら回復する役目だ。

 僕の役目は分からないが、何か教官に考えがあるのだろう……不気味だ……。


 教官は問題が起こらない様に全体に目を光らせている。

 だが、浅黄、橙木グループの様子が気になるのか、そちらの方に意識が行っている気がする……。


 創造主様の言葉を思い出す。

『教官達? あ~、カスですね、カス。いてもいなくても良い、ていうか、いないほうが良い。あんな奴らに教えを請うなんてダーリンも大変ですね……あんな奴ら宇宙の藻屑になれば良いのに……』


 滅茶苦茶口が悪い……。

 教官達に何の恨みがあるんだろう……。

 だが、創造主様の言っていたことも若干理解できる気がする……今なら。


【夜ダンジョン】から帰ってきた僕からしたら、昼ダンジョンはとてもイージーに思えた。

 モンスターの動きは、単調且つ愚鈍。

 それに苦戦するクラスメイト達。


 さらに、どのグループが本当に危険なのか判断がついていない教官。

 僕の目からしたら、浅黄、橙木グループより白井グループの方が危険に見えた。

 ヒーラー2人にバッファー1人、デバッファー1人。

 バランスが悪い。


 純粋なアタッカーがいない。

 勿論、ヒーラーでもバッファーでもデバッファーでも攻撃することは出来るが、破壊力に欠ける。


 僕はよろけるふりをしながらモンスターを倒す。

 白井グループから「「ははははは!!!」」と笑いが起こる。

 僕が偶然モンスターを倒したと思われたようだ。

 上手くいった。


 だが、僕の演技に気付いた人がいた。

 白井グループの鏑木実乃梨さんだ。


「……あ、あの、わざとですよね……? 今の……」


 鏑木さんは何時も自信がなさそうな白井グループのヒーラーだ。

 まさか気付かれるなんて……。


「何のこと……いてて……」


「……い、いえ、良いんです。助けて頂いて有難うございます……」


「助けてなんてないよ……転んだ勢いでモンスター倒しちゃった……カッコ悪いな……」


 まさか気付かれるとは思ってなかったが、無能呼ばわりされてきた僕からしたら、初めて感謝されて嬉しかったのであった。

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