第6話不思議な女性

【ナイト・オーガ】は僕に向かって棍棒を振り回してくる。

 それを軽やかなステップで僕はかわす。

 昼ダンジョンのB5Fで戦った雑魚モンスターとは素早さが段違いだが、不思議と速く感じない。


【ナイト・オーガ】の攻撃をかわしながら、僕の頭にある考えがよぎる。

 赤崎達がいるし、目の前の【ナイト・オーガ】を速攻で倒して彼らを救出しないといけない、本来なら……。

 でも、この瞬間を楽しみたいという欲望が湧いてきた。


「鬼さんこちら手の鳴る方へ」


 挑発してやった。

 人語を理解できるのか分からないが、態度で馬鹿にされていると理解したのか、   元々怖い顔がさらに怖くなる。


 さらに速度を上げて棍棒を振り回してくる。

 僕の中にさらにもう一つの考えがよぎる。

 わざと攻撃食らったらどうなるんだろう?


 創造主様が、僕にはモンスターの攻撃を無効化できると仰っていた。

 立ち止まってみる。

 棍棒が僕の顔目掛けて振り下ろされる。

 僕の顔に棍棒が当たって弾き飛ばされる。

 いや、実際には棍棒と僕の顔の目の前の見えない壁の様な物にぶつかって弾き飛ばされた。


【ナイト・オーガ】は弾き飛ばされた棍棒を拾いに行かず、拳を振り回してきた。

 雑な攻撃といった印象。

 僕はからかう様に攻撃をかわしたり、わざと攻撃を食らってみる。

 やはり攻撃は当たらず、見えない壁の様な物に遮られる。


 僕は赤崎達のほうを見やる。

 まだ大丈夫か。

 でも、もうそろそろ決めるか!!!


「行くぜ!!! いやっほう!!!」


 僕は思いっきりジャンプしながら、【ナイト・オーガ】の顔面に拳をぶち込む!!!

【ナイト・オーガ】は吹っ飛び、外壁に衝突した後、霧状になって消滅していく。

終わった。


『ふあああ、随分時間がかかりましたね……眠くなりました……私ならあんなザコ、秒で消し炭にしてますよ』


「創造主様……随分物騒なこと仰るんですね……でも、ありがとうございます。おかげで倒せました」


『何のこれしき! 愛しのダーリンの為なら! い、いや、何でもないです、忘れてください……』


 ん、どういう事だろう……? 彼氏さんの為に僕にアドバイスをくれたのか? さっぱり事情が分からない……それに創造主様にも彼氏なんているのか……?


『聞こえてますよ? 何度心が読める言ったらよろしいのですか?』


 もういやだ……命の恩人とはいえこの人とは距離を置きたい……。


『ディスが止まらないですね。ラッパーですか?』


 心の声止めたい……。


『まあ、良しとしましょう。ダーリンが無事だったのだから』


 ん? ダーリンって彼氏じゃなくて僕のこと……? そんな馬鹿な……。


『そのまさかですよ。ダーリンはダーリン。貴方ですよ、終夜零さん』


「ええ、ちょっと待って下さい!!! どういうことですか⁉」


『分かりました。今回の事の経緯をご説明しましょう。話は長くなるのですが、私の普段の仕事から説明しないとですね。終夜さんも入学式の日に能力測定受けたと思うのですが、あれ、生徒たちに能力授けてるの私一人なんですよね。ゴミくず教官共は測定しているだけで能力授けれるの私だけなんですよ。なんてブラックな職場……辞めてやろうかしら……なんて創造主様ジョークは置いといて、とにかくストレスが溜まるわけですよ……福利厚生も手厚くないし……そんな毎日を送ってまして、今日もまた仕事かなんて憂鬱な気分になってました……そこで救世主が現れました。貴方です、終夜さん。能力授与候補の生徒をスマホでスワイプしていたら、とんでもないクソイケメンが!!! ドタイプやん! って心の声が漏れそうでした。実際漏れてましたけど。パッチリ二重に、長い睫毛、サラサラの黒髪、健康的な肌艶、どれを取ってもドストライクでした。こんなん、チートスキル授けなかったら女が廃るってなもんで【適性零】、【能力無】を授けました。あわよくばコンタクト取って、ムフフな妄想して涎が垂れそうでした。実際垂れてましたけど』


「話長!!! そして、僕の知らないうちにとんでもない事態に!!! 受け止めきれんわ!!! こんな話……」


『能力授与の見返りに付き合ってくれなんて言いません……陰ながら貴方のことを見守っている健気な女がいることだけでも忘れないで下さい。』


 ウザっ!!! 付き合いきれんわ、この人とは……全ての話が本気なのか冗談なのか分からない……。


『全部本気ですって!! 信じてください!!!』


「分かりました……取り合えず信じましょう……それよりも聞きたかったんですけど、創造主様ってことはダンジョンを創ったんですよね? どうしてですか?」


『はい、この世に存在する全てのダンジョンは私が作りました。理由については、禁則事項です』


「誰と秘密保持契約結んでるんですか!!! 僕のこと、ダーリンとか言うくせに、そこは教えてくれないんですね?」


『申し訳ございません……それだけは無理です……いくら、ダーリンのお願いでも……』


「分かりました……僕も教えてくれると思って訊いてないですから……命の恩人ですしね……当たりが強くなっちゃいましたけど、感謝してるんですよ、これでも……」


『申し訳ございません……ダーリン、愛してます』


「また何か言ってるし……最後に訊きたいんですけど、責めるわけじゃないですけど、ダンジョンを創ったことに罪悪感はあります? 利益より、損失の方がデカいような……死人も結構出てるし……あ、ちょっと訊き方は悪くなっちゃいましたけど、完全に好奇心です……答えたくなかったら答えなくてもいいですけど……」」


『そこに関しては申し訳なく思っております。ただ、物事には良い面もあれば悪い面もある……全ての人が報われる程優しい世界ではないと思います……この世の中は……個人的な意見ですけど……でも、私の心の片隅には全ての人が報われてほしいという思いもあります、何て言ったら見直してくれます? なんちって!』


「最後にふざけなくても良いですよ……貴方の思いは分かりましたから……」


『ありがとうございます。またお話してくれますか?』


「はい、大丈夫ですよ、でも僕からは話しかけれないですけど……」


『そこは男らしく、僕から連絡するよって言ってほしいんですけどね……』


「そうじゃなくて、方法が分からないんですよ……心の声で話すなんて出来ませんよ……普通の人には……」


『そうでしたね……おほほ……では、また私から心の声で話しかけさせていただきます』


「分かりました。色々言いましたけど、なんやかんやで楽しかったですよ。またお話しましょう」


『ありがとうございます!!! 嬉しいです!!! では、名残惜しいですが、おつ創造主~』


「いや、配信者の終わりの挨拶か!!! お疲れ様です~」


 本当に疲れた。

 精神疲労ヤバい……。

 僕には魔素の影響はないらしいが、そんなこと信じられない位疲れている……。


【夜ダンジョン】。

 世界の全ての人達の共通認識として、絶望をもたらす場所。

 禁忌。


 でも、僕にとっては希望とまではいかないまでも楽しい場所であった。

 ある女性のおかげで。

 人生の終わりを覚悟していた場所で出会ったのは、不思議な女性であった。

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