第5話創造主様
【夜ダンジョン】の中は昼ダンジョンとは比べ物にならない位不気味だった。
全てを拒否する残酷さ、本能で立ち入ってはならない場所だと容易に分かる。
『夜ダンジョンに立ち入るな!』、各国がその言葉しか発しない理由が今なら分かる。
言葉にすることが無意味。
圧倒的存在など、理解しようとしても無駄。
ただ、その他の存在を蹂躙するだけ。
唯一の正解は関わらないことだけ。
そんなことを思っていると、入口が閉じられた。
元々入り口だった空間がダンジョンの外壁の素材で埋め尽くされてしまった。
もう、ダンジョンの外には戻れないのか……。
「今まで僕に関わってくれた皆、ありがとう……」
僕は小さくそう呟く。
これからどうなってしまうのか分からないけど、もう先に進むしかなさそうだ……。
そして、僕より先に来ていた赤崎達に目を向けてみる。
「怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて……………………」
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、出たい、ここから出たい!!!!!!!!!!」
2人の精神は異常をきたしていた。
さっきまで威勢のいいことを言っていたのに、なんだこれは!!! じゃあ、入るなよ!!! 怒りが込み上げてくる!!!
まだ【夜ダンジョン】に入ったばかりだというのに、この変わり様は何だ? 僕は一つの推測をする。
【夜ダンジョン】の危険性とは、魔素が異常に発生することによる昼ダンジョンとは比べ物にならない人体への悪影響なのではと推測する。
前に2人のダンジョン適性を聞いた気がする。
60%程度だったような。
その適正値でこれ程までの悪影響があるのか……。
僕は2人をよく観察する。
もう精神崩壊寸前だ……。
これ以上悪い影響があれば完全に手遅れになる。
せめて聖さんがいてくれれば回復できるのに……。
いや、彼女をこんな地獄に連れてくることは出来ない……。
それに入口が閉じられた今、助けを呼ぶことは出来ない……。
それにしても、どういうことなんだ……? 相変わらず僕には何の人体への悪影響もない。不安や恐怖はあるが、それはダンジョンに入る前からあるので魔素の影響ではないと完全に言い切れる。
入った瞬間は不気味さや、怖さはあったが、魔素の影響ではなく、外壁の気持ち悪さといった視覚的な恐怖感であった。
慣れてくると、近くのコンビニに買い物しに来た位の余裕がある。
僕ってこんなに肝が据わっていたっけ……?
周りを観察していると、ずしん、ずしん、と音がしてきた。
鋭利な角と牙を生やした、昔話の鬼みたいなモンスター、オーガが近づいてきていた。
最悪だ……こんな時に……赤崎達に精神崩壊が近づいてきているのに……。
2人に目を向けてみると、まだ精神崩壊は起こしてなくギリギリで耐えているようだった。
幸いなことに、自分達のことで一杯一杯で、オーガが近づいているのに気付いていないのか……?
2人のステータス状態をスマホで調べてみると、精神崩壊ではなく精神異常と出ていた。
腐ってもダンジョン攻略者志望か……何とか耐えてくれている。
さらに幸いなことに、スマホが正常に機能しているということだった。
「良かった……」
一縷の望みは繋がった気がした。
そして僕はオーガのステータスをスマホで調べてみる。
【ナイト・オーガ】
何だ? ナイト? 騎士か? 以前、授業でナイトの付くモンスターがいるという話は聞いたが、それらは例外なく鎧を身に纏っているとのことだった。
だが、目の前のこいつは上裸で、腰に布を巻きつけているだけだった。
ここで僕の頭に一つの考えが浮かんだ。
こいつは、
正解など分かるはずもなかったが、正解を教えてくれるものがいた。
『よくその考えまで行きつきましたね。驚嘆に値します』
だれだ? もしかして目の前のオーガに話しかけられている?
『だれがオーガだ!!! うら若き乙女に向かって!!! 貴方の心の声に向かって話しかけているのですよ』
「誰だ⁉」
乙女? 僕の周りに女性などいないぞ……心の声、なんじゃそりゃ……。
『誰だとは何ですか!!! ダンジョンの創造主様に向かって!!!』
「ダンジョンの創造主様……? なんじゃそりゃ……聞いたことないぞ……それにうら若き乙女って……」
『人間とは自分の見たことがあるモノしか信じられないのですね……悲しい生き物です……心の声で話しかけているので此処には実体はないのです。ただ実物はうら若き乙女、というか、絶世の美女です』
「自分で言うんですか……で、その創造主様が僕に何の御用で……?」
『夜ダンジョンの秘密を教えてあげようというのです。感謝なさい』
「は、はあ、どうも……」
『何ですか!!! その態度は!!! もっと有難がりなさい!!!』
「ははー、創造主様、感謝致します」
『何か嘘くさいですね……まあ良いでしょう、教えて進ぜよう。貴方が推測したように夜ダンジョンの脅威は魔素の異常な発生による人体への悪影響です。それについては、昼ダンジョンとは比べ物になりません。そしてもう一つはナイトを冠する夜モンスターです。昼ダンジョンに出現する通常モンスターを遥かに凌ぎます。』
「なるほど……僕の推測通りだ……え、てか待てよ、何で僕の推測を知ってるんですか……? 心の中で考えてただけなのに……」
『だか~ら~、心の声で話してるって言ってるでしょ……話を聞きなさい、マッタク。貴方がイヤらしいことを考えてると皆に言いふらしますよ?』
「皆って誰ですか!? 皆って⁉」
『皆は皆です!!! それ以上でもそれ以下でもありません』
「はあ、教えてくれたのはいいんですけど、目の前にオーガいるんですよ、ナイトを冠した……もう、詰んでません……?」
『何を仰るんですか⁉ 貴方には誰にも負けない武器があるではありませんか!!!』
「武器……? 僕、【適性零】、【無能力】の無能ですよ……?
『だ~か~ら~、それが武器なんですって!!!』
「……?……」
『ちょっと話長くなりますけどお付き合いくださいね』
「いや、長くなるって目の前にモンスターいるんですけど……」
『無視して話続けま~す』
僕はモンスターが襲ってくるのが怖かったけど、黙って話を聞くことにした。
『ダンジョン適性って知ってますよね? 当然。ダンジョン内の魔素による人体への悪影響への耐性です。それ以外にも、モンスターから受けるダメージの軽減、逆にモンスターに与えるダメージの増加』
「ちょ、ちょっと待って下さい!!! 魔素による人体への悪影響への耐性は知ってますけど、ダメージの軽減? 増加? 何ですか、それ? 聞いたことありませんよ!!!」
『教官達からは、まだ教えてもらってないんですね。まあ、あいつら、カスですから。教えるの下手だし、遅いから。あんな奴ら100兆人束になったって私には勝てませんから。知識でも力でも』
教官達がカス……? 僕からしたら優秀過ぎる人達だけどな……本気で言ってるのか……? この人……。
『本気です、大真面目です』
「もう、声に出してないじゃないですか……何で心読むんですか!?」
『読んでるんじゃなくて勝手に入ってくるのですよ。』
「話は分かりましたけど、滅茶苦茶最悪じゃないですか、僕……【適性零】ですよ? 魔素の影響受けまくりだし、モンスターへのダメージは通らないし、モンスターからダメージ受けたら即死じゃないですか!!!」
『何を仰ることやら、ほほほ』
「……?……」
『【適性0】なら貴方の仰ることは正しいです。でも貴方は、【適性零】です。魔素から受ける人体への影響を無くし、モンスターからダメージを受けることはありません。ま、所謂チートスキルですね』
「確かにそれ聞くと凄い力かも……でも、モンスターにダメージ与えられないですよね?」
『確かに。そこで、【能力無】の出番です』
「……?……」
『【能力無】は、触れたモンスターを無に還す力です。どうです? 凄いでしょ』
「一番大事な『に還す』の動詞の部分が省かれてるじゃないですか!!! 誰でも【無能力】って勘違いしますって!!!」
『小さいことはどうでも良いではありませんか? ほほほ』
こいつムカつくな……。
『何か仰いましたか?』
心読まれてるし……めんどくさいな……。
だが、これで戦うことが出来る!!!
僕と創造主様の長い話を邪魔せず攻撃してこなかった、【ナイト・オーガ】には悪いが反撃の開始だ!!!
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