第2話 花瓶

「やあ。」


 俺は、まるで誰も見ていないかのように気持ちよさそうに眠る女子生徒に声をかけた。


「……」

 反応がない。


「……そんな所で寝てたら、誰かに踏まれるぞ」

図書館の床に寝ているのだ。周りを見渡すとちらほらと人影があるが、不思議とその女子生徒と俺の周りには人が寄ってくる気配がなかった。


「……ん。……あ。おはよう」


「おはよう。ってまさかずっと寝てたのか?」

彼女は迷うようなそぶりを見せると頷いた。


「んー、そう」


「さっき俺が起きた時はいなかったけど。」


「?」


 不思議そうな顔で俺を見てくる。


「……まあいいや、何でここで寝てるんだ?何年生?」


 俺自身は2年だが、彼女の身長は低めで1年の後輩かと思ったが、決めつけはよくないと思い聞いた。


「んー、たぶん……2年かな」


 彼女は少し考えるそぶりを見せた後、そう答えた。


「たぶんって……曖昧だな」


 彼女は不思議そうな顔をして俺を見上げる。


「いつもここで寝てるのか?」


「そう」


「床で寝てたら汚れるぞ」


 そうは言ったもの、ほこりが積もっている図書館の床で寝てたとは思えないほど彼女の制服にはシミ一つどころか、皺一つついていなかった。それは不自然で彼女にあった時からわずかに感じていた違和感の一つでもあった。


「んー。大丈夫」


「そっか」


「うん」



ともー



彼女と話しているとツインテールの髪をぴょんぴょんと跳ねさせながら、何やら図書館で騒いでる聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「あー、ツレがなんか騒いでるから戻るは。もしかしたらみつかったら面倒くさいかも。先に謝っとく」


くす。何かがおかしかったのか彼女が少しはにかんだ。


「わかった。じゃあね」


 そう彼女が呟いたと同時に後ろから凛が現れた。


「あ!トモいた!もう、どこ行ってたの!」


「うわああ!」


 突然の凛の登場に慌てる。


「何慌ててるのよ、トモ」


「こ、これはー、あー、なんだ」


 いい言い訳を言おうにも言葉が思いつかない。とりあえず、彼女とはたまたま会ったって言い訳するか……。


「そう、たまたま会ったんだ」


「会ったって……誰と?」


 凛は俺の言葉に不思議そうな顔をする?


「え?」


 俺は振り向くと、そこには床に座り込んだ女子生徒はおらず、初めっから誰もいなかったかのように埃でくすんだ図書館の床があるだけだった。


「あれ?」


「トモ!」


 凛の言葉に振り向く。


「会ったって、誰と、あったの?」


「あー、間違えた。さっき気になった本があって」


 自分が言うのも何だが、流石に言い訳が苦しい。


 凛は明らかに信用してない顔でジロっと睨むと、倫也の後ろ側。本棚の栄目でわずかに空間ができている隙間を見る。


「そこね!」


「お、おい」


 凛は倫也をぐいっと押し退け、覗き込んだ。


「……」


 凛は少し困惑したような不思議な顔をしていた。

 その表情が妙に気になり、俺も覗き込む。


「花?」


 前きた時には気づかなかった、その本棚の隙間には、最近変えたばかりだろう、綺麗な花瓶に添えられた花が飾ってあった。

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幽霊と俺と図書館 賢者 @kennja

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