幽霊と俺と図書館

賢者

第1話 図書館の女の子

 授業中、ぼんやりと窓の外を見ていた。次の授業もいつもと変わらずつまらないだろうと思っていた。何となく気持ちが焦り、教室を抜け出すことに決めた。


 廊下を歩きながら、どこか良い場所を探し始めた。時間を潰すために、どこでもいい。そう考えながら歩いていると、普段は閉まっている図書館の扉が開いていた。興味本位で中に入ってみると、紙の匂いが漂ってくる。静かな空気が包まれた図書館は、落ち着く場所だった。


 突然、部屋の奥から誰かの気配を感じた。近づいてみると、ひとりの少女が部屋の隅で眠っていた。思わず声をかけようか迷ったが、何故だか彼女を起こすには躊躇した。物音で気づいたのだろう彼女が瞼を開け目があった。気まずい雰囲気が漂う。


「あ……」


 彼女は不思議そうな表情で俺を見上げた。


「誰……?」


「あー起こして、すまん」


 俺は謝ると、彼女に話しかけた。


「こんな所で何をしているんだ?」


彼女はふわふわとした口調で答えた。


「眠ってた」


「授業中に?」


「うん」


「まったく、悪いやつだな」


「あなたは?」


「俺は悪い奴だ」

 

 俺がそう言うとちょっと彼女は少し笑ったきがした。


「ここ居心地いいの。ここにはあんまり人が来ない」


「そりゃ授業中だからな」


「……」


「まあでも、確かにここは静かでいい場所だな」

俺は少し考え込んだ後、彼女に向かって言った。


「俺もここ使ってもいいか?」


 彼女は笑って頷いた。


「うん、いいよ」



 しばらく彼女と一緒に図書館で時間を過ごしていた。すると、授業が終わる鐘の音が聞こえてきた。


「戻るか」


 そう伝えると、彼女はうなずいた。


「あの、私、いつもここにいるから、また来てくれる?」


 彼女がそっと口にした。俺は右手を上げて応えた。


「また気が向いたな」


 そう言って、俺は図書館を出た。



 教室に入って自分の席に座ると、幼馴染の凛がすぐに声をかけてきた。


「倫也、どこに行ってたの!?」


 凛はサイドテールの髪をはねながら、俺の席に近づいてきた。


「そこら辺」


 俺はあまり返事したくなかったので、簡単に答えた。


「先生に怒られたって聞いたわよ」


 凛は、俺が手抜きな返事をしたことに腹を立てたように話しかける。


「……」


 俺は何も言わなかった。


 すると、凛が近づいてきて、俺の匂いを嗅いできた。


「女の匂いがする……」と凛は言った。


「お前は犬か?」


 つい言ってしまった。


「授業中に何してたのよ、トモ!」


 凛はしつこく聞いてくる。


 うるさいな。と俺は思ったが、余計にうるさくなるとわかっていたので、口には出さなかった。


「ねーねーってば!トモ!」


 ……凛はますますうるさくなってきた。


「何もしてなかったよ。ただ、図書館の居心地の良い空間を見つけてそこにいただけなんだ」


 俺が説明すると、凛は「図書館ね……」と何やらつぶやいた。



 「トモ!」と声をかけられ、俺は顔を上げると、凛は何か良いアイデアを思いついたかのような表情でサムズアップしていた。


 「図書館行くわよ!」と言われたが、俺は紙アレルギーだと答えた。


 「そんなの聞いたことないわよ!というかさっき図書館にいたって行ってたじゃない」と凛は反論した。


 「全部デジタル媒体でできてたんだ」と俺は説明すると、凛はジト目でこちらを見てくる。


 「うちの学校がそんなハイテクなわけないでしょ」と凛はそう言うと俺の腕を掴み無理やりひっぱった。


 彼女の強引さに抗う気力もなく、俺は諦めて席を立った。


 「わかったよ、わかったから」と言うと、彼女は満足そうに笑みを浮かべた。


 再び図書館に来た。前回は授業中だったので、人通りは少なかったが、今回はまばらに人がいる。


 「ここね」と彼女が言うと、俺は疑問を抱いた。


「図書館に来たけど、何をするつもり?」


「トモが誰と密会してたか確認しようと思って」と彼女は答えた。


「密会って……さすがにいないと思うよ」


 たまたま授業中に偶然会っただけで、彼女も人のいない場所を探していたから、いないだろうなと思った。


 でも、凛がうるさいから授業中いた場所を覗いてみることにした。


 凛が気がすめばまた安眠に戻れると思ったのと、さっきの不思議な子に会えたらなと少しの淡い期待があったから。


「いた……」


 自分と同じ学生服を着て、窓から入る日差しに気持ちよさそうにしながら眠る女子生徒がいた。

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