第二十一話 寺田冬の誘惑は思春期男子には強すぎた。 


「冬ちゃんの柔らかくて大きい! どんだけあるんですか?」


 俺がスマホいじってると、風呂場から双葉の声が聞こえる。冬先輩のアレを揉んでるのだろう。俺は気にしない。動揺は……して……る。


「え〜? E⁉︎ 大きい〜双葉もそんくらいおっきいおっぱいほし〜い」

 

 マジアイツうるせぇ。可愛い時は可愛いのに。

 は! もしかしてアイツ、此処まで読んで? これは、高度な心理戦になりそうだ……!

 ちっくしょう。勝てる気がしない……! 白旗は何処だ……?

 んなもんねぇか。存在しないか。


「お姉ちゃん足も細いぃ〜憧れるぅ〜」


 クッ。羨ましい。そこ行きたい……

 

「双葉ちゃんだって足細いし可愛いよ⁉︎」


 急に大きな声が聞こえた。

 双葉よりも大きい声……


「いやいやぁー、それ程でもないよぉー、お姉ちゃんそんな褒めないでよ〜!」

「お、おね……」

「冬姉ちゃん! 気絶しないで⁉︎ 死んじゃうよ⁉︎」


 騒がしいなぁ、賑やかだなぁ。フッ。


「平和だなぁ〜」

 

 俺はそう、特大フラグを立てた。


           *


 ガラガラガラ……

 風呂の扉を開ける。

 そしてシャワーを浴び、ジャンプーを2回プッシュする。

 ゴシゴシゴシゴシ……

 髪の毛を洗う、洗う、洗う。

 5分洗っただろうか。シャワーで泡を流す。


「ルイルイ? ———」


 冬が何か言っているようだが、シャワーの音で聞こえない。


「ん? 何だって?」

「だーかーら! お背中流そっか?」

「は?」 


 俺が聞くと、冬はさっきより大きな声でいう。


「だーかーら! お背中流そっか?」


 お背中って事は……あんな事ヤっちゃう感じでしょ!? 駄目だわ! 今16だわ! シスコンに殺されるから!


「良いわ! 大丈夫だわ!」

「えー? 何でぇー?」


 扉越しでも、冬が少し拗ねている事がわかる。

 だって背中を流す=エッチな事をするフラグ——完全犯罪になるから駄目やろ!


「いやだってあんな事やこんな事が起きちゃったりしちゃうんだろ? しちゃうんだろ⁉︎」

「いやいや、ルイルイを性的な目で見た事なんて無いから大丈夫!」

「だからと言って流して貰うのは申し訳無いから良いよ」

「遠慮は要らないって!」

「なんでそんな背中流したいんだよ!」

「え? えぇーと……何となく」

「じゃーえーじゃねーか! 一線超えたらシスコンにも怒られるし——」

「そっか。ごめん。じゃあ、また後で」


 そう聞こえたので俺は「ああ」と言ったが、その声は冬に届かなかった。

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