第二十話 俺の妹は美人に弱い。

「はいアーン」


 冬の持つスプーンの上に乗っている生クリームと苺。凄く美味しそうだけど……


「それ、冬の食べかけだよね。それって実質ディープキs……」

「良いの良いの。ほら、早くしないと生クリーム溶けちゃうよ? ほら、食べて」


 そう急かすように冬がスプーンを突き出して来る。

 そのスプーン、冬が一度口に入れた奴だよね? 一度舌を交えた奴だよね? それってディープキスだよね?

 駄目だろ! 思春期男子に美人先輩の実質ディープキス与えちゃうの!


「ブッ。ふぅ、ふぅ、ふぅ……」


 そして息を整えながら一口。

 パクッ。

 口の中でとろける苺、ほんのり甘い生クリーム(食テロ)。全てがマッチしてて美味しい筈……なのに!

 頭からディープキスの文字が離れないから食テロに集中出来ねぇ!(最低)


「ふふっ、ルイルイ、初ディープキッスだね。良かったじゃん」

「良いけど良くねぇよ!」

「それってどう言う……」

『ブーブーブーッ』


 冬が何か言おうとしてた所、スマホが鳴った。

 そしてスマホ画面を見ると、『大雨警報』の文字が……!

 

『『『『『ピロリロリン♪ 大雨特別警報です。ピロリロリン♪ 大雨特別警報です。』』』』』


 質素な音がレストラン中に響き渡る。沢山のスマホが音を上げる。

 その音、俺嫌いだからやめてほしいなぁ。

 どうやら大雨特別警報が出たらしい。早めに家に戻らないと。

 するとスマホをいじっていた冬がスマホの電源を切る。


「ねぇルイルイ」


 冬が俺に話しかける。その声は意外と嬉しそうに感じ取れた。


「ん? なんだ? 冬」


 とう聞くと冬は急に顔を赤くし、小声になる。


「電車……電車止まったから家泊めて」


 何だよそれ! 今日だけイベントの数おかしいだろ‼︎


           *


 会計にて。


「3680円です」


 高ぇんだよ、高ぇんだよ。

 財布を漁っていると、冬から「ごめん」と言う声が聞こえたが気がしたので、「ゆるさねぇ」。そう内心呟きながら野口を4枚差し出す。


「えぇーと、お釣りは320円になります。ご来店、誠に有難う御座いました♪」


 そう言って会計を終わらせた後、店を出ずにその場で双葉に電話を掛けた。


「プルルルル、プルルルル……プルル」


 3コールすると、双葉は電話に出た。


『もしもし? お兄ちゃん?』

「あぁ、もしもし。外を見てみて」


 そう言うと、階段を降りる音がスマホから流れる。


「ルイルイ、それ誰?」

「妹、許可取ってるから冬はシスコン先輩から許可取っといて」

「オケマルッ!」


 そう言って手でマルを作り、舌を少し斜め上にだして冬はウインクする。


「だからオケマルって何だよ」


 そう言うが、冬にその声は届かなかった。


『確かに、エグいねぇ……だから? 友達の家に泊まると』

「勘が鋭いな。でも惜しい、その逆だ。先輩が泊まりにくる」

『暑苦しい男友達か。でも、お兄ちゃんに家に泊めれるほどの友達ができたって事だね。双葉としては光栄だよ』

「何だよ光栄って。お前は母親か? 父親か?」

『分かった! 準備しろって言う事ね! OK!』

「あながち間違ってないが、誤解される言い方だからやめて貰えると光栄です」

『OK、準備しとくね』


 ツー。

 どうやら切られたらしい。


「どうだった?」

「反対の『は』の字も出なかったよ。で、そちらは?」

「お兄ちゃん良いって! 『累君なら大丈夫』たって言ってたし」

 

 あっさり許可出ちゃった。信用されてる所ちょっと刺さった。


「お兄ちゃんでも『だけど冬と一緒に居られないの辛いなぁ、悲しいなぁ』って」


 痛っ、キモっ。なんだよそれ。

 その瞬間、やはり秋はシスコンだってことがよくよく分かった。


「此処から家まで10分だけど、どうする? 走っちゃう?」

 

 聞くと、冬は拳を天井に向けながら言った。


「傘忘れちゃったし走って行っちゃおー!」


 俺も忘れた。天気予報見とけば良かった。


           *


「はぁー! きっつ! 体力限界! 雨冷たい! あははは!」


 大雨の中、俺は冬と一緒に走っていた。

 傘はさしていないので、ビチョビチョになっている所、後ろから笑い声が聞こえたので少しスピードを下げる。


「もうすぐ着くよ!」

「ラジャ!」


 此処の道を真っ直ぐ……そこを左曲がって次に右に曲がると……


「着いたよ!」

「やっとだ! ゼイ、ゼイ、ゼイ」


 そう言い、急いで玄関を開ける。

 玄関を開けると双葉がタオルを持って待っていた。


「お兄ちゃん、先輩さん、おかえりないってフボォ⁉︎」


 そう言い、急いでタオルを冬に巻く。そして俺は双葉と冬のいる方を見る。


「どうした、双葉ってフボォ⁉︎」


 冬が来ていた洋服は、白いワイシャツ。そう、雨によってすっけすけ。至る所が透けてる。一番目立ったのは、豊富な胸が(ブラジャーによって隠れていたが)露わになっている事だ。

 そりゃあ、タオルで隠すわな。


「お兄ちゃん先輩ってこの人⁉︎ こんな美人を泊めちゃうの?」

「双葉ちゃん、だっけ。今日は宜しく頼みます」


 双葉が固まった。そう、この人美人に弱いのだ。

 数秒の間沈黙が流れると、ようやく双葉が動きだした。


「キャァァァァァァァ⁉︎⁉︎」

 

 急に双葉は奇声音を上げるので咄嗟に耳を塞ぐ。


「ととと、取り敢えずお風呂。お風呂入っちゃおーか。そうだね、入って来ちゃって。お兄ちゃんは可哀想だけど男だから。私先輩と入って来る。良いよね? 先輩。……いや、お姉ちゃん」

「ブフォ⁉︎」


 威力が高すぎたのか、冬は吹いてしまった。


「いや、早すぎだ」

「いてっ」


 そう言い、双葉にチョップを与える。

 双葉は頭を抑えながらぷくぅ〜と頬を膨らませる。


「ままま、まぁ良いけど。じじじ、じゃあ入って来ちゃうね? ルイルイ」


 そう言って双葉は冬と一緒に風呂に向かってった。

 対する俺は体を拭き、着替えたのであった。

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