第十九話 累と冬のラブラブデート 

「ゲホッゲホッ」


 俺は咳をする。

 今はカラオケに居る。

 現在は9時。あれから4時間ぶっ通しで歌って居たので俺の喉は限界を迎えて居た。

 対する冬は……


「胸の中〜にある〜事」

 

 めちゃくちゃ歌って居た。それもダンス付きで。

 うっわ恋ダンス懐っ。うちの親とか全力で覚えてたわ。横目で動画見てた俺が親より早く振り付け覚えちゃうのは何故? 知らない。

 冬は歌もダンスも上手い。あれ? これガチの方で何しても勝てない感じ?

 そうやって冬を内心褒めながらタンバリンを叩く俺。

 

「ふー、終わったぁ! ね、ルイルイ、喉大丈夫?」


 冬がかいてもいない汗を拭きながら俺に話しかける。


「大丈夫、ゲホッ。蜂蜜ガブ飲みしてるから」

「そっか」


 さっき買った蜂蜜、明日の朝使う用なのにその前に無くなりそう。(糖尿病の第一歩)


「あの」


 俺がそう言うと冬は曲を予約するためのPadをいじってた所、手を止めこちらを向く。


「ん? どうした、ルイルイ?」

「いや、あの、その。そろそろカラオケ出ませんか? もう9時だし」

「んー、そうだね。じゃあ後一曲!」


              *


「やった! 93.252点だ! 最高記録ぅ〜」

「凄いね冬、この曲難しいのにこんな点数」

「ルイルイがタンバリンでタンタンしてくれたからだよぅ! っあ、喉大丈夫?」


 冬がそう言いながら前屈まえかがみになる。

 近い近い! まって胸が大きく揺れて……やめて! 先輩Eカップだからそんな揺れると視線が! 釘付けになっちゃう! 揺れないでよ!


「ん、先程おっしゃった通り、蜂蜜ガブ飲みしてるので大丈夫です」

「そっか。じゃあ、ファミレス行こっ」

「じゃあもクソも無くね? それ」

「いいから良いからっ」

「そ、そうか」


 そして俺達は荷物をまとめ、カラオケルームから出た。


          会計にて


「2680円に、なります」


 と言うことは1340円を出せば……


「ん、あっ」


 その後、冬は頭を掻きながら小さな声で「えへへ」と言うと、急に改まった感じでこちらを見る。


「後輩よ」

「ん? どうし……なんだ先輩よ」

「今日、現生もって来てない。カラオケはpoypoyで払うから。ファミレス奢ってくんない?」

「それ人に物を頼む態度かよ」

「えへへ」

「褒めてない」


 その後冬はスマホを取り出し、店員さんにスマホ画面を見せる。


「poypoyで」


 すると店員さんは営業スマイルでスマホを受け取る。

 ピッ。


「poypoy♪」


 そんな電子音と共にpoypoyの声が聞こえた。ニャオンカードが「ニャオン!」って鳴くのと同じ原理だわ。不思議がんな。不思議に思ったら負けだよ。負けだからね。

 しゃー無し、少し多めに奢ったるか。


「ルイルイ」

「ん? どうした?」


 すると冬は俺の肩を掴み「ニヒヒッ」と笑う。


「じゃー行こー!」


 その言葉の後に累は微笑した。


「フッ、そうだな」

「ご利用いただき誠に有難うございました!」


 俺達が自動ドアから外に出ようとした時、後ろからそんな店員の声が聞こえた。


           *


「ルイルイとファミレスッ、ルイルイとファミレスッランランラン」


 冬はそう言いながら俺の歩くスピードに合わせてスキップして居る。


「うう、デジャヴ」


 すると冬はスキップを止め、此方こちらを向いてくる。


「ん? 何か言った?」


 圧が凄い! 冬怖い! 


「ななな、何でも無いよ」

「そっか!」


 その言葉の後、冬はスキップを始め、「ルイルイとファミレスッ、ルイルイとファミレスッランランラン」と言い始めたのだった。

 元気だなこの人。

 そして累は少し笑った。


             *


「いらっしゃいませ〜、何名様ですか?」


 ファミレスに入った瞬間、絶対裏のある営業スマイルを俺達に向けながら高校生のアルバイターが俺らに話しかけて来た。

 これさー、2名って言いたいけど、言ったら死ぬよね。……うん。死ぬよ。


「2名です」


 冬が先走って@@@@《2名です》を言ってしまった。

 その瞬間、営業スマイルが少し引きった顔になった。


『違う! 俺達はリア充じゃ無い! お前は何もあって無い! 唯の勘違いだ!』


 と、目でアルバイターに訴えかけると、アルバイターは返事をしてくれた。


『じゃあ何でそこの可愛い子と一緒なんだよ。そんな距離が近いんだよ』


 確かに距離近い……って流石に近い! まって腕ギュッて抱かないで⁉︎ 誤解されるから! 当たってる! 先輩の柔らかいEが当たってるって! 腕が幸せになるぅ〜。


『クッ……』


 俺はアルバイターに言い返せなくなってしまってた。

 思春期男子に良くないよ。可愛い先輩に腕抱かれるのは教育に悪いって。


「じゃ、じゃあ此方へどうぞ〜」


 引き攣った営業スマイルを見せながら高校生アルバイターは俺たちの席に連れて行く。

 そして指定された席に座ると、冬がやっと俺から離れ、俺の向かい側に座る。


「あの人、ちょっと怖かったねー。なんかこう、睨んでる様に見えた」


 そりゃあ非リアが巨乳で可愛い子連れたリア充みたら皆んなそうなるだろ。


「ああ、確かに。でもあんまりそんな事言うなよ?」

「あ、うん。分かった」


 そして冬がメニュー表を開いたので俺もメニュー表を開く。

 ハンバーグ1680円、ステーキ1840円、パフェ2480円……高くね?

 んー、じゃあ、このハンバーグでも頼もうかな。


「冬、決まった?」

「うん、決まったよ?」

「OK。じゃあ冬、呼び出しベル鳴らして」

「うん分かった!」


 ポチッ


『ピンポーン』


 途端に店員のお姉さんが駆けつけて来た。

 早いね此処。凄く店員が来るの早い。


「はーい、ご注文は何ですか?」


 冬が頬杖を付きながらメニュー表を見る。


「じゃあこのイベリコ豚のハンバーグステーキ255gのBセットで! ドリンクバーと一緒にライスとコーンスープがついてる奴を一つ。後このフライドポテトを一つ。あと食後にこの期間限定デラックスストロベリーパフェを一つお願いします」


 冬の注文を確認した後、累も注文を始める。


「っ、じゃあこの黒毛和牛ハンバーグの、デミグラスのセットで。じゃあ、俺もBセットで俺願いします」

「かしこまりましたぁ!」


 店員のお姉さんがメモをしまい、厨房へ戻る。

 そして店員のお姉さんが厨房に戻ったのを累は確認した。


「おい冬」


 俺が少しトーンを低く言った為、冬も只事(ただごと)では無いと読んだ。


「ん? どうした、ルイルイ」

「少しは人の懐(ふところ)を考えろよ!」

「ごめんごめん、だって人に奢って貰えるんだよ? 沢山食べたく無い? ……っあ! じゃあ分かった! んー、じゃあ。一つだけ、一つだけ私を命令して良いよ!」


 うん千円と釣り合うのか? それ。

 特に命令したい事、無いなぁ。

 んー。っあ! 思いついた!


「じゃあジュース取って来て」

「つまんなぁーい、もっと面白いの〜」


 つまんないって……じゃあぶっ飛んだ冗談かましてやるよ。


「俺を赤子の様に抱きしめて、愛の言葉を言いながら頭を撫でて」


 こんなぶっ飛んだ冗談、命令でも了承しないだろ!

 累は頬杖を付き、少し笑って冬を見る。すると冬も笑った様に見えた。


「良いよ、じゃあおいで」


 そう言って両手を広げる。

 うう、良い悪夢にも程があるよ。

 俺がそう戸惑って居ると、冬が首を傾ける。


「どうしたの? ルイルイ。ルイルイが命令した事じゃん」

「そそ、そうだけど……」

「じゃもう良い!」


 ほっ。引いてくれた、良かった……


「えい!」

「ひゃうん⁉︎」


 冬が急に抱きついて来たので俺は情けない声を出してしまう。

 そしていつの間にか冬の膝の上に座らせられ、ギュウと抱きつかれて居た。

 バラのいい香り……柔らかい胸。

 ……じゃねぇ! この状況どう回避すれば……

 

「ほら、良い子」


 不意に耳元に小さな声で囁かれたので俺はビクッと鳥肌を立てる。

 冬は俺の頭を撫でる。ちなみに俺は何もできないまま手を横に伸ばし、固まって居た。


「よしよし。可愛いね」


 思わず目を瞑ってしまう。

 それにしても顔近い! 柔らかくておっきいおっぱい当たってる!

 そんな状況に冬は「ふふっ」と笑う。

 そして冬は俺の耳元に来ては小さな声でボソッと呟いた。


「大好きだよ」

「え? それってどう言う……」


 冬は口の前で人差し指を一本立てる。


「ふふっ愛の言葉」


 冬は微笑する。


「ほら、店員さん来たよ。降りて」


 冬はそう累に話しかけるが、累にはそんな言葉は聞こえなかった。なんせ今の言葉に驚いて軽く失神し、側から見れば累から冬に抱きつく形になって居た。

 それを見た受付の男子高校生のアルバイター君は、累を一生恨むと決意したのだった。


「ん? 〜〜!」


 5分後、累の意識が戻ると、累は声にならない悲鳴を上げ、冬から笑いを取ったのだった。


           *


「ご注文のイベリコ豚のハンバーグステーキです」


 そう言って熱々の鉄板の上に乗ったハンバーグステーキを冬の前に置く。


「此方はサイドメニューのコーンスープとライスです。そちらのお客様は……すみません、すぐおちしますね」


 店員が俺のハンバーグのハンバーグを取りに行った。


「うんわぁ! 美味しそう!」


 そう言いながらも冬は席を立つ。


「どうした? 冬」


 俺の問いに冬は首を振って答える。


「ううん、ドリンクバー行くだけ。ルイルイは何か飲む」

「ん、じゃあコーラをお願い」

「オケマル!」


 手でマルを作り、舌を少し斜め上にだして冬先輩はウインクする。


「おっ待たせしましたぁ! はい!」


 冬が嬉しそうに帰って来たかと思うと、急に何かを差し出して来る。

 

「ん? 何これ」

「何これってガムシロだけど」

「なんでガムシロ?」

「ルイルイ好きそうだったから」

「なんてもん飲ませようとしてんだよバッキャロー!」


 そして思いっきしガムシロの蓋を開け、ガムシロを一気する累。


「ルイルイ⁉︎」


 流石にこの行動は冬にも読めなかったらしく、珍しく冬が俺に心配した。

 こ、これは!?


「あ、甘い。甘すぎてまずい……気持ち悪い」


 ドロッドロしてんのに口の中に入ると液状化して行く。くっそ甘い砂糖の塊。


「何で飲んじゃうの⁉︎ 後でアイスティー取ってこようと思ってたのに」

「っあごめん。そこは謝るよ」

「、でこれ。ご注文のコーラ。私もコーラだから間違えないでよ?」

「わかってます分かってます。じゃあ、トイレ行ってくる」

「オケマル!」


 そう言い、また手でマルを作り、舌を少し斜め上にだして冬先輩はウインクする。

 ってかオケマルって何?


             *


「ルイルーイ!」

 

 俺がトイレかは出て、席に着くと冬が涙目でこっちに話しかけて来る。


「お? どうしたどうした?」


 そう言って冬はスマホを此方に向ける。


「これ! なんか告られた!」

「なんだ。そんな事か」


 そう言い、俺の席の目の前にあったコーラを飲む。


「酷っ……てそれ、私の飲みかけ」


 累は今日、いろんな初めてを体験しちゃったので、累の脳がオーバーヒートし、ファーストキッスどうこうの話じゃなくなったのであった。

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