第六話 物語のヒロインは登場が少し遅かった。

「おい累ー返事しろよ」


 春下が肩を揺さぶりながら言う。


「うるせぇよ! もう良いだろ!」


 案外大きな声が出て来てみんなは驚いている。

 そう、俺は超驚いた。

 みんなが唖然としていると、ガラガラガラ……と言う扉を開ける音と同時に静かな教室に先生の声が聞こえた。


「おい、始業式が始まるから早く廊下並べ」


 黒髪ロングの意外と美人な若い先生——水野先生がそう言う。場が壊されるから本当助かる。


「は、はい」

 

 心がさっきは想像できなかった感じに素直に答える。

 んだよ。美少女と話せたのに……チッ。

 俺の青春は狂ってる。


         放課後


 此処は生物部。

 いつも通り全ての生き物に餌を与えた後、「コン、コン」、と2回扉を叩く音が聞こえたのた。


「チッ……いつものリア充か。まぁいいや」


 そう小さな声で言った後、少し明るい声で言う。


「どうぞ」


 そう言うと、扉を開ける言葉と共に元気の声が聞こえる。


「ってちょっと何か不穏な話が聞こえたんですけど⁉︎」


 黒くて長い髪。明るそうな性格。整った顔立ち。うん。美少女だ。


「……って青森 累花⁉︎」


 俺が驚きながら言うと、累花は人差し指を頬に付け、キョトンとしながら言う。


「いや、そうだけど。ここ、生物部だよね? 体験入部……出来るかな」


 か、かか……

 可愛い!

 くっ……気を抜いたら負ける。この可愛さは犯罪だろ。マジで。


「すみません大きな声出してしまって……全……然、大丈夫、なんですけど……後……30分だけど……そちらこそ大丈夫……です……か?」


 コミュ障が……コミュ障が…………!

 治したいのに……! 

 すると累花は胸の前で手をぶんぶん振り、慌てながら言う。


「全然っ! 大丈夫ですっ! 宜しくお願いしますっ!」


 優しい……冬先輩以来かも知れない、こんなに優しくして貰ったのは。

 体験入部だし、まだ入るとは決まってないし。

 とか思っているとまた1人来客が来た。


「おうおう、ちゃんと仕事やってるか? 青森」

「あの、先生? 何で私の名字……」


 累花が戸惑いながら言うと、水野先生は急いだ様子でこっち来た。

 そしてこっちに来たかと思うと小声で俺に話しかける。


「おい、あの子誰だ? あの子の名字、なんなんだ? あんな可愛らしい子居たか? 冬の妹? だったら寺田か。じゃあ本当に誰?」


 皆には分からないかも知れないが、今先生は凄くテンパってる。

 理由は定かだろう。だって顧問をやってる部活に美少女が来たのだから。それも芸能人。

 だが残念な事に彼女はテレビを見て居ない。だから彼女ルカが芸能人だと言うことを知らない。後で教えてあげよ。

 と言う事で俺は水野先生の耳元で小さな声で言った。


「あの子は青森累花。体験入部生ですよ。後、芸能人。それも女優ですのでどっか行く前にサインでも貰ったらどうです?」

「じょじょじょ⁉︎」


 予想以上に水野先生がオーバーリアクションしたのでツッコむ。

 ジョジョってどっかで聞いたことあるけど、触れないで置こう。


「ギョギョギョ⁉︎ でもしたんでしょう? 分かってますが、それ。古いですよ? 分かってますが」

「う、うるさい!」


 水野先生が頬を赤くしながら大きな声で言う。時代遅れって言うのが嫌らしい。

 でもまぁ、この前ぴえんぴえん言ってたしね。

 遅いのか鈍感なのかは知らないけど来年はパワーパワー言ってそうだな。この人。

 この状況で察したのか、累花が自己紹介を始める。


「ハロにちはー、私は青森累花と申しますっ! 今日だけ体験入部と言う形で今此処に居ますっ! 宜しくですっ!」

「入部して欲しいに一票」


 俺は無意識下で手を上げてそんなことを言って居た。

 すると水野先生も手を挙げた。


「右に同じく一票」


 こう言う時だけ話合うの何なんだろうね。運命さだめ? どうでも良いけどよ。


「まぁ良い、こんな青林檎ほっといて累花ちゃんはコッチね〜」


 一つ思った。こいつJK好きのオジサンなんじゃ無いん? 実際この人女性だけど。

 いやいやまて。


「んだよ! 青林檎って! ってか1年前のアレまだ覚えてたんですか⁉︎」

「覚えてるに決まってるでしょ! だってあれ、面白かったんだもん……」


 水野先生が笑いを堪えながら俺に人差し指を突きつけながら言う。

 すると、累花がボソッと呟く。


「なんかいいですね、この部活。先生と先輩仲良くて。なんか家族みたいですね」


 そんな一言に俺は即答する。


「家族じゃ無いし」

「家族じゃねーし」


 水野先生とハモった。気まずい。

 水野先生はすぐに話に来る。


「あん? じゃねーよだと? 馬鹿にしてるか? オイコラ」


 っあ、先生の特技——ヤンキー『風』怒り。若くて美人で女性の先生だからって言うのもあるからか、全然怖く無い。


「決めました」


 累花がまたボソッと呟く。


「え?」


 俺が驚きながら言うと累花がまた言う。


「この部活に決めました。明日、入部届持って来ますっ」


 その言葉で俺は固まる。

 累花は長い黒髪を耳に掛ける。何その動作。超可愛い。

 俺と同じく固まって居た水野先生は、俺よりも1F早く動き出し、言う。

 

「っあじゃあよろしくな。累花。っで、お前は今日から青林檎。又は青森県って呼ぶから宜しくな」

「新手のイジメですか?」


 累花はクスッと笑う。可愛い。

 そして生物部に青森累花が入ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る