第五話 それでも冬はいじって来る。

「じゃー少年。自己紹介を頼む」


 水野先生がそう俺に振って来たので、俺は教卓の目の前に立った後、言った。


「俺は青森 累。好きな物は寿司。嫌いな物はリア充。……宜しく」

「好きな物が寿司って……入部しても食べないでよ?」


 俺が言った後に即答した1人の美少女がそう言った後、自己紹介を始める。


「私は寺田 冬。好きな物は動物で、嫌いな物は虫。宜しくね! ……『累』かぁ。んー。っあ! じゃあ、ルイルイだね!」


 冬先輩は、自己紹介を終えた後、少し間を取ってからそう言った。


「嫌、ルイルイって何だよ。ちゃんとしっかりルイって呼んでよ」


 俺がそう反論すると、1人のデブメガネが言う。


「いや、駄目だ累氏。冬様がルイルイって言ったらルイルイ何でござるよ! 分かったか! 青森県! いや、林檎りんご! デュフ」


 オタクかぁ。やけに早口だったし痛いなぁ。累氏は少し辞めて貰いたいです。……が、


「なんで俺の小、中学校の時のあだ名知ってるんですか」


 そう、青森県ってのは名字からとって来た物で、小学校の時に呼ばれて居た。

 ちなみに中学で林檎りんごって呼ばれる様になったのは青森の特産物だからそう呼ばれる様になった。遂に果実になっちゃったよ。俺。まずそ。


「そんなの知らないでごさるよ! 分かったでござるか? 累氏!」


 キモオタクデブメガネに大きな声で言われる。少し気分が悪い。

 いや別にオタクを否定する訳じゃないです。ただ、キモいと思っただけなんです! バカにもして無いです! ので怒らないで! キモオタクデブメガネ!


「じゃあルイルイ、こっちおいで。冬姉が豆知識教えてあげるよ」


 冬先輩が両手を広げて言う。いや、ハグしねーし。ルイルイって呼ぶな。

 ってか普通だったらハグするよな? この時の冬先輩の対応ってなんだろな。

 気になるけど行わない。キモがられたら登校拒否になるかもだし。絶対やらない。

 3億貰ったらやる。やった! 3億有れば一生遊んで暮らせるぜ! んな事あるか! ボケ。


「OK……です。お願いします」


 俺が歩いて冬先輩の所に向かうと、冬は一匹のピンク色の魚を指差してから言う。


「ねぇルイルイ、この魚、何て言うと思う?」

「分からない」

 

 率直に言うと、冬先輩は「外れても良いから答えを言うの!」と、頬をふくらませながらいう。可愛いよ先輩。


「仕方ない、じゃー答え合わせ〜!」


 30秒の沈黙ちんもくの後、諦めた様に冬先輩は言う。


「正解は、『オジサン』」

「オジサン⁉︎ それって悪口じゃ……」


 俺が笑いながら言う。


「っあ笑ってくれた。」


 冬先輩が小声で言うが、聞こえなかったので聞く。


「今、何と?」

「だって君ィー、ずっと何か抱えてそうな顔してたからさ。何があったからは知れないけど、やっと笑ってくれたからね。ついつい言ってしまってね」

「冬先輩!」


 俺が冬先輩に言うと、冬先輩は優しい顔を作ってから、言う。


「良いんだよ。良い気分で部活やって貰いたいしね。楽しく部活をやるんだよ」

「冬先輩、ありがとうございます」


 ん、泣きそう。

 卒業式ぶりだな。あとで泣きまくろう。


「んじゃ、ルイルイ、宜しく!」


 冬先輩が笑顔で行って来たので泣きそうなのをこらえながら言った。


「はい! 宜しくお願いします!」


 それが俺と冬先輩の出会いだった。

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