第三話 そもそも俺には友達など居なかった。

 俺が席に座ると、心がニコりと笑う。


「おはよう、えーっと、私は春下 心と言います。んー。君の名前は何?」


 こ、こ、心さんに話しかけられた……へ、へへ、返事を……


「おはよう……ございます。俺は………青森……累と言い……ます」


 普通に小さい声が出たので、心にこう言われる。


「え? なんて?」

「青森! 累です……」


 大きい声出しちゃった……

 すると、心は「チッ……」と舌打ちをした。


「ハズレか。まぁ良いや。友好関係だけは作っとくか。」


 心が何か言っている様だが、声が小さ過ぎて聞こえない。


「何か、会ったんですか?」


 俺がそう言うと、心は笑顔を作り、言った。


「ううん? 大丈夫! 累、君だっけ? 見ない顔だね! 編入生?」


 グサッ

 悪気がないのは分かっていた。だからこそダメージが大きい。

 ぼっちだったからなぁ。はぁ。


「い、いいえ。在校生……です」

「そ、そっか! 在校生なんだ! ごめん、見ない顔だったからね! 入学から一ヶ月で顔は一通り覚えたつもりなんだったんだけどね」


 入学一ヶ月は俺不登校なんだよな……

 俺と心が話している中に、ショートカットの女子が寄ってくる。


「っあ! こころんじゃん! 同じクラスだね〜! 良かったぁ!」


 すると心は少し驚きながらもその子に返事をする。


「っあ! フミじゃん! 一週間ぶり〜! おひさ〜!」


 ショートカットの女の子ーーフミが心と話し始める。


「こころん、そこの子は誰? 見ない顔だけど」

「あーこの子? この子は累君だよー。隣の席だっただけでちょっと話してただけだよ!」

「ちな、こころんは顔知ってた?」

「いや、知らないよ! 多分不登校の子でしょ!」

 

 心が笑いながら言う。

 心? あ……れ? さっきまで楽しそうに。ん? 楽しそうに、楽しそうに……あれ、作り笑顔だったな。

 とか思ってると、心の周りに人が集まって来た。


「どうしたの心、そんなに笑っちゃって」


 心の友達A君が、心に聞く。 

 すると心は笑いながら言う。


「いや隣の席の累君にさ〜、話しかけてみたんだけど、コミュ症でさぁ! この心様に話しかけられただけでも喜べっつーの! ぼっち!」


 心がそう言うと、友達Bさんが、手を挙げながら言う。


「私この子の顔見たことあるかも!」

「え? 誰々だれだれ?」

冬先ふゆせんに引っ付いてた奴だよ! 多分!」

「あー! あいつね! 分かった、分かった!」

「ならば、あの噂言っても良いんじゃない?」

「あの噂?」


 友達CDEFと、増えて行く。


「そう! 冬先が、累の事嫌いって言う奴!」

 

 え? 冬先輩が……俺の事……嫌い?


「じ、じゃあ、何で俺に良く話しかけてくれるの?」


 僕がそう聞くと、心が笑いながら言う。


「やっぱ累、面白いわ! 冬先輩が考えてる事なんてわかるわけないじゃん! 噂だよ、う、わ、さ!」


 冬は俺の事、ききき、嫌いなわけ……無い。

 半ば、それは願望だった。

 ここまでの境地に立たされると、流石に冬の話も本当の様に聞こえてくる。

 でも、信じたくない。

 俺が冬と出会ったのは9ヶ月前、入学から2ヶ月後の高校人生8回目の登校の日の事……

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