つきのひかり _03
「そろそろプレゼント
…交換しよっか」
それはあるクリスマス・イブ。
雹の降るその日、私はマフラーをプレゼントした。
セーターも編めるけど私はマフラーを編んだ。
ちょっと長めに作った。
一緒に首に巻ければとか…、そんな不埒な考えもあった。
でもそれは内緒。
「ありがとう」
私の策略に気付いたのか、長さを気にしながらはにかむように笑った。
「じゃあ、俺からは、これ」
手渡されたのは小さな箱。
まるで貴金属のアクセサリーを入れておくような、
高そうな箱。
「…え?」
「サイズ、
合ってるといいけど」
開けてみる。
中に入っていたものに
私はしばらく見とれていた。
「これって…もしかして…」
顔を上げる。
「俺、人付き合いとか上手くないし、考えのない言葉で誰かを傷つけてばかりいるけど…」
うつむきがちに、ぽつりぽつりと言葉が生まれた。
「でも、佳織だけはずっとそばにいて欲しかったから…」
ごにょごにょと言葉は続くが、聞き取れなかった。
「うん…」
私が返した言葉も
囁くような音量だった。
私の体内時計が狂ってしまったように、この子も時間が分からないのかもしれない。
深夜にお腹をすかせて泣くなんて…。
赤ん坊に時間なんて関係ないのだろうか…?私は二階に立っていた。
二階のベランダ。
見下ろした庭は引っ越したばかりで閑散としていた。
それは不毛な大地を思わせた。
ただ闇色に彩られた
デコボコの地面。
「ごめんね」
おっぱいにしゃぶりつくその子に、私は話し掛ける。
出が悪いのか、
赤ん坊は必死に見えた。
「ごめんね」
もう一度だけ、
その子に謝った。
わたしは
こんなもののために
うまれてきたんじゃない
「……」
落ち着いたのか静かになった。
人の気も知らないで、
すやすやと寝息をたてていた。
「…終わりにしようか」
ベランダから両手を突き出す。
その両手に支えられ、
赤子が眠る。
手を離せば、手の力を抜けば、この子はそのまま落下する。
・・・腐敗した大地に。
そんな土地で、人々はどうやって生きていけというのだろう?
私が生まれたのはこんな場所じゃなかった。
なかったはずだ・・・
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