第54話 エピローグ

山村は、エールフランス航空でニース、コート・ダジュール空港へ飛んだ。シャルル・ド・ゴール空港からコート・ダジュール空港までおよそ90分のフライトだ。


コート・ダジュール空港の1番ターミナルで荷物を受けとって、山村がモナコ行きのバスを探していると、薄い黄色のワンピースを着て、カーディアガンを持った女性が立っていた。


女性は山村の姿を見ると深く頭を下げた。それは7年前に一緒にエチオピアに行った柳村玲架だった。玲架は頭を下げたまま話し始めた。


「山村さん、本当にモナコに来てくれるなんて思いませんでした。チケットだって本物かどうか分からないのに」

「玲架さん、監獄から出られたのですね」

「はい、きっちり7年お勤めさせていただきました。これからしっかり働いて税金を納めて社会に恩返しさせていただきます」

柳村玲架はようやく顔を上げた。山村は頭を下げた。

玲架の顔を見て、山村は少し驚いた。

出会った頃の玲架は、颯爽として背筋を伸ばして歩き、瑞々しい弾ける笑顔の持ち主だった。しかし再開した玲架は、痩せ細り肌には艶がなく、幾分猫背に見えた。


「私、感じ変わったでしょう?」

山村の気落ちを察するように、玲架は不器用に笑った。

「いいんですよ。これが本当の私なんですから」

「本当の玲架さん?」

「そう、ぐうたらで、寝転がってポテチ食べながら、ゲームするただのおばさん。それが本当の私」

「本当の私?」

「ずっと私、無理してたの。元気に明るく、そしてテキパキ仕事ができる女。でももう良いんです。きっとこれから世間の風は想像以上にきついでしょう。でも、私は、ぐうたらで、めんどくさがりの私のままでやっていこうと決めたのです」

「なんか不思議だな」

今の玲架は少し覇気がないように感じたが、山村にとって今の玲架の方が隣にいてリラックスできる気がした。

「玲架さん、お勤めご苦労様です」

山村は頭を下げた。それを玲架は慌てて制止する。

玲架は声をはっていった。

「それでは行きましょう、数々の歴代名勝負が行われた、

モナコモンテカルロ市街地コースへ」


続く 次回最終回です。


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