第53話
林はレースについても詳しかった。
「カーレースは巨額の金が動く、欲望に塗れたビジネスです。彼らは勝つ為ならなんでもします。土塊を金塊に変えるなんて朝飯前、水からカーボンニュートラル燃料を作ったり、炭素ゼロエンジンを作るなんて、彼らに取って何でもない事なのです」
飛行機は着陸態勢に入り、シートベルトのサインが点灯した。
「年寄りの戯れ事に付き合ってくださりありがとうございます、レース楽しんでくださいね」
山村は、男の横顔に見覚えがある事に気がついた。
「もし、林さんどこかで私と出会いましたか?」
「さて、どうですかな?」
飛行機は徐々に高度を下げて行った。タイヤが滑走路に接地すると、すぐにエンジンが逆噴射して減速した。飛行機が、シャルル・ドゴール空港ターミナル1で停止すると、山村は林の荷物も下ろした。
「山村さんすみません、助かります」
「こんなの平気です。気にしないでください」
ターミナル1はドーナツを重ねた様な未来的なデザインをしていて、ドーナツの穴に当たる空間を動く歩道が入ったチューブが横断している。山村と林は到着ゲートから入国審査所カウンターを抜けて外に出た。
荷物を受け取って外に出ると、一人の若い男性が立っている。林の姿を見ると、若い男は駆け寄って林に握手した。
「ワッサラーム・アレイコム(こんにちは)」
「ワアレイコ・ムッサラーマ(ありがとう)」
山村に取ってアラビア語は、懐かしい言葉だった。7年間にスーダンを旅した事を思い出した。
林は男性を山村に紹介した。
「山村さん、彼はスーダン出身のダンさんです。才能ある若きアニメーターです。近く日本に行く予定です」
ダンは少し何かみながら、山村に右手を出し出した。山村はダンと握手しながら嬉しさで胸がいっぱいになった。そしてヒナタの事を思い出した。
「ダンさん、僕は山村です。日本での活躍を期待しています」
「ありがとうございます。日本のアニメが大好きです。日本行きが決まり嬉しいです」
ダンは顔を綻ばせて微笑んだ。林は嬉しそうにしている。
「山村さん、スーダンから世界に革命を起こす、ジャパニーズアニメの才能が生まれたのです。変化に柔軟な日本のアニメはさらに進化しますよ。新しい世界はすぐまできてます。愉快な時代だと思いませんか」
「ダンさんの作品、楽しみにしています」
山村はダンと日本で会う約束をした。林とダンは無人電車CDGVALに乗って、パリの、シャルル・ドゴール空港TGV空港駅の方に向かった。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます