第48話
「首都ジュバは穏やかに見えますが、入国制限措置及び、入国後の行動制限は依然有効です。2021年には、319件の暴力事案があり、援助関係者の5件の殺人事件がありまました」
「そんな中申しわけありません」
「山村さんのように、事件に巻き込まれて生還するケースは稀です。事情は大変でしたが、どうかご自分の幸運と、あなたの為に奔走した日本と南スーダンの関係者が存在したことを忘れないでください」
「もちろんです。正直、皆さんがいたから命拾いしました。心から感謝しています」
大使館の職員はにっこりと微笑んだ。
「南スーダンには、様々な顔があります。例えば理由なく突然あなたの家が破壊され、家族が殺されたら、あなたはどう思いますか?」
「それは・・怒りが湧きますし、悲しいです。行く当てがなくなります」
「そうですよね。南スーダンには、行き場のない怒りと悲しみを持ち、帰る家と家族を失った人たちが200万人もいるのです。理不尽だと思いませんか?」
「それは、苦しいです」
「その半分の100万人が声をあげる事も、自分でお金を稼ぐ事もできない子供なんです」
「子供・・・」
「難民の子供たちに、あらゆる物を恐れる病気が流行っています。心に恐怖を植え付けられた子供に、建設的な未来が信じられるでしょうか?」
「恐怖ですか・・」
「大人を信じる事ができない、自分も信じる事ができない子供が成長した時、信じるのは身を守る銃だけです」
「だから紛争が終わらない・・」
「誰も未来を信じる事ができないです。今日生きる事で必死なんです。子供の心に希望という種を蒔いて、ゆっくり育つまで待ってくれる環境がないのです」
「希望の種ですか?」
「街も人も作るより壊す方が、ずっと劇的で短時間で達成できます。でも実際には人も街も育つには時間がかかります。時間が人の心を育てるのです、具体的には学校に通い、継続的に医療や土木など、お金を稼ぐ技術を学ぶ事です」
「それは、もしかしたら日本でも忘れた事かもしれません」
「私は縁あって南スーダンに派遣されましたが、それを教えてくれたのは太古から続く南スーダンの歴史でした」
「南スーダンの歴史ですか」
「私の個人的自分語りに付き合ってくださりありがとうございます。最短でパスポートを再発行させていただきます。そしてどうか南スーダンを嫌いにならないでください」
職員さんは、立ち上がって頭を下げた。
山村も立ち上がり頭を下げた。
18
山村の帰国が決まった。ジュバ空港から飛行機でエチオピアのアジスアベバまで行く。アジスアベバからエチオピア航空で、日本行きの飛行機に乗るのだ。
続く
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