第47話

「福田イブキ容疑者!出てきなさい!」

ドアの向こうから、ヒナタがドアを叩いている。

イブキと山村の時間は、線香花火の最後の瞬間みたいに光を失おうとしていた。

このドアを開ければ、山村とイブキの旅の終焉を迎え、山村とイブキがかつて持っていた大切でデリケートな何かが、ドライアイスの煙みた消失してしまう。

「だめだイブキ!」


イブキは、少しぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。

「山村、秘密捜査官様が来たようだ。僕はいくよ」

「イブキ、裏から逃げるんだ!とにかく今すぐ!」

山村が立ち上がると、イブキは右手を差し出した。


「山村、ありがとう。今まで僕は逃げるだけ逃げたよ。デフェンスだけではゴールは決められない。な、そうだろ?」

「ああ・・そんなこと言うなよ・・逃げてくれ・・」

イブキは、手を頭の上に上げて、武器を持たずに外に出ていった。山村は、イブキの背中をずっと見ていた。


17

イブキが逮捕されて、地元の警察も秘密捜査官も、イブキに同行して引き上げた。山村は一人でイブキの家に残された。

しばらくして、ヒナタの車が戻ってきた。

「ヤマムラ、送って行くから乗りなさい」

「やだ」

ヒナタは、パリッとした仕立ての良いスーツ姿だ。ヒナタはスタイルが良いから、スーツ姿がとても映える。

スーツを着ていても、細くしまったウエストも、

形の良い胸の膨らみもスーツのラインから見て取れる。


「やだ、行きたくない」

山村は俯いたまま、いった。

「駄々っ子か」

「どこにも行きたくない・・」

ヒナタは天を仰いだ。

「お姫様がキスしてもダメ?」

山村が顔を上げると、ヒナタは山村の唇にキスした。

「んん・・」



「山村、今から南スーダンにある日本大使館に送るから、そこで帰国の手続きをしてください。事情は伝えてるから、すぐ領事館のスタッフが帰国の手続きをしてくれるる、帰るんだ君の故郷に」

「故郷?」

「君には帰ることができる故郷がまだある。世の中には故郷を奪われ帰れない人がいっぱいいるんだ、だから帰りたまえ」

「う・・・・・ん」

山村は泣き腫らした、腫れぼったい目でヒナタをみた。

「全く世話が焼けるわね」

ヒナタそういって、山村のまぶたにキスした。

ヒナタは山村を、強引に車に押し込んだ。


「ヒナタも日本に帰るの?」

「私の次の仕事場は東南アジアかな?今度の仕事はやり甲斐あるわよ、腕がなるわ」

「玲架さんは、どうなる?」

「やっぱ気になるんだな」

ヒナタは鼻歌を歌いながらアクセルを踏み込んだ。エンジンがうなりをあげ、タイヤがホイルスピンする。


「運転はゆっくりで」

「日本大使館は、ジュバ国際空港近くのムヌキ地区に向かう幹線道路通り沿いにあるから、私とは其処でさよならね。私は影の女だから永遠の別れになるわ」


ヒナタの車はパナッシュと言うレストランの角を曲がった。そこには壁がクリーム色で屋根が水色にペイントされた可愛らしい建物が建てられていた。車が停止すると、ヒナタは先に降りてわざわざ助手席に周りドアを開けて、ピシッと背筋を伸ばして敬礼をした。

「ヤマムラジュンペイ殿、我々の捜査に、ご協力ありがとうございました」

「はい・・・」

「あと、私の裸撮影した奴、ネットに流さないように」

「消去するよ」

「それもだめ」

「あの龍の絵は宝の地図になってるから謎を解いてね」

「マジで?」

ヒナタは声を上げて笑った。

「嘘に決まってるじゃん、私を信じたらダメよ、ウフト(妹)」

山村を一人残して、ヒナタは、車に乗って去って言った。


日本大使館に入った山村は、若い男性職員に此れまでの経緯を話した。大使館で日本に帰る手続きを依頼するためだ。

続く













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