第46話

山村とイブキはテーブル小さなテーブルを囲んで対面で座った。


「なあ山村、こうして対面で座ってるとフィレンツェの安宿を思い出さないか?」

「1992年だったか93年だっかな」

「宿の食事は確かパスタで、ガラスのツボにもりもり赤ワインが出て、酔っ払ったよな」

「思い出すよな、二人ともまだ20代だった」

イブキは、天井を眺めながら話し始めた。


「山村との旅の後、日本に帰った僕は仕事を転々としたんだ。頑張れば頑張るほど周りから浮いてしまう。だから親に金を借りてもう一度旅に出たんだ。旅に出れば何か変わるかもしれないと思ったんだな」

「そうだったんだ」

「しかし、何も変わらなった。ただ、自分がどんどんダメになっていっただけだった。そして最後に流れ着いたのが南スーダンなんだ。此処にはそんな奴らがたくさんいる」

「じゃあ、彼らもここに流れついて?」

「女は知らない。富田だ、富田もただの貧乏なお人好しの旅行者だった。命からがらここに来たのを僕が助けて仲間に入れた」


イブキは、大きな書類の束を出していきた。

「やり方は、僕はここからの日本にいる詐欺の実行犯を操る。実行犯は大概、日本で金に困り、死ぬか生きるかって奴を探す」

「うん」

「そんな奴らは沢山いる。大体が気弱なお人好しの連中だ。だから世間から弾き出されたんだがな。奴らは勤勉で、操るより操れられる事に慣れきってる」

イブキは、分厚い詐欺のマニュアルを一枚ずつ捲り始めた。

「日本でダメ人間を集めたら、玲架の会社で3日もかけて社員研修をさせる。玲架の会社は立派だし、彼女は美人だから、実行犯たちは喜んで富田や玲架の言う通り、詐欺で稼ぎまくるんだ」


「それをイブキは此処から指示してたのか」

「富田は暴力で人を支配する。玲架は色気で人を支配する。奴らは飴と鞭をうまく使って組織をデカくしてくれた」

「そんな・・・・」


「ああ、正直な話、奴らを悪に染めたのはこの僕だ。異国の地で息倒れた富田に、たった一杯のハチミツを飲ませてやった恩に報いるために、富田は人を陥れ悪のかぎりを尽くしたんだ」


「それではイブキは今でも指示を出してるの?」


「馬鹿らしくなってやめた。僕のやり方を真似て犯罪を犯すバカが出てきたしな」

山村は、壁に貼ったアニメのポスターを見た。


「人は時に、一欠片のパンより、自分の“推し”の為に頑張ることもできる」

「ん?話が飛んだぞ」


「俺はこのアニメのヒロインに救われたし、ジャパニーズアニメのおかげで世界中に友達ができた。だから最後の仕事として、テレビ局に投資してエンタメ番組を放送しようと決めたんだ」


外で人の気配がする。取り囲まれているようだ。

「後をつけられているのは、知っていたよ。山村が行く先に僕がいるのを、秘密捜査局は知ってたんだ、そろそろ行かなきゃ」


イブキは立ち上がった。山村はイブキの腕を掴んだ。


「イブキ、もっと君と話したい。君と離れてから僕はいつも作り笑いしていた。愛想を振りまいて嫌われないように、わざと仕事できないふりをしてきた。ミラノのドーモ前で全力疾走したこと、一緒にダビンチの“最後の晩餐を”見たこと、シリアラインで海を渡ったこと、懐かしくて悔しくて、このままじゃ終われないよ」


「だったら僕達の旅の事を書いて、世に出してくれよ。僕の命を助けてくれた南スーダンの恩人たちの事を書いて一人でも良いから、誰かに伝えてくれよ。もし命があったら牢屋の中で読ませてもらうから」

ドアの向こうから声がした。

ヒナタだ!

続く























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