第42話
「ハニートラップですか?」
「僕が思うに、玲架には恋なんて必要ない女だよ。でも面白いやつだし第一かわいい」
「テレビですか」
山村と富田は南スーダンにジャバ行きの飛行機に乗り込んだ。
「主要空港であるジュバ空港は、滑走路の傷みが酷くて大型の航空機が就航しづらくなっているんだ」
そして、ケニア航空の飛行機はスーダンのハルツーム空港を飛び立った。途中でナイロビに立ち寄り、六時間かけて南スーダンのジュバ空港に着陸する予定だ。
16
飛行機の窓から赤茶色の大地が見え始めた。その中に所々緑が見える。山村と富田を乗せたケニア航空の飛行機、はジュバ空港に降りた。時間は夕方の17:00になっていた。山村は富田に尋ねた。
「ジュバにホテルはあるのですか?」
「あるにはあるが、どここめちゃくちゃ豪華で高い。ピラミット、コンチネンタルホテルなんて日本円で3万円とかだぜ、石油や金などの貴金属が取れるから、裕福な人は一定数存在するんだ」
「そうなんですね」
「ヤマちゃん、このまま放送局にいこう」
「はい」
富田はタクシーを拾って、そのまま南スーダン唯一の公共放送であるSSBCに向かった。2013年に南スーダン放送局(SSBC)法が成立してから、国営放送から、公共放送に転換した。
「南スーダン人は陽気で明るい人たちなんだ、だからテレビもラジオも大好きなんだ。ただ、電気が十分でないから放送は安定しない」
富田は言いながら、タクシーを降りた。警備員には特に咎める事なく富田と山村は館内に通した。歩きながら富田は言った。
「ここは、日本のNHKとも提携しているんだ」
「すごいです」
山村は放送室に入った。日本にいる時もテレビ局に行った事はなかったので、山村にとっては新鮮なことばかりだ。放送局の一番奥に玲架の姿があった。
山村は駆け寄った。
「玲架さん元気でよかった」
「山村さん、良くここまで来て来てくれた。ありがとう」
今夜、玲架さんは南スーダン全土に向けて音楽エンタメ番組を届けるらしい。
「山村さん、南スーダンに今必要なのは、エンタメだと思うの。圧倒的輝きを持つ“推し”こそね。“推し”は国境を越えるのよ」
「で、誰がでるのですか?まさか玲架さんが?」
「まさか。エチオピアの歌姫、マリトゥ・レゲアが今夜の飛行機便でやってくるのよ」
「誰ですか、それ」
「エチオピアの歌手よ、山村さん、私たちの放送まであと二時間よ、それまでに進行表台本お願いします」
玲架は、山村に紙と鉛筆を渡して、番組の進行表を書くように命じた。進行台本と言っても山村は日本語しか書けない。イギリスに統治されていた時代があるので南スーダンの公用語は英語だ。ちなみに北のスーダンの公用語はアラビア語だ。
「僕、空港までマリトゥ・レゲアを迎えに行ってくるよ」
そう言って富田は車で空港に向かった。
「あと、一時間ですね」
山村は部屋の時計を見た。放送一時間前だ。マリトゥ・レゲアは生バンドの前で3曲歌う事になっている。
「来たわ、生バンドが」
「でも肝心のマリトゥ・レゲアがこない、富田さんも帰ってこない」
山村はもう一度時計を見た。報道まであと15分だ。
「敬司、まだ帰ってこない・・」
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます