第41話
「世界で一番新しい独立国家?」
「南スーダンは黒人キリスト教徒を中心に数十の民族が暮らす多民族国家なんだ、僕たちが今いるスーダンはムスリムを中心とするアラブ系民族の国だ」
「そういえば、この国ではアルコールも豚肉も食べないと聞きました」
「そうだ、ここはアラブの国だからな」
「それでは、日本の自衛隊が派遣されたのは、どちらのスーダンなんですか?」
「自衛隊がいたのは、独立したばかりの南スーダンだ」
「富田さんは、自衛隊の人ですか?」
富田は大きな声をあげて笑った。
「このいい加減そうな僕が、国を守る大義を果たせそうか?」
「いや、渡航禁止区域を自由に行き来しておられるから・・それではスパイですか?」
「スパイ?僕は秘密なんて大の苦手だぜ。胸に持っておけないタイプだよ。個人の裁量で動いている。エネルギーコンサルタントさ。途上国のインフラや、エネルギー事情を調べて、国や企業にプレゼンするんだ」
「すごいですね!」
「コンサルタントといえば聞こえはいいが、やってる事は、ジャーナリストと大差ない。みんなが知らない事聞いたり調べたりして、お日様の下のヒナタに出してみんなに知ってもらうだけだよ」
「ヒナタ・・・?」
「南スーダンは、東にエチオピア、南東にケニアとウガンダ、南西にコンゴ共和国がなどたくさんの国と国境を接している人口1106万人(2019年)の国だ、国の大きさは日本の1・7倍くらいだ」
「東京23区に人口が1396万人(2019年現在)ですね」
「そう、そのうち30万人が首都ジャバに住んでいると言われている」
「首都に人が集まるのは、東京を同じですね」
「南スーダンは国土の東西にナイル川が流れていて、その沿岸にスッドと呼ばれる広大な湿地帯が国土の真ん中に広がっているんだ」
「スーダンは砂漠ばっかりでしたけれど・・」
「南スーダンは、熱帯雨林気候だから、郊外に出ると見渡す限りのサバンナだぜ」
「サバンナだと、動物がいるのですか?」
「世界で2番目の多様性を持つ、動植物の宝庫と言われているんだ」
「でも国民は貧困に喘いでいるんですね」
「4人に3人は何らかの助けを必要としている。おまけに2022年の11月には大洪水があり、被災者の数は100万人規模だ」
「農業や畜産が主な産業だが、水害で耕作も放牧もできない、それがさらに飢餓を産んでいる」
「やはり、原因は二酸化炭素による異常気象ですか?」
「そうだ。異常気象によるサイクロン、洪水、旱魃が飢餓をうんでいる」
「紛争だけでなく、自然災害が襲っているのですね」
「洪水で、住む場所や、耕作地が水没してしまっている。住人は水を防ぐために、手作業で堤防を作ったり、手で水を排出したりしているが、すぐにまた洪水が来るんだ」
「民はベストを尽くしているのに、豊かにならないのですね」
「豊かな土地があり、国民もやる気があるけど、異常気象や、土地の所有権の争いが絶えないんだよ」
「限られた資源を取り合う形になっているんですね」
「南スーダンには、保健、教育、水の供給などの社会サービスと、電力、道などの基本インフラが決定的に不足してるんだ」
「全部、本来政府や行政が担うものですよね」
「土地だけでなく、観光資源もたくさんあるのに、誰も来ることができない」
「動植物がいても治安が悪いと。観光客も来れませんものね」
「そうだ、いま南スーダンの主要な輸出品は90パーセントが石油なんだ」
「石油が出るんですか?」
「アフリカの南の地域では、ナイジェリア、アンゴラに次いで3番目の石油埋蔵量がある」
「3番目ってすごいですね」
「しかし、国内に石油の精油場がないから、パイプラインでスーダンまで石油を送って、お金を払って精油してもらっている」
「わざわざスーダンでですか?」
「しかし、内戦や飢餓のために、食糧や衣料品は国内で造れないため、ウガンダをはじめ、外国からの輸入に頼るしかないんだ」
「それでは国内で産業が育たないですね」
「そうなんだ。内戦で原油の輸出も徐々に減っている、長引く紛争のための軍事費を中央銀行から借りているため、原油で収入があっても借金返済に充てられてしまい、国内はハイパーインフレに落ちいっている」
「インフレということは、物価がめちゃめちゃ上がっているということですね」
「その通り。我々の仕事は慈善事業じゃない。治安が良くなり、経済活動が活発になれば、政府に税収が入り、外国企業が入ったり、政府間のパートナーシップも結べる。つまり投資代償としてのポテンシャルが生まれるということだ」
「それを富田さんが行うという事ですか?」
「僕たちに、それほどの力はないさ、ただできるだけ客観的に情報を集めてそれを表に出して、わずかばかりの報酬をもらうだけだ」
富田は笑った。
「それは慈善活動ではないのですか?」
「経済的基盤なしに、活動を行うことは不可能だよ。報酬があるから持続的な活動ができる。その上で、見えない情報や知られていない情報に陽に当てるだけで、状況は変わるもんだ。人は誰にも知られていないと思うから絶望するし、誰も見てないと思うから良くない事をしてしまうんだ」
「そうですか、経済的基盤ですか・・」
山村は黙ってしまった。
「さあ、空港にハルツーム空港に着いたぞ、今なら、ここならエチオピア行きもあるけどどうする?エチオピア行きに乗るか?それとも南スーダン行きに乗るか?ヤマちゃん?」
富田は急にあだ名を作った。
「ヤマちゃん?」
「ここまで一緒だったんだ、俺の事はトミーって呼んでいいぜ」
「いいですよ、富田さん無理しなくても。行きます、南スーダンのジャバに」
「わかった。ヤマちゃん、よろしくな」
富山はがっしりした右手を出した、村山は富田と握手した。
「ところで、玲架は富田さんの恋人なんですか?」
「さあ、君が玲架に自分で聞きな。玲架は元気だよ。南スーダンのテレビ局のため奔走してる」
「テレビ局?」
「玲架は、ジャーナリストでアナウンサーなんだ。謎が多い、玲架のことを恋人だと思っている男は僕が知ってるだけでざっと6人はいる。僕と君を除いても」
その時ばかりは、富田は笑わなかった。
続く
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