第40話

「無防備で無作法な日本人、あなたの靴底の下に隠してある金を私に渡しなさい」

ヒナタは軽蔑するような眼差しで山村を見た。


「ヒナタ急にどうしたんだ」

山村は右足の靴を脱いで、靴底の下から1万円札を取り出した。

「左の靴にもお金あるでしょう。渡しなさい」

山村は左の靴も脱いで靴底から1万円札を出した。

「あんたなんて拾って損した。誘惑してもっとお金取ってやろうと思ったけど、ほんとにそれだけしかお金がないんだもん。 お金を持ってない日本人なんて利用価値ゼロね」

「やっぱりそうなんだお金目当てだったんだ」

ピストルをちらつかせながら、ヒナタは山村の手から2万円をひったくった。

「一体なんだと思ったの?この世の中にただの親切なんか存在しないんだよ」

ヒナタは大声で笑った。さっきまでのヒナタとは、まるで別人のようだった。

「ありがと。これでしばらくは生き延びれるわ」

「ご主人と子供さんのために?」

「そんな嘘信じてたの?とことんおめでたいやろうね。主人も子供も、戦争と飢えでもうとっくに死んだわ。ザマミロだわ」

「全部嘘だったのか」

「私の両親は、お金で私を夫に売った。しかも夫は働かないくせに機嫌が悪くなると暴力を振るう。 夜になると強姦するみたいに、私の体を求めてくる。死んでせいせいだわ、もう誰にも私の人生を左右させない」

「ヒナタ・・・」

「もひとついうと、私はヒナタなんて名前じゃない。お生憎様、じゃあバイバイ」

ヒナタが拳銃を降ろした時、数名の男がヒナタに向けライフルを向けた。


「警察だ!女、拳銃を捨てて、手を上げろ、その日本人お前も仲間か?」

ヒナタは上声をあげた。

「そんな日本人が仲間なもんか、 靴の底に隠し持ってた金を奪っていた所だ」

山村とヒナタは警官に取り押さえられた。山村は手錠をかけられて、ヒナタとは別の車に乗せられた。山村は、後部座席に寝転んだ。


「山村順平さん、妙な所で会いましたね」

運転手していたのは、エチオピアで消息不明になったはずの富田敬司だった。

「どうして、失踪したはずの富田さんが、僕の事を逮捕するのですか?」

「僕は、君を探していたんだぜ」


富田には聞きたい事がたくさんあった。なぜ突然いなくなったのか、富田は何者なのか「富田さん!玲架さんはどこですか?」


「玲架に会いたいか?いいだろう、今からまずハルツームまで車でいこう、そこから飛行機で南スーダンのジャバ空港まで行く、おそらくそこに玲架はいるはずだ」

村山は絶句した。南スーダンが紛争により荒廃しているのは、村山でも知っていた。


「南スーダンは、2011年7月9日に独立したアフリカで54番目の独立国だ」

「南スーダンとスーダンの違いが僕にはさっぱりわかりません」

「もともとスーダンと南スーダンは一つの国だったんだ。2011年7月9日に南スーダンが世界で一番新しい独立国家として誕生したんだ」

続く




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