第39話

「あなたは大丈夫、契約書があるから・・」

「こんなのダメだ、俺・・」

山村は、ヒナタの体を振り解き、帰り立ち上がった。


「ヒナタ、だめだ!僕はダメだ」

ヒナタも立ち上がった。

「やっぱりあなたの呪文はとけなかったか」

「何?呪文?」

「私分かるんだ。誰かがあなたに強力な呪文をかけてる」

「でも、その人はもう・・」

「生きてるよその人」

「ほんとに?」

「あなたにかかってる呪文は強力よ、絶対彼女はどこかで生きてる」

「あの人が生きている・・」

「私にも解けないくらい強力な呪文だったわ」


その夜、ヒナタと山村は、お互いに背中を向けて同じベッドで寝た。不思議なモノだ。ほんの10センチも離れていないのに、相手が誰の夢を見たのか、お互い知ることはできない。ヒナタがつぶやいた。


「ヤマムラ、私の体を撮影してくれない?」

山村は起きてスマホを取り出した。

ヒナタは山村に背中を向けたまま、服を腰までずらせる。綺麗な背骨が一匹が浮き上がっていた。

「この龍は、私が愛を欲した時だけ現れる、特別な龍よ」

ヒナタは悲しそうに言った。山村はヒナタの背中に浮き出た龍をスマホに収めた。


次の日の朝、山村とヒナタは、商店街の小さなお店で朝食を摂った。相変わらず山村はトーブを着ている。今日はブルーのトーブを着ている。

「これは、ターメイヤサンドイッチ」

「どの辺がターメイヤなの?」

「ターメイヤとは小さな豆のコロッケの事よ、中には、ひよこ豆かカブカベというひよこ豆の小さいものが入ってる」


簡単な朝食の後、山村もヒナタは、ゲベル・バルカへ向かった。

「ゲベル・バルカはカリーマの商店街から40分ほど歩いた所にあるの」

「意外と近いんだね」

商店街を歩くと、静かな住宅街が現れた。


「この住宅街を抜けるともうゲベル・バルカよ」

ヒナタの言う通り住宅街を抜けると、広い砂漠の中に平らな丘が見えた。

「あの、平らな低い山が、ゲベル・バルカ?」

「そう、昔からエジプトから来た旅人は、ナイル川沿いの道を歩いて南下したんだ。その時に目印にしたのがゲベル・バルカなんだよ」


その周りには、小さなピラミッドが沢山作られている。

「このエリアは太古からエジプト文化とアフリカ文化が交わる場所だったんだ。紀元前1450年にエジプトのファラオ、トトメス3世がここまで統治したんだけど、エジプト王朝の一番南の端っこがゲベル・バルカなんだよ、ゲベル・バルカに登ろう」


ヒナタは、どんどんゲベル・バルカの方に歩いていく。山村は置いていかれないように必死で歩いた。


「スーダンは紅海に面しているから、歴史的に外国からの交易路だったんだ、今は寂れてるけど大昔はとても賑やかな町だった」

「待って、ヒナタ」

山村は、ヒナタのスピードについていけず、形で息をしていた。

坂道を、ヒナタは休みなく登っていく。汗もかかないで。


「エジプト人やその後を引き継いだクシュ王国の人たちは、この山を最高神アモンの住む聖なる山としてずっと崇めてきたわ」

「最高神アモン?」

「アモン神はしばしば羊の姿で現れるのよ。

古代生物のアンモナイトは、巻貝の形が羊の角に似ている事から、アモン神にちなんでアンモナイトと名付けられたらしい」


ヒナタはの話は、いつまでも終わらなかった。山村は 遅れないように、小走りでヒナタの後をついていった。


「アモン神はナイル川中流域のテーベで崇められていた神だけど、 太陽神ラーと融合してアモンラーとなった。アモンラーは、戦いの神様よ。戦争に勝利する為の神様」

ヒナタと山村は頂上に上った。


ゲベル・バルカルからは、砂漠が見下ろせた。ヒナタはゲベル・バルカルの頂上で山村の方を見た。

「ご苦労さん、ヤマムラ、手を上げろ!」

ヒナタはピストルを右手に持って銃口を山村に向けた。ヒナタの顔は、まるで別人のように表情がなかった。

続く








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