第36話
「スーダンの発電力は、石油による火力が30パーセント、水力62パーセント、外国から買ってる電気が7パーセントなの。水力から作る電気が一番多い。でも、水力は気候や天候によりエネルギー発電量が変わっちゃう。それに2011年南スーダンが、スーダンから独立したんだ。水力発電所は南スーダン側に沢山作られているから、スーダンはさらに電力不足になったわ」
「原子力とかは?」
「原発なんて作ったら、テロリストさんに、放射性物質どうぞってなもんでしょ」
「なるほど」
「原発だらけの日本から来て、何寝ぼけたこと言ってんのよ」
外で足音がした。ヒナタは真剣な表情で、山村の両肩に両手を置いた。
「いい事、あなたベットの下に隠れて。もし見つかったら死刑よ。スーダンでは姦通罪は死刑だから。寮長には妹が来てるって言うから」
「え、僕やだよ」
「いい事、スーダンでは不倫の罪は死刑よ」
「マジで!僕まだ何にもやってないよ」
「つべこべ言わずに隠れなさい」
ヒナタは、ドアを開けて誰かと話している。その間、山村はベッドの下で息を潜めた。しばらくして、ヒナタが戻ってきた。
「もういいよ、寮長は戻ったから」
「妹って僕は男だぜ、しかもオジサン、いや下手したらお爺さんだよ」
「東洋人の歳なんて誰もわからないよ。性別だって化粧でもして、トーブを着たら、どうにでもなるわよ。とにかく生き延びたかったら女の子になるのよ」
どうやらヒナタは本気で言っているようだ。
「それ無理だよ。絶対不自然だよ」
「不自然でも何でも、せっかく拾った命大切になさい。でなきゃ死刑よ。ただし絶対に私を異性として見ない事。契約書、書いてもらうから」
ヒナタは1枚の契約書を出した。1枚はヒナタ用だった。もう1枚は山村の控えとして。
「契約を破ったら法の下に断罪させていただきますから悪しからず、おちんちんを切るからね!」
ヒナタは、切れ味良さそうなナイフを取り出した。
山村は言われるままに契約書にサインした。内容を確認しようとしたがアラビア語で書かれていたので、1文字も理解できなかった。
その時、遠くで雷の様な破裂音が聞こえた。同時に腹に響く地鳴りが聞こえてきた。そして床が不自然に揺れた。山村の肛門から汗が噴き出す。阪神大震災の時の事を思い出して、山村は恐怖で震えた。
「何?」
「戦闘よ!いい事、しゃがんで動かないで!」
ヒナタは、山村の肩を抱いて、綺麗な日本語で言った。肩を寄せ合ったヒナタと山村は音が止まるまで息を殺していた。
一時間か、三時間か、ようやく外が静かになった。ヒナタが立ち上がった。
「明日、取っておきの場所に案内してあげる」
「とっておきの場所って何処?」」
「夫がカリーマという町で、遺跡の調査をしてる。カリーマにはゲベル・バルカという遺跡があって、昔から交易の中継地点なんだ。そこからバスでワジハルファまで行けば、エジプトはすぐそこだわ、エジプトまで行けばなんとかなるでしよ、でも、お湯のシャワーでが浴びれるのは今夜が最後だから、シャワー浴びてきたらいいわ」
再び女子寮のシャワー室に行った。山村は誰もいない事を確認した。そしてシャワーを浴びた。部屋に戻るとヒナタは、ベッドで眠っている。山村は床に寝転がって天井を見た。
何の巡り合わせか、こんなに遠い場所にいる。20年の旅はイブキがいた。ベルリンのユースホステルでも、蘇州のドミトリーでも天井を二人で見上げていた。いつも途方に暮れていた。焦っても状況は変わらない。この20年一生懸命会社員をしていたけど。やっぱり途方にくれていた。今できる最善手は、目を閉じて眠ることだ。今は体と脳を休めよう。
朝になり、山村が目を覚ますと、ヒナタはすでに起きていた、女性用の服が用意してあり、山村は着るように言いつけられた。
「じゃ、私に外に出てるから、お着替えしなさい」
山村は、シャツを脱いで下着だけになり、色あざやかなオレンジ色の一枚布の体と頭に巻き付けた。鏡に自分の姿を映してみる。
これなら男か女区別つきにくい。“トーブ”と言う伝統衣装らしい。
山村が鏡に映った自分の姿を見ていると、ヒナタが部屋にはいって山村の姿を見た。
「うん、かわいい、ヤマムラ、トーブ似合ってるね」
山村は、ヒナタの感想を聞いて嬉しいような、馬鹿にされているようなこそばゆい気分である。
続く
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