第35話
「夫との結婚は、親が決めた事だけど私は愛していたわ。友達も先生も皆飢えている。スーダン国内の200万人が食べる物がない。インフレ率は200%に近いし、通貨は暴落して、パンの価格はクーデター以前の10倍よ!国連にももうお金がない。そもそも紛争続きのスーダンは自分達で経済を直すことができない。クーデター前、スーダンの国際支援額は合計20億ドルもあった。20億ドルは、スーダン国家予算の40%よ。もう沢山だわ」
山村が振り向くと、ヒナタは短パンとTシャツに着替えていた。話しながら山村の隣に座った。
「経済の衰退とインフレ。コロナの大流行によって食べ物の値段がバカみたいに上がったわ。 地方には仕事がないから、みんな都市へ移ってくる。 残された田畑は荒れていく。農作物の収穫は少なくなる。でも誰も責められないわ。自分の土地があればともかく、お金も土地も手元に何もなにもない人は、雇用も安定しないし飢饉が着たら飢えるしかないもの。でも都市に来たってマトモな働き口はないし、住む家だってない」
僕が黙っていると、ヒナタは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。退屈だよね」
「いや、退屈じゃない、むしろ嬉しい」
山村は一人暮らしだったので、長い間、人から語り掛けられる事がなかった。質問する相手も、質問してくれる相手もいなかった。
「ごめんね、父は外交官だったから、日本にいた事があるのよ、だから日本語を聞いてもらえるのが嬉しくて」
「いいよ、僕も日本語が聞けて嬉しい」
ヒナタは深呼吸してから話を続けた。
「確かに都市部は発展している。ここハルツームも新しい建物が立っている。しかしお洒落なレストランやカフェを利用できるのはひと握りの大金持ちよ。ほとんどの人が、今日食べるものに困ってるのに。電気だって国の半分以上の人が使えない。2019年時点で電気が使える人は人口のたった3割ほどよ」
「エチオピアでは、水力発電の他に、地熱発電が計画されていたけど」
「エチオピアには石油などの地下資源がない代わりに、地熱があるものね」
続く
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