第31話
「なるほど、聖梨花って結構好きになったら周りが見えなくなるタイプなんだ」
なんでそんな事言っちゃうんだろ、ヒナタはそれでも言わずにはいられない。
ヒナタの心は揺れていた。初めからわかってたんだ。世の中の男子は聖梨花の様な女子が好きなのだ。悲しいけど私はただの引き立て役に過ぎない。
「ヒナタ聞こえてる?」
聖梨花は、女神か天使みたいに美しいのに、さらに性格も良くて控えめで気が利いて、あざといくらい不器用だ。そこがとても可愛いい。近くにこんな完璧な同性がいたら誰だって堪らないだろう。
「聖梨花、何か用事?気軽に話しかけないで」
聖梨花はヒナタにとって常に特別だった。
なのにどうして聖梨花を傷つけてしまうのだろう。ヒナタは自分で自分が嫌になった。
聖梨花の外見は確かにまるで天使だ。しかし心までは天使じゃない筈だ。そんな女子は存在しない。もしそんな女子がいたならもはや人間ではないじゃないか。
「ヒナタごめんって、恋の話はここでおしまいにするよ」
それでも世間の男性は、見た目も内面も天使の女性を期待する。そんな人間いないのに。
性格や能力は目に見えないから隠す事もできる。しかし美しすぎる事は隠しようが無い。
理解を越した美しさは時に恐れの対象でさえある。理解できない物を人は恐れる。
上部だけ期間限定の天使を演じる女性は、沢山存在する。大概の男は愚かだから、きちんと演技に騙される。やがて結婚して真実はすぐに判明するから。そんな幸せな誤解は、罪のない嘘の部類に入るだろう。
しかし、まれに内面も見た目も天使という、奇跡を起こす女性がいる。それが聖梨花だ。
男性は女性の理想系として、聖梨花に身も心も天使になる様に期待する。クラスの誰かが聖梨花に嫌がらせしている理由は、聖梨花の類い稀な美しさに違いない。クラスメイトに天使がいたら、私だってパニックになる。だが架空の妖精と張り合って、嫌がらせするのは間違っている。
「やっと私を見てくれた」
聖梨花はヒナタを見て魅力的に笑った。
「私結婚しないし出来ない」
ヒナタは言った。
「そうなの?私はヒナタと結婚する」
その言葉が会話のやりとりの中ででた冗談だったとしても、ヒナタは嬉しかった。
聖梨花は綺麗な足を、空中に高く上げて見せた。
「足がないのは、お化けだよ私は普通の人間だ」
「知ってるよ」
「誰かの期待に応える生き方をやめたい」
「聖梨花は聖梨花だよ」
ヒナタは言った。
「でも私はカゴの鳥だよ。外に放り出されると、自力で生きていく力はないわ」
聖梨花は誰かの期待に答えなくても、美しくて可愛い。
「ヒナタに知っていて欲しいことがあるの」
聖梨花は、白いカッターシャツのボタンを外して腰までずり下げていく。
ヒナタは慌てて止めた。
「なにどうした?脱がなくていい!」
「ヒナタ、怖がらないでね」
聖梨花はヒナタに背中を見せた。ヒナタの背中一面に、巨大でグロテスクな蛇が、聖梨花に巻きつく様に、とぐろを巻いているアザがあった。
「聖梨花・・・・」
ヒナタは息を詰まらせて黙ってしまった。
「ヒナタいいんだよ、驚いたよね、忘れて」
聖梨花は急いでシャツを着てその場から立ち去ろうとした。
「聖梨花かわいそう・・大丈夫、私が守から」
ヒナタは、背中から聖梨花をしっかり抱きしめた。
「聖梨花好き」
ヒナタはずっと聖梨花を抱きしめた。聖梨花の背中は意外と冷たかった。ピッタリ重なった胸から聖梨花の鼓動が聞こえてくる。すぐ前に聖梨花の髪がある。その間から白い首筋が見える。
「ヒナタ、私ずっと寂しかった。誰も私の心の奥を見てくれない、苦しかった、初めてヒナタを見た時から胸がドキドキした」
「私もよ」
「みんな私の見た目だけを見る、ちょっと変わった事をするとイメージと違うと言われる、私はどうしたらいいかわからない」
「聖梨花、辛かったんだね」
「辛かった、ずっと一人ぼっちで泣きたかった。誰かに気持ちを聞いてほしかった、でもみんな本当の私を知ると離れていくんだ」
皆が離れるのは、聖梨花の光が強過ぎるからだ。身近なクラスメイトが誰も持ってない宝を持っている。宝石なら奪う事もでるが、美しさは奪うことが出来ない。
自分の物にできない宝物は、破壊して無かった事にするしかない。だから聖梨花は攻撃されるのかもしれない。でも、皆なぜ他人の宝物を欲しがるだろう。誰の中にも、絶対的な宝物があるというのに。自分用にあつらえられた唯一無二の宝は誰にも譲れないし奪えない、至上の宝ものだと言うのに。一人一人違う極上の宝物を、その人に教えてあげたい。
続く
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