第27話

運転は富田がして、山村は助手席に座った。玲架は後部座席に乗っている。運転しながら富田は地熱発電の説明をした。

「エチオピアは人口が9900万人に達しました。首都アディスアベバは、オフィスビルや商業施設の建設ラッシュです。この先電力需要はさらに拡大が見込まれています」

「そうなんですね」

「しかし、エチオピアの発電所設備の最大能力は約4300メガワットです。このうち8割以上を水力発電が占めています」

「エチオピアは水が豊富なんですね」

「はい、エチオピアでは3月から5月が小雨期で、6月から9月は大雨季です。10月から3月は乾季で雨が降りません。水力は乾季に電力供給が不安定化します。だから季節や天候に左右されず一定の電気を安定的に供給できる地熱発電所を建設しているのです」

「そこで日本の技術が役立つのですか?」

「日本は世界第3位の地熱資源量を持っています。そして地熱発電機器では世界市場シェア約7割を誇っています。エチオピアと日本は実は似てるんですよ」

やがて広大な大地が現れて車は停止した。

「アルトランガノ地域です。降りましよう」

アルトランガノ地域広い緑の大地で、所々から水蒸気が上がっている。

「富田さん、温泉もあるのですが?」

山村は素直な疑問をぶつけた。

「温泉もありますよ、ナザレットという街にソドレリゾートという施設があります。その他各地に温泉がありますよ。言うなればエチオピアは世界最古の温泉地保養池なんですよ」

山村は自分の腕時計を見た。日本時間から6時間戻してある。

真っ黒に日焼けした富田は微笑んだ。口から白い歯が見える。

「エチオピア人が普段使っている時間は6時間ずれています。つまり日本人とエチオピア人は同じ時間で生活してるんです、だから似てきたのかもしれませんね?」

富田はとても楽しそうに話した。 よく話す富田とは逆に玲架が無口になる。玲架心配だったけれど、富田に任すしかない。


アルトランガノの地熱発電所を見た山村が。アディスアベバのホテルに戻ったのは真夜中だった。車の後部座席で玲架はぐっすり眠っている。富田が呼びかけるが、玲架は目を覚さない。山村は、車の外で玲架が起きるのを待った。富田が車から出てきた。

「玲架どうしても起きないです。仕方ないから今日は連れて帰ります。山村さん、一人で大丈夫ですか?」

「もちろん僕は大丈夫です。玲架さんをよろしくお願いします」

「わかりました、では、明日の朝の9時にお迎えにきますので、この場所で待ち合わせでいいですか?」

「もちろんです」

翌朝、9時に山村はホテルのロータリーにいた。その時間に富田は現れなかった。玲架も乙然と姿を消した。


その日の夕方、山村はエチオピアの日本大使館に行った。玲架と富田が失踪した事を届けた。山村は、アルトランガノの日本企業に富田敬司の事を問い合わせた。しかし富田なる人物は何処にも存在しなかった。


山村は、何日も玲架を探した。しかし玲架の足取りはまるでつかめなかった。ビザが切れる前に帰国しないといけない。最後の日、山村はホテルのチェックアウトを済またあと、“ルーシー”に会おうと思った。午後の飛行機で日本に帰る。残っているエチオピアの通貨を使いきらなければならない。山村はタクシーを呼んだ。行き先はエチオピア国立博物館だ。


山村はエチオピア国立博物館に到着した。

続く





















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