第25話
「はい、何の誓約もなければ、同室にはしません。しかしあなたは約束を守る方です。というか約束を破る事が出来ない方と言うべきかしら。この契約書があるかぎり、あなたは私に指一本触れない、いや触れる事ができない」
玲架は威嚇するような厳しい表情で山村を見た。
「それとペットボトルの水以外飲んじゃだめですよ」
「はい、わかりました」
「よろしい、私はシャワーを浴びてきます」
玲架がシャワールームに入ってから、水の音が聞こえ始めた。山村はスーツケースの中からジーンズを取り出した。数分のち、シャワーの音が止んだ。山村はちょうどジーンズを片足通した所だった。そのタイミングで玲架がシャワールームから出てきた。玲架の体は何ひとつまとわない素肌のままだった。弾力のある艶やかな白い肌が山村の目の前で怪しく揺れている。濡れた髪をタオルで拭きながら山村の方に来た。そしてそのままベッドに飛び乗りシーツの中に体を埋めた。
「いいお湯だったわよ、順平もどうぞ」
「はい・・ボス」
シャワーを終えた山村が、リビングに向かうと玲架はシーツを体に巻き付けてすやすやと眠っていた。山村は、玲架に背中を向けたままベッドに横たわり目を閉じた。すぐ後ろに玲架がいると思うと眠れない。玲架の呼吸に合わせてシーツが動く。山村は朝方ようやく眠りに落ちた。次に目が覚めた時、玲架はすでにいなかった。時計を見ると朝の9時をすぎている。
「やばい、寝過ごした」
玲架はすでに富田と出かけたのだろう。山村は玲架の“駆け落ち”付き合っただけである。玲架の予定に合わせる必要はないのだ。玲架が眠っていた場所は少し窪んでいて、そっと手で触れると体温や匂いがまだ残っている。山村は大きく欠伸をしてから、ベッドから体を起こした。
11
山村はジーンズとシャツに着替え、パスポートお金スマホなど、貴重品を身につけて街歩きに出た。 アディスアベバは高度2400メートルの空中都市である。F1メキシコグランプリが開催される、メキシコシティの標高200メートルである。アディスアベバは、メキシコシティより標高が高く空気が薄いのだ。もしアディスアベバで自動車レースが行われたら、各チームはエンジンのセッテイングに随分苦労するだろう。
外はからりと晴れた良い天気だ。街には喫茶店もあるし、近代的な建物もある。渋滞するほどではないが自動車も走っている。
貧しい国と言うイメージだったけれど、人は元気だし町には活気がある。しかし初めて訪れた旅行者に対して、大抵の街はよそ行きの良い部分しか見せてくれない。
外務省のホームページによると2023年5月19日現在 アディスアベバの危険レベルは1である
現在エチオピアはアフリカの中では比較的政情は安定している国である。しかし十分な注意を要する場所である。 アディスアベバ市内では背後から首を絞められ意識を失っている間に貴重品を盗む「クビシメ強盗」が頻繁に発生しているらしい。また歩行中に唾を吐きかけたり物売りを装ったりして注意をひき、その間に携帯電話などの貴重品を盗む窃盗も増加していると言う事だ。
常に盗難の被害者となる可能性があるという事である。宝石類や現金、貴重なカメラや携帯電話などは外から見えない様にする。路上でキャンディやタバコ雑誌を売っていたり、助けを求めていたりする少年たちのグループは避ける事。旅行者の注意を引いて、その間に別のグループが窃盗を行うための手口である場合がある。
山村の前から見覚えのあるランドクルーザーがやって来た。 富田のランドクルーザーだ。
続く
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