第24話
「そうですか。それは光栄です、社長には随分お世話になりましたから」
何か裏があるとは思っていたが、あまりに平凡なオチだった。山村は、玲架を外国まで運ぶキャリアでしかなかったのだ。だが、そうと分かれば何も迷うことはない。しっかり旅を楽しめばいい。それだけだ。運転は富田だが山村は助手席に案内された。玲架は後部座席でうとうとしている。
「エチオピアは貧しい国です。しかしこの10年ほどの間に毎年10%ほどの経済成長をしています、山村さんどうしてかわかりますか?」
山村は首を捻った。玲架に連れて来られるまでエチオピアについて何も知らなったからだ。山村の目は、政治にも経済にも向かうことはなかった。
「すみません。わかりません」山村は素直に頭を下げた。
「エチオピアは、隣国のスーダンの様に地下資源はありません。しかし、アフリカで一番安定した国がエチオピアなのです」
「失礼ですが富田さんは、エチオピアで通訳で生計を立てておられるのですか?」
富田は声を上げて笑った。
「まさか、もっと日本の企業が来ればそれもいいですが、僕はエチオピアで地熱発電に関わるエンジニアをしています」
「あ、だから玲架さんと・・」
富田はラジオをつけた。心地よい音楽が流れてくる。
「エチオ・ジャズですよ」
ジャズの音色に、演歌のようなコブシのきいたハミングが乗った音楽が流れてきた。
「エチオピアの電力は水力発電に頼っています。しかし乾季には水力では発電できません、だから豊富な地熱資源を利用する発電所が必要になるのです」
「正直、エチオピアのアディスアベバがこんなに大都会だとは思いませんでした」
「都市が発達すると、エネルギーが絶対的に必要になります。ですから水力発電、地熱発電など自然の力を総動員してエネルギーを供給しています。それが僕の仕事です」
「石油ではないのですね」
富田は車を運転しながら、実によく話した。玲架の事など忘れている様に見えた。
「はい、でも最も機能的で効率的なエネルギー源はなんだと思いますか?」
「太陽光ですか?いや・・・」
少しの沈黙の後、富田は話題を変えた。
「時に、山村さんは今回、何のプロジェクトでアディスアベバに来られたのですか?」
山村は困惑した。玲架が富田に何を話したのか気になった。
「いえ、プロジェクトというか」
山村は、話を始めた。すると眠っていたはずの玲架が口を挟んだ。
「山村さんは、今仕事探してるのよ」
「無職?その年でキャリアがないのですか?人生詰んでるじゃないですか」
富田は、玲架でなく山村に尋ねた。
「今は無職だけど、必ずいい仕事を見つけるわ」
「ほんとですか?山村さん。無職なのに旅行ですか?優雅ですね」
話の中心はいつも富田だった。けれど山村は、富田と玲架の会話が全く理解できない。富田は山村の事を誤解している。そのうち車はホテルロベリアに到着した。山村と玲架は車から降りた。富田は窓を開けてる。
「玲架、明日の朝に8時に迎えにくるから、ゆっくり休んでてくれ」
富田は、窓をしめて車を発信させた。山村はてっきり富田と玲架は合流すると思っていたが、玲架がフロントで受け取った鍵は一つだけだった。
「玲架さんは、今夜てっきり富田さんと泊まられるものと・・」
「順平さん、私は彼とは泊まりません。第一彼には奥さんがいます」
玲架は平然と答える。そのまま山村と玲架はエレベーターに乗り込んだ。
「じゃあ、せめて別室で・・」
「あのね、こんな異国で女性一人で宿泊なんてそれこそ危険じゃないですか。その点順平さんなら絶対安全ですから」
「僕だって男ですよ」
山村は言い返した。
続く
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