第17話
2015年9月7日、真夜中すぎ、窓ガラスにバラバラ叩きつける雨の音で山村は目を覚ました。
外は窓も開けられない程のもの凄い雨と風だった。再びベッドに潜り込み目を閉じたが眠れない。山村は毛布にくるまったまま、誰もいない部屋の隅で独りで震えていた。子供の頃体験した阪神大震災の記憶を、大人になった今でも身体が忘れないのだ。
1995年1月17日、5:46分。阪神対震災の朝、今は無い実家のベッドで眠っていた山村は、ひどい違和感を覚えて目を覚ました。地震だった。地震はそれほど珍しくはないが、その日の揺れはいつもと違っていた。
いつまで経ってもしずまらない。長い揺れがいつまでも続いて、木造の家の柱がぎしぎしと恐ろしい音を立てている。山村が布団から顔を出すと、天井が確かに揺れている。それでも揺れは終わらない。
そのあと、ものすごい音がしてどこかで洋服ダンスが倒れる音がして、永遠みたいに長い揺れがようやく終わった。
山村の体はガタガタと震えていた。恐ろしくて山村はラジオをオンにした。いつもの明るいディスクジョッキーの声と軽快なポップミュージックの代わりに、
サイモン&ガーファンクルの「明日に掛ける橋」が流れてきた。山村は直感的に大変な事が起こった事を悟った。
時間は、2015年9月7日の夜に戻る。
その夜の暴風雨は、沖ノ鳥島東の海上で発生した台風18号が、日本列島中部を横断して温帯低気圧に変わったものの、その後やってきた台風17号と衝突した事で起こった、関東地方一帯を襲った大豪雨だった。
9月7日から9月11日までに降った雨は、関東で600ミリ、東北で500ミリ。茨城県常総市付近では、10日早朝から降り続いた雨のために、鬼頭川の水位が著しく上昇して、ついに堤防を越えて流れ出した。周りの田畑や民家は、上流から止まる事なく流れる濁流にみるみる冠水して行った。
道谷原発電所と鬼頭川の、二つの発電所の発電機が水没し、一部が損傷したため発電が停止された。その野岩鉄道会津鬼怒川鉄道が運休になった。
山村は、家のテレビ画面から雨の様子を見ていた。全半壊家屋5000棟がどういう意味を持っているのか理解できなかった。テレビの向こうでは堤防の決壊部分から、泥水が民家を飲み込んでいく。大変なことが起きている。
しかし、山村の思考はそこでストップしまうのだ。エンジンにリミッタがあるように。例え脳にリミッタがかかっても身体は恐怖を覚えている。
それ以上精神が深みに踏み込まないように、脳が山村の思考に制限に制限をかけているように思えた。時に脳が、無関心になる事で悲惨すぎる出来事から分の宿主を守るために。
2015年の夏以来、低緯度域から異常な暑さが続き、東南アジアや南米北部では記録的な雨の少なさだった。1014年以降エルニーニョ現象が発生して気温が平均より0.5度程度上昇していたが、2015年春からさらに気温が上がっていき、2015年12月には、平均気温のプラス3度上昇という異常な気温上昇を迎えていた。
続く
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