対価は池?
一通りログといちゃついて満足したカルメは、
「あ、そう言えばまだ聞くことがあったんだった」
と、サニーの方を向いて言った。
「何ですか?」
サニーは本心を隠すのが結構上手で、傍目からは優しく微笑んでいるように見える。
けれど実際のところは、「またコイツらの出汁に使われる!」という警戒に満ちていた。
しかし、そんなサニーの警戒に対してカルメが言い出したのは、意外なことだった。
「お前の家の庭に、池を作ってもいいか?」
「池、ですか?」
カルメの意外な問いに、サニーは首を傾げた。
つい瞳を覗き込んでしまうが、カルメの目からは何も読み取れない。
そんなサニーに、カルメはこともなげに説明した。
「ほら、私がいない間に何が起こるかわからないだろ? だから、魔法陣を仕込んだ池を作りたいんだよ。火事があった時とかに、自動で池から水が出て火事を消す、みたいなやつ」
「そんなものがあればありがたいですが、そんなことが可能なんですか?」
そのような夢みたいなモノを作ることができるとは思えず、サニーは怪訝な顔で首を傾げた。
だが、カルメは平然と頷いた。
「ああ、可能だ。村長の家は村の中心にあるから、そこに作れば村の中の全ての火事に対応できる。それに、日照りがあったら雨を降らせて、長雨になったら雨雲を霧散させられるようにもしておきたいんだ」
あっさりと言うカルメに、サニーは目をパチパチとさせた。
「すごいですね……ちなみに、その魔法陣はどのくらいもつんですか?」
「込める魔力の量にもよるから一概には言えないが、少なくとも一ヶ月はもつようにしていくつもりだ。魔法陣そのものは複雑だからな、壊れた際の修理は私にしかできないだろうし、月に一回はメンテナンスが必要だろうが。まあ、そんな感じだ」
カルメは淡々と説明をする。
自分のしようとしていることが世界でも有数の天才にしかできない偉業である、という意識がまったく感じられない。
このくらいできて当然だとすら思っている節がある。
「カルメさんは本当にすごい人です」
ログはそう言って、カルメの頭を撫でた。
カルメはログに褒められて事が嬉しくて、少し照れた。
「そ、そうでもない、普通だ。で、どうなんだ? 作ってもいいのか?」
「もちろんです。どうぞ、どうぞ!」
サニーが、サッと庭の方を指差すと、カルメは、
「じゃあ、作るぞ」
と言って両手を前に出し、魔力を溜め始めた。
両手の内側に涼しい青の光が集まっていく。
それと比例して、少し前にサニーが本を読んでいた木陰の場所にも光が集めっていく。
カルメが両手を勢いよく合わせて手を絡ませると、ボコンと音がして、木陰の上空に水の塊が出現した。
カルメが合わせた両手を思いっきり振ると、水の塊も地面にぶつかって大地が抉れる。
抉れた大地の上で、水がインクのように踊り、複雑で美しい文様を作っていく。
それが魔法陣の形を成すと、端の方からパキパキと凍っていく。
やがて、ポカリと空いた小さな穴の上に、氷でできた魔法陣が出現することとなった。
カルメはその穴の方へ歩み寄ると、魔法陣を見て満足げに頷いた。
「よし、成功だな」
嬉しそうに笑って、氷の魔法陣に魔力を注いでいく。
氷の魔法陣が美しい青で満ちると、ゴボゴボと音を立てて澄んだ水を湧き出させた。
あっという間に、小さな池が完成する。
「ふえ~、凄いですね。これで完成ですか?」
「ああ、見てろ」
そう言うと、カルメは少し離れた位置で大きな火の塊を出した。
すると、サニーが突然の火球に驚きの声をあげるよりも先に、池が一瞬強く光って水の塊を遥か上空に打ち上げた。
宙に浮いた水がクルクルと回転すると、そのまま勢いよく炎の塊の方まで飛んでいく。
炎とぶつかる瞬間に水そのものが変形し、炎を包み込む。
それはまるで、水が炎を食べてしまったようだった。
燃え盛っていた炎は完全に消えている。
池の水自体も減少していない。
あまりにも異様な光景を見たサニーは、口をぽっかりと開けて炎があった位置と池を交互に見つめた。
目をパチパチとさせて、見たものや起きた出来事を何とか脳で処理しようと必死になる。
ちなみに、ログは一度試作品を見ていたのでサニー程は驚いていないモノの、やはり感嘆をもって池を眺めた。
「まあ、こんなもんだ。これなら数日私が出掛けても問題ないだろ」
カルメはあっさりと言うと、炎を消すときに少し濡れた洋服を魔法で乾かした。
「そうですね」
ぽかんとしたまま、サニーが言った。
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