21時
街灯の少ない道を歩く二人を月が淡く照らす。
カラカラカラと彼の自転車の音が一定のリズムで響く。
「ほんとありがとね。遠回りになっちゃうのに。」
「この道とか暗くて怖いし心配やから。」
そんなことをさらりと言いのけてしまう彼の顔を見たくて右上を向くと、街灯に照らされた輪郭が浮かび上がっている。
声量を落として喋る彼の声はいつもより低めで心地よい。
「ほんと今日テンション高かったね笑あんなにハイなの見たことない笑」
「久しぶりやったからほんま楽しかった笑。変やったかな。」
「いや、変じゃない。なんか新しい一面って感じした。」
「ならよかった。俺今もほんとやばいもん。」
「というと?笑」
「理性ぶっ飛びそう。」
「え、?」
ほんとどういうつもりで言ってんのかさっぱりわからない。
そういうのってああいうときにしか言わないもんでしょ。
とにかく思考が散乱していたがなんとか平静を装う。
…装うことができたかは分からないが。
「どゆことよ笑」
「え?笑。だってさ暗い道で男女二人やで?笑」
「やからってそうはならんよ笑。ぶっ飛ばさんでよ笑。」
ここで“ぶっ飛ばしてみたら?”なんていう可愛い一言でも言えたらよかったのに、生憎そんなキャラではない私にはできなかった。
若気の至りでも再開のマジックでも夏の魔物でも理由なんてなんでもよかった。
今ならそんなものたちの所為にできたのに。
こんなことを考えてしまうくらいには惚れている。
それからも本当に他愛もない話をしながらゆっくりと歩いた。
歩幅も足を進めるスピードもいつもの半分だ。
歩いて10分で着くはずなのに20分はかかった。
家の前に着いてからも15分くらい喋った。
本当に二人の時間が心地よくて愛おしくかった。
「送ってくれてありがと。じゃあね。」
「全然。じゃあまた。おやすみなさい。」
「うん。おやすみなさい。」
この日、彼に一つ嘘をついた。
このとき歩いた道は普段使う道じゃない。
少しだけ遠回りになる道だ。
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