20時35分

 「っあぶねっー。」


 「まじごめん、いやもうほんと…笑ドジすぎて笑」


そうやって笑ってはいるが心の内は穏やかではなかった。

とにかく心臓がうるさい。

ほんの一瞬。ほんの一瞬だけ触れた体温がまだ身体に残って離れない。

平静を取り戻そうとすればするほどに自分がどんなテンションだったのかわからなくなっていった。ずっとふわふわと浮いているようだ。


 そうして解散前に撮った写真は変顔一名、少しぎこちない顔一名、爽やかな笑顔一名といったカオスめいたものになった。─いつものことだが。

少しの名残惜しさを残してその日はお開きになった。


 まだ少しうるさい心臓を抱えて考えた。


 帰り道は音楽を聴こう。とびきり甘くてとびきり切ない曲を。


しかしそんなプランは彼の一言によって一瞬で壊される。


「帰り心配だから送ってく。」


「え、?」


「え、?じゃなくて笑なんかあったら後悔するし、まぁ喋りたいし、?」


そんな一言でもドキドキしてしまう私は重症かもしれない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る